「5Gオフィス」実現の課題と、企業負担ゼロを原則とする電波対策のポイント:羽ばたけ!ネットワークエンジニア(72)
「5Gオフィス」とはオフィス内の有線LANや無線LANをなくして、スマートフォンもPCも全てキャリア5Gに接続したオフィスだ。最終的には企業ネットワークのほとんどをキャリア5Gに移行し、有線のネットワークをなくす。その方がコストを削減でき、拡張性やセキュリティも保ちやすいからだ。「5Gオフィス」の実現には、必要な場所で5Gの電波が使えるようにするため、携帯電話事業者による電波対策が不可欠だ。
電波対策は、5Gオフィスに限らずスマートフォン(スマホ)主体のクラウドPBXでも必要だ。あいおいニッセイ同和損保でも、三井住友銀行でも必要な拠点で電波対策をしている。クラウドPBXは電話なので4Gの対策だけで十分だ。
キャリア5Gの電波は、サービスエリア内であっても周波数が4Gより高く直進性が高いため、ビルの内部まで届かない。小規模な店舗やオフィスなら外部から5Gの電波が届くかもしれないが、高層の大型ビルではビル内の電波対策が必須だ。今やスマホのほとんどが5G対応であり、料金には5G利用料が含まれている。しかし、大規模ビルで働くスマホユーザーは電波対策をしない限り、5Gの料金を払っていても使うことはできない。
一方、ローカル5GでPCを収容する試みもある。ある自治体では庁舎の全フロアをローカル5Gエリア化(電波対策と同義)し、行政事務用PCをローカル5Gに接続して全職員をフリーアドレス化することを計画した。実際、全フロアのローカル5Gエリア化は完了したのだが、PCの接続は保留されている。保留となった理由はローカル5Gが使えるPCが高価であることと、ローカル5G無線機に同時接続できる端末数が64台と少ないことだ。
筆者は5Gオフィスにはローカル5Gよりキャリア5Gの方が適しており、実現性が高いと考えている。その理由は後述する。以下、キャリア5Gによる5Gオフィス実現のために必要な電波対策について述べる。
簡易な電波対策では5Gは不可
広範囲にオフィスや事業所を展開する企業が全社的に5Gオフィスやスマホ主体のクラウドPBXを導入する際には、各拠点で必要な電波が使えるかどうか携帯電話事業者に電波調査を依頼する。携帯電話事業者はある地点の5G/4Gの電波強度、容量が分かるデータベースを持っており、それを使って机上調査を行う。7割から8割の拠点は机上調査で電波がOKかNGか判別できる。残りの2割から3割は現地調査をして電波対策の要否を決める。
電波調査で対策が必要となった拠点は電波対策を行う。小規模拠点向けの簡易な電波対策として「レピータ」と「フェムトセル」がある。これらは4Gのみで5Gは使えない。レピータは電波の受信状態が良い屋上などにドナーアンテナを設置し、そこで受信した電波を同軸ケーブルで屋内のレピータに送信する。レピータは電波を増幅して発射する。
レピータの構成を図1に示す。
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