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三井住友銀行、次世代FMCで固定電話機を5万台削減羽ばたけ!ネットワークエンジニア(71)

三井住友銀行は「いつでもどこでも仕事ができる」ワークプレース改革を実現するために、マルチキャリア可能な次世代FMC(固定電話/携帯電話融合サービス)で電話基盤の再構築を進めている。

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 「三井住友銀行」(本社 東京、頭取 CEO〈代表取締役〉福留朗裕氏)は、コロナ禍以前の早い時期から働き方改革、ワークプレース改革に取り組んでいる。全国に約200カ所のサテライトオフィスを設け、グループ全体で約3万人がテレワークを実践している。現在ワークプレース改革の一環として、次世代FMCを使った、固定電話に縛られない新しい電話基盤の構築を進めている。

 システム統括部インフラ企画グループ長 山本陽太郎氏、インフラ企画グループ 板坂洋一氏に新しい音声基盤の目的や特徴などを伺った。



 本論に入る前に、筆者が「次世代FMC」という呼称を使っている理由を説明する。

 FMC(Fixed Mobile Convergence)は、スマートフォンが普及していなかった2010年以前に、携帯電話各社がフィーチャーフォンを対象に開発したサービスだ。携帯電話端末と企業内の固定電話機間の内線電話を、定額料金で使える。フィーチャーフォンが前提なので、ダイヤル操作でしか操作はできない。携帯電話から社内の固定電話に内線をかけるには、「特番」と呼ばれる番号(8がよく使われる)を押してから、内線番号をダイヤルする。

 現在も携帯各社はフィーチャーフォン時代のFMCサービスの提供を続けている。しかし、三井住友銀行が採用したFMCは、クラウドとスマートフォンが連携して高品質な通話や便利な機能を実現している。フィーチャーフォン時代からあるFMCと区別するため、「次世代FMC」としている。

導入の目的と構成

 三井住友銀行は、モバイルPC、ネットワーク環境の整備、オンライン会議の活用などで「いつでもどこでも業務ができる」はほぼ実現できていた。最後に残った課題が「固定電話による代表電話」だった。顧客や取引先から約500カ所の部門や支店の代表番号にかかってくる電話に出るためには、固定電話機のある場所にいなければならない。働く場所が固定電話に縛られるのだ。

 そこで、いつでもどこでもスマートフォンで代表電話を受電でき、また代表電話の番号で発信できる電話基盤を構築することにした。約10種類のクラウドPBXをはじめとするサービスを比較検討した結果、ソフトバンクが提案したエス・アンド・アイの「uniConnect」を活用した次世代FMCを採用することを、2022年3月に決定した。インフラ企画グループ 板坂洋一氏によると、採用理由は次の4点だという。

1 マルチキャリアが可能

 スマートフォンはどこの携帯電話事業者のものでも利用できる。三井住友銀行では複数の携帯電話事業者のスマートフォンを使っている。

2 音質が良い

 クラウドPBXのサービスは音声をインターネットで伝送するものが多く、ネットワークの状況次第で音切れなどの音質劣化が発生する。uniConnectは後述するように音声伝送にインターネットを使わないので音質が良い。

3 代表電話の0AB-J番号をそのままスマートフォンで使える

 03や06で始まる固定電話用の代表番号をそのまま利用できる。

4 電話基盤がダウンしても090/080で電話が使える

 uniConnectは東西のデータセンター(DC)でBCP(事業継続計画)構成を取っているが、万が一uniConnectが利用不能となっても、携帯電話単独で電話が使える。

 三井住友銀行の次世代FMCの構成を図1に示す。


図1 次世代FMCの構成(図版は筆者作成。図2、図3も同じ)
ONU(Optical Network Unit):光回線終端装置
VoIP-GW(Voice over IP-Gateway):固定電話機を接続する装置だが、電話機は接続していない。

 uniConnectはプライベートクラウドとして東西のDCにあり、サービス制御や電話の呼制御を担っている。スマートフォンにはクラウドと連携するuniConnectアプリを搭載する。次世代FMCの大きな特徴は、クラウドとスマートフォンアプリ間でサービス制御情報を送受するネットワークと、音声を伝送するネットワークを分けていることだ。サービス制御情報はインターネットで、音声は固定電話網/携帯電話網(両者は相互に接続されている)で送受する。

 本店/支店などの代表電話番号はDCに集約され、顧客がかけた電話はDCの電話回線(ソフトバンクの「おとく光電話」)に着信する。本店/支店には「おとく光電話」の回線設備(ONU/VoIP-GW)を設置しているが、VoIP-GWに電話機は接続しておらず、通話には使用していない。これはDCに代表電話番号を集約する上で総務省が定めている0AB-J番号(03などで始まる固定電話用の電話番号)の利用規制に従ったものだ。

 スマートフォンにはuniConnectアプリを搭載し、固有の内線番号が付与される。この図では5台のスマートフォンで代表グループを構成している。代表番号に電話がかかってくると5台同時に呼び出し音が鳴動する。各拠点に2台から3台設置される単独電話は次世代FMCとは独立しており、災害対策などに使われる。

 次世代FMCの導入は2023年第2四半期から始まっており、2026年度末に完了する予定だ。最終的に約3万台のスマートフォンが使われ、固定電話機約5万台が削減される。

高音質を実現する通話の仕組み

 次世代FMCの代表電話への着信と応答の仕組みを図2に示す。


図2 代表電話への着信と応答

 代表電話へ着信(「1」)すると、uniConnectは代表グループのスマートフォンの呼び出し音を鳴動させる制御情報を送信する(「2」)。スマートフォンAが受電するとuniConnectは他のスマートフォンの呼び出しを中止し、スマートフォンAは携帯電話網でuniConnectに発信して電話のリンクを張る。uniConnectは顧客からの電話とスマートフォンの電話を接続して通話が成立する(「3」)。

 このように次世代FMCでは顧客とスマートフォン間の通話に「顧客⇔uniConnect間」と「uniConnec⇔スマートフォン間」の2つの電話リンクを使う。外部から着信した電話に出るためにスマートフォンからuniConnectへ発信するため、通話料が発生する。三井住友銀行ではスマートフォンを通話定額で利用しているため、都度の通話料は発生しない。

 音声の伝送にインターネットを使わず、電話網を使うので、音質は電話網と同程度だ。ネットワークの混雑などで音質が損なわれることはない。

 代表電話番号を発信者番号とするスマートフォンからの発信の仕組みを図3に示す。


図3 代表電話番号を発信者番号とするスマートフォンからの発信

 uniConnectアプリから外部の顧客の電話に発信すると、ダイヤル情報などがインターネットでuniConnectに送信される(「1」)。uniConnectはスマートフォンとの間に電話リンクを張る(「2」)。この際、スマートフォンからuniConnectに発信させることもできるし、uniConnect側からスマートフォンに発信することもできる。スマートフォンを通話定額契約している場合は、スマートフォン側から発信させた方がコスト的に有利だ。

 次にuniConnectは顧客の電話番号へ代表電話番号を発信者番号として発信する(「3」)。スマートフォン側には呼び出し音が聞こえ、相手が受電すると通話が始まる。

クラウドとスマートフォンの連携で便利な機能を提供


図4 uniConnectアプリのホーム画面

 次世代FMCはクラウドとスマートフォンの連携で、通話だけでなくさまざまな便利な機能を実現している。例えば自分にかかってきた電話(内線電話)に対する転送の設定をuniConnectアプリ(図4)で簡単に行える。

 転送する時間帯を指定し、相手に聞かせるメッセージも自分の声で登録できる。転送の設定をすると、そのスマートフォンが代表グループに入っていても、uniConnectは自動的にそのスマートフォンをグループから除外する。在宅勤務などで代表番号の着信を受けたくない場合に利用すると便利だ。

場所にとらわれず03番号が使える点が好評

 導入済みの拠点では場所にとらわれず03などで始まる代表番号を使える点が好評だという。話し中にかかってきた電話も着信履歴が残るため、後でかけ直せる点も喜ばれている。

 一方、携帯の電波が届かなかったり弱かったりすると、電話が使えなくなったり音質に問題が出たりする。支店で午後3時にシャッターを下ろすと電波が弱くなる、といったことも起こる。電波による問題が出ないよう導入前に携帯電話会社に電波を調査してもらい、必要な場合は電波対策を取ってもらっているそうだ。

 三井住友銀行の次世代FMCの特徴は、電話網並みの高音質を実現している点と、クラウドとスマートフォンアプリの連携で便利な機能を実現している点だ。古いFMCを、クラウド時代、スマートフォン時代にふさわしい形で生まれ変わらせたのが次世代FMCといえるだろう。高音質と利便性の両立を図りたい企業にとって参考になるモデルだ。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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