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Azure Stack HCIの最新バージョン「23H2」リリース、デプロイ方法の大幅変更に注意!Microsoft Azure最新機能フォローアップ(214)

Microsoftは、「Azure Stack HCI バージョン23H2(2311.2)」の一般提供を発表しました。バージョン23H2ではデプロイ方法が大幅に変更され、システム要件も更新されています。デプロイ方法の変更に伴い、現時点ではバージョン22H2以前からのインプレースアップグレードはサポートされません(2024年内には可能になる予定)。

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Microsoft Azure最新機能フォローアップ

Azure Stack HCIとは?

 「Azure Stack HCI」は、オンプレミスのデータセンターに設置した“顧客所有のハードウェア”上で動作し、「Microsoft Azure」のサービスとして提供されるハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)ソリューションです。

 通常、Microsoftによる構成の検証と認定を受けた、さまざまなOEMハードウェアベンダーが提供する「統合システム」として導入し、WindowsとLinuxの「Hyper-V仮想マシン」(Hyper-V VM)をデプロイして実行できます。

 また、オプションで「Azure Kubernetes Service(AKS)」(「AKS on Azure Stack HCI」や「AKSハイブリッド」とも呼ばれます)や「Azure Virtual Desktop」(プレビュー)など、Microsoft Azureと一貫性のあるマネージドサービスも提供できます。

 さらに、オンプレミスのハードウェアで動作するVMでは、Azure VMと同じ「Azureハイブリッド特典」(所有OSライセンスのVMへの持ち込み)が利用可能で、レガシーOSへの「拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)」も無料で提供されます。

 「Azure Stack HCIシステム」は、Azure Stack HCIオペレーティングシステム(OS)を実行し、Microsoft Azureに接続されている単一サーバ(ただし評価/テスト目的のみ)、またはサーバクラスタ(2〜16ノード)で構成されます。Azure Stack HCIシステムは「Azureポータル」を使用して管理/監視したり、オンプレミスの「Windows Admin Center(WAC)」や「PowerShell」など、既存のツールで管理したりすることも可能です。

Azure Stack HCI バージョン23H2の新機能

 Azure Stack HCIは最初のバージョン「20H2(2009、OSビルド17784)」が2020年12月にリリースされ、2021年10月のバージョン「21H2(OSビルド20348)」、2022年10月のバージョン「22H2(OSビルド1194)」と、1年ごとに新バージョンがリリースされてきました。最新バージョン「23H2(2311.2、OSビルド25398)」は2023年11月に「23H2プレビュー(2311)」としてリリースされ、2024年2月1日(米国時間)にようやく一般提供となりました。

 「Azure Stack HCI バージョン23H2」は、クラウドベースのデプロイと更新、クラウドベースの監視、「Azure Arc」によるVMの管理、セキュリティ強化(「BitLockerドライブ暗号化」の有効化など)など、新しく簡素化されたエクスペリエンスに焦点を当てた最新バージョンです。主な新機能は以下の通りです。

■クラウドベースのデプロイ
・Azureポータルまたは「Azure Resouce Manager(ARM)」テンプレートによるデプロイ

■クラウドベースの更新
・OS、エージェント、Azure Arcソフトウェア、OEMドライバとファームウェアに関する全ての更新プログラムが月次更新プログラムにパッケージ化

■クラウドベースの監視
・「Azure Monitor」との統合、システムインサイトとの統合

■Azure Arc VM管理
・Arcリソースブリッジのデプロイの簡素化、静的IPのサポート、Azure Arc VMのトラステッド起動による保護

■セキュリティ強化
・ベースラインセキュリティの強化、「SMB(Server Message Block)署名」とBitLockerドライブ暗号化によるデータとネットワークの保護、「Windows Defenderアプリケーション制御」の有効化(既定)

■キャパシティー管理
・ノードの追加、削除、修復をPowerShellから実行可能

■ストレージの最適化
・ReFS(Resilient File System)重複除去と圧縮

■Webプロキシのサポート

■gMSA(グループ管理サービスアカウント)要件の削除

■「Azure Kubernetes Service(AKS)ハイブリッド」の機能強化
・AKSハイブリッドのデプロイの簡素化
・AKSハイブリッドコンポーネントのクラウドベースの管理と更新
・AKSハイブリッドでの「Azure Container Registry(ACR)」のサポート
・新しい一貫性のあるAzure CLI(コマンドラインインタフェース)


クラスタデプロイ方法の大幅な変更

 Azure Stack HCI バージョン23H2は、システム要件やデプロイ方法に注意するべき変更点があります。

 システム要件では、OSのインボックス(同梱《どうこん》)ドライバを使用するネットワークアダプターの使用がサポートされなくなった点に注意が必要です。PowerShellで「Get-NetAdapter -Name <アダプター名> | Select *Driver*」コマンドレットを実行して、「DriverProvider: Microsoft」が返ってきた場合はインボックスドライバです。例えば、Hyper-V VMの既定のネットワークアダプターである「Microsoft Hyper-V Network Adapter(netsvc.sys)」は、インボックスドライバであるためサポートされません。

 「Azure Stack HCI バージョン22H2」までは、Hyper-V VMやAzure VMを使用して評価やテスト用のAzure Stack HCIクラスタを構築できましたが、Azure Stack HCI バージョン23H2は、Hyper-V VMではクラスタを構築できません。まだ確認はしていませんが、Azure VMの高速ネットワークアダプター(Mellanox ConnectX-4 Lx Virtual Ethernet Adapter、Driver Provider: Mellanox Technologies Ltd.)を使用すれば、対応できるかもしれません。

 また、デプロイ中にBitLockerドライブ暗号化でデータを保護するため、トラステッドプラットフォームモジュール(TPM)も必須になります。

 Azure Stack HCI バージョン22H2までは、WAC(またはPowerShell)を使用してAzure Stack HCIクラスタをデプロイしましたが、Azure Stack HCI バージョン23H2はAzureポータルまたはARMテンプレートを使用したデプロイ方法に変更されました。

 筆者はハードウェアを用意できないため、実際にデプロイしたわけではありませんが、Azureポータルを使用する場合は、以下のドキュメントの手順に従って「Active Directory」環境を準備し、「Azure Stack HCI」ブレードからAzure Stack HCI OSのインストールメディア(ISO)をダウンロードします(画面1)。

画面1
画面1 Azureポータルの「Azure Stack HCI」ブレードからAzure Stack HCI バージョン23H2英語版(推奨)のインストールメディアをダウンロードする

 各国言語に対応したローカライズ版が用意されていますが、ローカライズの影響でデプロイが失敗する可能性を回避するために、「英語」版をダウンロードすることを強くお勧めします。Azure Stack HCI OSは「Server Core」ベースですし、OSのインストールとトラブル対応時にしか対話的にログインすることはないため、日本語環境が使用できなくても問題ないでしょう。

 システム要件を満たすハードウェアにAzure Stack HCI OSをインストールしたら(画面2画面3)、全てのサーバをAzure Arcに登録し(PowerShellスクリプトの実行)、Azureポータルから「クラスターのデプロイ(Deploy cluster)」をクリックして、デプロイウィザードに従ってクラスタのセットアップとAzure ArcへのAzure Stack HCIシステムの登録します(画面4)。

画面2
画面2 認定ハードウェアにAzure Stack HCI OS バージョン23H2(2311)英語版(推奨)を新規インストールする
画面3
画面3 OSを最新状態(GAビルド2311.2)に更新してから、Azure Arcへのサーバ登録、Azureポータルからのクラスタのデプロイへと進む
画面4
画面4 Azureポータルから「クラスターのデプロイ」を実行し、「Azure Stack HCIのデプロイ」ウィザードに従ってセットアップを進める

 ここでは、Azureポータルの表示言語を原因とした失敗の可能性(ネットワークインタフェース名やインテントに日本語が含まれるなど)を回避するために、Azureポータルの表示言語を「English」に切り替えて実行することをお勧めします(注:日本語で問題が発生することを確認しているわけではありません)。

 なお、Azure Stack HCI バージョン23H2の一般提供開始時点でAzureポータルからダウンロードできるのは、2023年11月にリリースされた「バージョン23H2プレビュー(2311)」のISOメディア(OSビルド25398.469)から変更されていません。

 OSをインストールしたら「Sconfig」ユーティリティーで「Windows Update」を実行し、全ての更新プログラムをインストールして最新状態にした後、Azure Arcへのサーバ登録とクラスタのデプロイへと進めることで、GA(一般提供)バージョン23H2(2311.2、OSビルド25398.643)のクラスタを作成、登録できるようです。

バージョン22H2からのインプレースアップグレードは年内提供予定

 現状、Azure Stack HCI バージョン22H2のAzure Stack HCIシステムを導入済みの場合は、Azure Stack HCI バージョン23H2へのインプレースアップグレードがサポートされていないことに注意してください。インプレースアップグレードはテスト中であり、早ければ一部の顧客に対して2024年3月に提供され、その後、2024年内に全ての顧客に拡大される予定です。それまでは、バージョン22H2のサポートは継続されるとのことです。

 Microsoftは、Azure VM環境にAzure Stack HCIの各機能を評価するためのラボ環境を簡単にデプロイして試用できる「Jumpstart HCIBox」を提供しています。現在はAzure Stack HCI バージョン22H2ベースですが、今後、バージョン23H2ベースのものに置き換えられる予定です(画面5)。

画面5
画面5 現在のJumpstart HCIBoxはAzure Stack HCIバージョン22H2ベース。今後、バージョン23H2ベースのものに置き換えられる予定

筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2024(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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