人材不足前提のハイブリッドクラウド運用、あるべき理想形を探る:「最適化」「効率化」「標準化」で実現
利用が拡大しているハイブリッドクラウド。だが、運用がバラバラでコストが増大し、人手も足りないといった課題も顕在化してきている。ハイブリッドクラウドを効率的に管理し、最適なITインフラを実現するには、どのような姿が理想形となるのだろうか。
限界を迎えつつあるITインフラの運用体制
日本でも、コロナ禍とテレワークの浸透、新規サービス開発やデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を機に「クラウド」を活用する企業が増加した。
クラウド利用が進んできたとはいえ、全てのシステムをパブリッククラウドに移行するのは容易ではない。その中で“現実解”となっているのが、オンプレミスや複数のクラウドを適所適材で組み合わせて活用する「ハイブリッドクラウド」だ。IDC Japanの調査によると、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を利用する企業ではさまざまなベンダーのクラウドを使用する率が増加し、2023年には85.9%に上るという(※)。
では、その運用の実態はどうなっているだろうか。
登場した当初こそ、「簡単に構築して利用できる」というイメージが強かったクラウドだが、セキュリティリスクへの対処や運用が年々複雑さを増している上に、ハイブリッドクラウドでは複数のITインフラを管理しなければならず、その点も課題となる場合が多い。そのためか、ハイブリッドクラウドを統合管理している企業はわずか23.2%にとどまるという(※)。
複数のクラウドを利用していても、運用はバラバラ……そんな体制が限界を迎えつつある。複雑さを増すITインフラを効率的に管理し、企業ごとの要件に最適なITインフラを目指すには、どのような運用が必要なのだろうか。本稿では、クラウドを個別運用する企業が抱える課題や、「ハイブリッドクラウド運用の高度化」、統合管理の理想形などについて、具体的な事例を交えて解説する。
【※】出典:IDC Japan, 2023年11月「2023年 国内クラウド需要調査」(JPJ49897723)
QCDの観点から、統合管理は必須に
ハイブリッドクラウドの運用は煩雑になりがちだ。インフラによって管理ツールが異なるため、状況を把握するためには複数のツールを使って確認しなければならない。複数クラウドで連携する業務アプリケーションなどがあると、その管理はさらに複雑になる。
「設定ミスなどのヒューマンエラーも発生しやすくなります。QCD(品質、価格、納期)の観点から、統合管理が必要です」と話すのは、富士通の朝倉裕樹氏(Hybrid-IT事業本部 クラウドサービス事業部 マネージドサービス部 部長)だ。
複数クラウドを利用する際に特に課題となるのが、コスト管理だ。「増え続けるコストを削減できないか」「個別にクラウドを利用する中で無駄が発生していないか」、また、ソフトウェアライセンスについても「どこで、どのライセンスを利用しているのか」「適切に利用できているのか」を把握し切れないことが課題となる。
こうした状況に人材リソース不足がさらに追い打ちをかけている。「パブリッククラウドは急な仕様変更があり、調査、対応が必要になることもあります。パッチ適用の管理、障害トラブルへの対応などもあり、もはや1人の担当者で全て運用できる時代ではありませんが、人材は枯渇し、必要な人材リソースを確保できないことも多いようです」(朝倉氏)
運用高度化のポイントは「可視化」と「自動化」
「複雑化」「コスト増」「人材リソース不足」――このような状況から脱却するには、運用自体を高度化する必要がある。そこでポイントとなるのが「可視化」と「自動化」の2つだ。
「まずは、異なるITインフラの管理ツールを統合して、可視化することが重要です。異なる管理画面を行き来して設定する状況はミスにもつながりやすい。ただ、可視化といっても、人によって必要な情報は異なるので、責任者にはサマリーを表示するなど、ロールによって見せ方を変えるべきです。必要としている情報をすぐ確認できる、その上で詳細をドリルダウンで深掘りできることがポイントです」(朝倉氏)
自動化には、プロビジョニング(サービスの需要に応じて、サーバーやストレージなどITインフラ設備を調達、設定すること)やインシデント(障害などが発生する恐れのある事態)対応など、さまざまなケースが想定される。例えば、インシデント発生時の運用作業として再起動を実施しているケースなどでは、再起動などの処理の自動化が可能となる。これにより担当者は「インシデント」の把握と分析の対処だけとなり、マシン作業のための要員確保や時間を削減でき、大きな負担軽減となる。
「自動化の技術で、人手がかかる作業を極力減らすことができます。運用の高度化では、テクノロジーでQCDを向上させることが重要です。富士通が最終的に目指すのは、運用を完全に自動化する“NoOps”だと考えます」(朝倉氏)
こうしたハイブリッドクラウド運用の高度化を支援するのが、「Fujitsu Cloud Managed Service」(以下、FCMS)だ。富士通が長年クラウドを運用してきた知見を注ぎ込んだ運用支援ツール群と、SRE大学(※)で育成した人材や経験豊富な人材による運用サポートによって、ハイブリッドクラウドの統合管理を実現する。
【※】SRE大学:次世代運用のベストプラクティスであるSRE(Site Reliability Engineering)を
体系的に学ぶための教育プログラム
FCMSは、「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」、そして「VMware製品」ベースのプライベートクラウドと多様なITインフラに対応している。将来的にはオンプレミスや他のクラウドサービスとの連携も視野に入れており、複数のクラウドインフラをまさに統合して管理できるようになる。
また、FCMSではただ統合管理するだけでなく、先述の可視化と自動化の技術を基にした「最適化」「効率化」「標準化」の3つを実現する。
特長1:ツールと人で企業ごとの「最適化」を実現
最適化は、富士通がグローバルで長年培ってきた運用の実践知を、ITSM(IT Service Management)、監視、可視化の機能にあらかじめ組み込むことで、各企業はサービスを利用するだけで運用の最適解を享受できる。ここでポイントとなるのは、ツールだけでは終わらないことにある。
「導入した時点で最適な運用が可能なインフラを構築したとしても、インフラも運用も必ず変化していきます。古くなったテクノロジーが廃止されたり、より便利な技術が登場したりと、インフラ自体に変更が必要なことが出てきます。FCMSは、クラウドアーキテクトの技術支援やクラウドサービスマネージャなどによるインフラ運用支援もオプションで提供していることが特長です。また、自動化し切れないプロセスなどは、オペレーターによるマニュアル対応も可能です」(朝倉氏)
インフラ運用はツールさえ導入すればよいというものではないだけに、こういった“人”によるサポートがあることは、運用開始後を視野に入れた最適な導入が自社だけでは難しい企業にとって大きなメリットとなる。
特長2:自動化技術による徹底した「効率化」
FCMSの2つ目の特長として挙げられるのが、自動化技術による効率化だ。ランディングゾーン(クラウド環境)へのデプロイや変更管理とエンハンス、インシデント管理、ログ管理と監視、パッチ適用とバックアップ、資産管理といった運用に必要な業務を自動化。DevOpsやAIOps、IaC(Infrastructure as Code)を活用することで、徹底した効率化を実現する。上述したインシデント発生時の自動化も効率化の一環だ。
他にも、プロビジョニングなども自動化できる。従来、「Microsoft Excel」「Microsoft Word」などの資料ベースで設定情報を記載し、申請、承認を経て、運用担当者が資料を見ながらインフラを構築していた。FCMSを利用することにより、ユーザーはポータルからの申請時に決められたパラメーターを入力するだけとなり、管理者の承認をもって自動でインフラを構築できるようになる。また、設定内容の中にはパッチ適用のタイミングなどもIaCを用いて構築時に自動設定するため、以降の運用の自動化につなげることも可能だ。さまざまな業務について、可能なところを極力自動化することで、大きな効率化につながっていく。
特長3:グローバルでの「標準化」がもたらすメリット
FCMSの3つ目の特長は、グローバルレベルでの標準化だ。「富士通では、特に標準化を推進しています。これまで、日本では業界特性や企業ごとの文化に合わせた個別最適が求められてきましたが、クラウド利用が進む中で、標準化を進める土台が整ってきたと感じています」(朝倉氏)
実は、FCMSは海外で先行して提供を開始しており、もともと海外の各国や地域ごとに個別提供していたハイブリッドクラウド運用サービスを集約したサービスとなっている。
「それぞれ利用するツールが違っていたのを、全て統合することで、ボリュームディスカウントなどコスト面でもお客様にメリットを提供できるようになりました。また、多くのお客様が利用することで、エラーやバグへの対応も加速します。さらに、お客様からのニーズには個別に対応するのと併せ、要望が多いものは機能として組み込むこともあります。グローバルで標準化することで、サービス進化のスピードが速まるなどメリットも多いです」(朝倉氏)
IT部門で24%の業務効率化を達成した導入事例
ここで、FCMSの導入事例を紹介しよう。英国でホテルやレストランをチェーン展開するWhitbread plc(以下、Whitbread)は、データセンターからMicrosoft Azureに移行した。運用の効率化、意思決定の迅速化が課題になっていたことに加え、IaCなどの自動化技術を活用し、運用コストのさらなる削減を図れないかと考えていたという。
FCMSを導入したWhitbreadは、プロビジョニングやリソース管理にIaCを活用し、インシデント対応の83%、パッチ適用やバックアップ作業の95%を自動化。100人以上のITメンバーに対して、全体で24%もの業務効率化につながっている。
また、従業員からのITに関する問い合わせに対するサポートデスクサービスも活用。電話だけでなく、Webチャットなどさまざまな手段から最適なものを選んで問い合わせできるように整備することで、タイムリーな対応を実現している。
さらに、問い合わせデータを分析し、問題を未然に防ぐプロアクティブサポートによって、継続的に運用を改善し、業務に集中できるインフラ作りにもつなげている。優れた意思決定と効率性の実現、新サービスの市場投入までの時間短縮といった導入効果が表れており、「ホテルやレストランのチームをサポートし、お客様の対応に集中して、質の高いサービスを提供できるようになる」と評価されている。
このような実績があるFCMSだが、その特長について、特に標準化や自動化といった言葉に抵抗を覚える方もいるかもしれない。「自社に合わないのではないか」「本当に任せて大丈夫なのだろうか」「標準の範囲を超えた部分は対応してもらえないのではないか」など懸念もあるだろう。富士通では、標準化で得られるコストメリットなどを最大限生かしながらも、企業ごとに個別の事情にも柔軟に対応して最適化できる体制を整えている。
「標準化で対応し切れないものは最適化も含めて検討します。ノウハウを持つクラウドアーキテクトなどの役務も含めて提供することがFCMSの特長です。標準の部分しかやらないなどの線引きはなく、お客様ごとにハイブリッドクラウド運用の最適化に並走するので、ぜひ安心してお任せいただきたいです」(朝倉氏)
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月22日