最適解は「コード補完」から「自動化ワークフロー」へ? 有識者が予測する“生成AIの今後”とは:早期に導入した企業にこそ起こる課題も
TechTargetは「生成AIアプリケーションの動向」に関する記事を公開した。2024年に開催された「Google Cloud Next '24」では生成AIに関する多くの情報が公開された。期待が高まる生成AIアプリケーションだが、その進化は速く、それに伴う課題も生まれている。
TechTargetは2024年4月9日(米国時間)、「生成AI(人工知能)アプリケーションの動向」に関する記事を公開した。2024年4月9〜11日にGoogleが開催した「Google Cloud Next '24」の内容を基に、目まぐるしく進化する生成AIの動向と、今後の展開について有識者の見解を紹介する。
Google Cloud Next '24では、同社のサービスに関するさまざまなアップデート情報が公開されたが、ほとんどは生成AIに関するものだった。例えば開発者向けのAIコードアシスタント「Gemini Code Assist」とIT運用者向けの「Gemini Cloud Assist」は、2024年2月にリリースされたGeminiモデルに基づいている。これらのサービスは、2023年のカンファレンス(Google Cloud Next '23)で発表された「Duet AI for Developers」(Geminiより古い「Palm 2」モデルに基づいている)に取って代わるものだ。
Gemini 1.5 Proの特徴は、長いコンテキストウィンドウだ(訳注:試験的に100万トークンを提供)。ビデオなら約1時間、オーディオ(音楽)なら11時間、コードなら3万行、単語なら75万語を一度に要約、分析、分類できる。「この特徴により、最終的には検索拡張生成(RAG)に取って代わる可能性がある」と予測するアナリストもいる。
しかし、Google Cloud Next '24で発表された内容を見ると、RAGは健在だ。企業固有のデータに基づいてAI分析の精度を向上させられるように、Googleは「Vertex AI」でRAGのサポートを強化した。また、Vertex AIはAIモデルのライブラリ「Vertex AI Model Garden」で、Gemini 1.5 Pro以外にも多くの大規模言語モデル(LLM)をサポートしている。開発者は用途に合わせ、さまざまなモデルを比較検討できる。
Google Cloud Next '24の発表でGoogleはノーコードツール「Vertex AI Agent Builder」も発表している。これを使うことでユーザーは生成AIベースのマルチステップワークフローを自ら構築できるようになる。Vertex AI Agent BuilderはRAGの他、Google検索、「Workday」「Salesforce」などのサービス、ベクトル検索ツールやGoogleデータベースとの連携ができる。
開発ツールベンダーの間では、プライベートなコードベースを生成AIに参照させるなどして、コードアシスタントに特定ドメイン(ローカルコンテキスト)の情報を認識させる使い方が広がっている。例えばJetBrainsは同社のIDE(統合開発環境)に、ローカルで実行されるコードアシスタントを追加している。
Forrester Researchのアナリストであるデビン・ディッカーソン氏は「まだ初期段階だが、コンテキストを認識するAIツールは価値あるものになると考えられる」と述べている。
「ただ、開発者のコーディングスタイルやアプリケーションの『ルック・アンド・フィール』(見栄えと使いやすさ)、特定のスタイルガイド、社内のプラクティスなど細かな点で齟齬(そご)が生まれないよう注意が必要だ」(ディッカーソン氏)
目まぐるしい生成AIの進化
Googleをはじめとするクラウドベンダーはモデル自体をホスティングするよりも、企業がアプリケーションに生成AIを組み込むことを推奨しており、そのための(コスト効率の良い)検証方法を提供している。
一方、生成AIを取り巻く環境の変化は速く、LLMでいえば、1年前のものが旧式扱いとなっている。GoogleのDuet AI for Developersなどの製品を早期に採用した企業は、現在Geminiツールへの置き換えを考えなければいけなくなっている。また、生成AIには「ハルシネーション」(幻覚)の問題がある。いち早く生成AIに取り組む企業は早急に対策をしなければならず、RAGなどのツールは依然として必要だ。
ディッカーソン氏によると、「『ソフトウェアベースの製品やサービスに、生成AIを活用した自動化を組み込まなければならない』という大きなプレッシャーを感じている企業が多い」という。もし、自動化が期待通りに実現すれば、コールセンターからソフトウェア開発までのワークフローが飛躍的に効率化できるからだ。だが、現実には多くの企業が「安全に生成AIを組み込む方法」を見つけるのに苦労している。
「われわれの顧客からは、イノベーションに向けて最適なポジションを築く方法だけでなく、将来への備えについての質問が多く寄せられている。なぜなら、生成AI関連技術は急速に進化しているため、数年後にどのような製品やサービスが残っているかが分からないからだ。『特定の実装や製品に依存しない、再利用できるAIアプリケーションを構築するにはどうすればいいか』といった質問を受けている」とディッカーソン氏は語った。
こうした不安に明確な答えはない。ディッカーソン氏も「こうした課題を解決する処方箋はない。答えを得たいのであれば、実際のアーキテクチャをレビューし、全てのサービスを調べるしかない」と語った。
ガートナーのアナリストは「AIエージェントの波」を予測
急速に進化する生成AIアプリケーション開発についてさまざまな議論が交わされている。ある業界の専門家は「議論の中心は、特定のモデルや出力の調整に関するものから、アプリケーションをつなぎ合わせてワークフローにまとめる方法へと移っていくだろう」と予測している。
Gartnerのアナリストであるチラグ・デケート氏は、「こうした“ワークフローの実行者”を『エージェント』という。彼らは『LangChain Agents』やMicrosoftの『AutoGen』、そしてVertex AI Agent Builderなどのプロジェクトを通じて、ITのメインストリームに参入し始めている」と述べる。
同氏によると、Googleは、AIコードアシスタントにおいて、今でもMicrosoftに対して苦戦を強いられている。一方、Amazon Web Services(AWS)のAIサービス「Amazon Bedrock」は既にモデル評価機能を提供している。しかし、「Googleは、生成AI開発の次の段階において、主要なクラウドのライバルを打ち負かすチャンスがある」とデケート氏は言う。
「Vertex AI Model Garden、『Gemini for Google Cloud』『Google Workspace』を相互接続する“エージェントエコシステム”と、サードパーティーの“コネクテッドエコシステム”を相互接続することで、ユーザーは真に変革的なワークフローの自動化技術を使用して、企業内で生成AIを構築できるようになる。Salesforceを既存の見込み客データベースと既存の収益予測ベクトルに接続し、シンプルな営業ワークフローを構築することを想像してみると分かりやすいだろう」(デケート氏)
同氏はこうした「エージェントに関する動き」が今後3〜6カ月の間で活性化し、多くの関心を集める(デケート氏は「a wave of hype」と表現)と予測。こうした“波”が起こった後、エージェントは「AIアプリケーション開発とソフトウェア開発のライフサイクル全般に真の価値を付加するようになる」という。
「これはコード生成を超え、コード補完を超えるものだ。全ての煩雑な作業はエージェントが自動化または統合する。ソフトウェア開発者は、プロセスからの出力を監視し、必要に応じて修正すればいい。そうすれば、エージェントがより正確なコードを提供するようになるだろう」(デケート氏)
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