ネットゼロを目指す企業にとって持続可能なITが不可欠な理由:Gartner Insights Pickup(361)
カーボンニュートラルやネットゼロに注力する企業は多い。この取り組みの中で注目せざるを得ないのが、ITのサステナビリティだ。IT関連のエネルギー消費が急増を続ける中、企業が持続可能なITを実現することの重要性は、今後ますます高まる。
米半導体業界の研究コンソーシアムSemiconductor Research Corporation(SRC)と国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)によると、企業がデジタルビジネスへの取り組みを開始した2010年代初頭には、ICTは世界のエネルギー需要の0.1%しか占めていなかった。だが、2030年には、AIやデバイス、データ、半導体、センサーの急速な利用拡大など、さまざまな理由により、この割合は6.4%に上昇する見通しだ。
デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略では、環境への影響は見過ごされがちだ。だが、企業がネットゼロ(※)目標を達成するためには、持続可能なITが不可欠だ。温室効果ガス(GHG)排出量、水資源、廃棄物、生物多様性に対する企業活動の悪影響を軽減するからだ。
インフラとオペレーション(I&O)のリーダーが自社の持続可能性目標の達成に貢献するには、持続可能なITのロードマップが必要になる。I&Oリーダーは、2020年代にネットゼロを達成することはできないだろうが、現在研究開発が行われている技術は、2030年代にネットゼロへの進捗(しんちょく)を加速させるのに役立つだろう。
企業の課題は、環境持続可能性目標の達成に向けて「カーブを曲げる」ことだ。IT関連のGHG排出量は増加し続けているが、これを削減する必要がある。
IT関連のGHG排出量とその増加の現状を評価することが、良い出発点になる。これに基づき、I&Oリーダーは、データセンターやクラウド、デジタルワークプレースを含む持続可能なITへの道筋を定めるとともに、データとソフトウェアに関する持続可能な意思決定への影響力を確保する計画を立てる必要がある。
データセンターとクラウド
ほとんどの企業は、パブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミスデータセンターを含むハイブリッドクラウド環境を利用している。ハイブリッドクラウドの持続可能性を高める機会はたくさんある。
企業が持続可能性に新たに取り組む場合、オンプレミスデータセンターへのインパクトが大きい施策としては、メトリクス(指標)の見直し、ワークロードの棚卸し、コンピュートとストレージの利用、“ゾンビ”機器の処分などが挙げられる。
データセンターの持続可能性の向上策は他にもたくさんあるが、企業が今すぐ打てる最善手は「供給の効率化」から「需要の管理」に重点をシフトすることだ。つまり、常時稼働から常時利用へ移行し、ワークロード需要とデータガバナンスのバランスを取ることだ。
持続可能性のためだけにクラウドに移行する企業はないが、一部の経営幹部は、GHG排出量を大幅に減らせる可能性を理由に、クラウドへの移行を加速させている。オンプレミスデータセンターからパブリッククラウドに移行することで、特定の条件下では長期的に、GHG排出量を最大70%削減できるからだ。
だが、パブリッククラウドの持続可能性は、無条件に保証されているわけではない。クラウドを持続可能にする責任はベンダーにあるが、企業はクラウドを持続可能な方法で利用する責任を負う。
デジタルワークプレース
通常、デジタルワークプレースは、他のどの技術機能よりもGHG排出量が多い。GHGは製造から流通、使用に至るまでの全てのプロセスで発生する。
I&Oリーダーは、デバイスのライフサイクルを延ばし、再生品を購入し、デバイスをデフォルトで省電力モードにすることで、デジタルワークプレースの持続可能性を向上させられる。だが、IT部門の責任は半分だ。従業員も、自らが関わるデジタルカーボンフットプリント(デジタル技術の二酸化炭素排出量)の削減に取り組む必要がある。
従業員教育は、そのための優れた出発点になる。従業員は一般的に、ITのGHG排出に対する自分たちの影響を考えないからだ。それは気にしていないのではなく、考えが及ばないことによるものだ。従業員教育では、持続可能なデジタル体験を通じて、より持続可能な方法で技術を使用するよう啓発することに力を入れる必要がある。
データ
I&Oリーダーは、自社のデータを直接管理することはないが、データがデータセンターのストレージに与える影響を測定したり、データとアナリティクスのリーダーと連携し、持続可能性への悪影響の削減に取り組むことはできる。
データは資産であり、競争上の差別化要因だが、エネルギー消費が増大する大きな要因でもある。データがネットワーク上を移動すると、問題がさらに悪化する。データをネットワークでやりとりしたり、クラウドに送受信したりすると、多くのエネルギーが消費される可能性がある。
クラウドはデータ問題を解決しない。データの持続可能性向上への最良のアプローチは、根本的な問題に対処することだ。その中には「データ移動を最適化する」「不要になった物理的なデータフローを停止する」「必要とされる場所の近くにデータを置く」といったことが含まれる。
ソフトウェア
ソフトウェアにも大きな非効率があり、多くの場合、ハードウェアチームにそのツケが回る。持続可能なソフトウェア(「グリーンソフトウェア」とも呼ばれる)は、エネルギー効率が高く、新しいコンテキストに適応する。だが、非常に複雑なトピックであり、さまざまな要素を含んでいる。例えば、新しいシステムにおける持続可能性を考慮した設計、持続可能性に配慮しているエコシステムパートナーの発見、クラウドやデータセンターによる持続可能なホスティングサービス、低炭素/無炭素の電力供給業者などだ。
ソフトウェアは、適切な場所とタイミングでエネルギー効率の高いハードウェア上で実行することが重要だ。地域のエネルギー供給の炭素強度(売上高当たりの二酸化炭素排出量)は、国、発電事業者、時間帯、天候、送電契約、発電技術、燃料供給などの要因によって異なる。
さらに、ソフトウェアはハードウェアに近ければ近いほど、より効率的になる。ソフトウェア開発方法論は一貫して、ハードウェアから遠ざかることを選択してきた。そのおかげで、洗練されたソフトウェアアプリケーションが開発しやすくなった。だが、その半面、基盤となるハードウェアに多くの作業が残され、より多くのエネルギーを使用して、それらが実行されている。
出典:Net zero path to sustainable IT(Gartner)
※この記事は、2024年4月に執筆されたものです。
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