「君の仕事を奪うのはAIではない、AIの使い方が上手い人だ」残る職種は? AIが生む新たな職種とは? IDC予測:1ドルのAI支出が世界で4.60ドルの経済効果を生む要因
IDCは、世界の経済と雇用の観点からAIの影響を評価した調査報告書を発表した。企業がAIを導入して既存の業務運営に活用し、顧客により良い製品やサービスを提供するための支出が、2030年までに累計19.9兆ドルの経済効果を世界にもたらすという。
調査会社IDCは2024年9月17日(米国時間)、世界の経済と雇用の観点からAI(人工知能)の影響を評価した調査報告書「The Global Impact of Artificial Intelligence on the Economy and Jobs」を発表した。その中で同社は、企業がAIを導入して既存の業務運営に活用し、顧客(企業や消費者)により良い製品やサービスを提供するための支出が、2030年までに累計19.9兆ドルの経済効果を世界にもたらし、2030年の経済効果は世界GDP(国内総生産)の3.5%を占めると予測している。
その結果、AIは世界のあらゆる地域の雇用に影響を与え、コンタクトセンター、翻訳、会計、機械検査などの業界にインパクトをもたらすとしている。このシフトの引き金となるのが、ビジネスリーダーの経営判断だ。ビジネスリーダーはほぼ全員(98%)が、AIを自社の優先課題として位置付けている。
1ドルのAI支出が世界で4.60ドルの経済効果を生む要因
調査によると、2030年には、ビジネス関連のAIソリューションおよびサービスに対する1ドルの支出につき、間接効果と誘発効果を含めて世界で4.60ドルの経済効果が生まれる。これは以下の要因によって決定される。
- AI導入の加速によるAIソリューションおよびサービスに対する支出の増加
- AI導入企業における経済的刺激(生産増加や新たな収益という導入効果による)
- AIプロバイダーのサプライチェーン全体への影響(AIソリューションおよびサービスのプロバイダーに対する供給を行うプロバイダーにおける収益増加)
「AIは2024年に、開発、展開が加速する段階に入り、業務のコストとスケジュールの大幅な最適化を目的とした企業投資の急増につながっている」と、IDCのエマージングテクノロジーおよびマクロエコノミクス担当シニアリサーチアナリスト、ラポ・フィオレッティ氏は説明する。
「定型業務を自動化し、新たな効率性を実現することで、AIは莫大(ばくだい)な経済効果をもたらす。それは産業の再形成、新たな市場の創出、競争環境の変化につながるだろう」(フィオレッティ氏)
残る職種は? AIが生む新たな職種とは? 明暗を分ける目安
IDCの「Future of Work Employees Survey」(仕事の未来に関する従業員調査)では、回答者の過半数が、今後2年間でAIや他の技術によって、自分の仕事の一部(48%)または大部分(15%)が自動化されるだろうと予想している。だが、自分の仕事がAIによって完全に自動化されると予想している従業員はごく少数(3%)にすぎない。
AIの普及によってマイナスの影響を受ける仕事もあるだろうが、“AI倫理スペシャリスト”や“AIプロンプトエンジニア”といった新たな職種が、グローバル企業で専門職種として置かれるだろうと、IDCは述べている。
さらにこの調査は、個々の業務を特徴付ける、「ヒューマンタッチの強さ」と、「タスクの反復性」のレベルとの組み合わせが、AIや自動化によって完全に取って代わられる業務と、技術が人間の能力を拡張する役割を果たす業務を区別する目安になることを示している。
看護のような人間の社会的、感情的能力が重要な職種や、意思決定が数字を超えた倫理や理解を包含する職種は、今後も確実に維持されるという。
IDCのワールドワイドリサーチ担当グループバイスプレジデントを務めるリック・ビラーズ氏は、次のように述べている。「当然のことながら、われわれは皆、AIに自分の仕事を取られてしまうかどうかを知りたがっている。この調査によれば、われわれが自問すべきなのは、『どうすればAIによって、より楽に仕事ができるか、より良い仕事ができるか』であることは明らかだ。AIがあなたの仕事を奪うのではなく、あなたよりもAIの使い方がうまい人が、あなたの仕事を奪うだろう」
IDCの調査報告書「The Global Impact of Artificial Intelligence on the Economy and Jobs」では、IDCの市場に関する知識と内部データ、「Economic Impact」モデルを利用して、AIが世界の経済と雇用に与える影響を評価している。このモデルでは、経済におけるAIの直接効果、関節効果、誘発効果を考慮に入れている。
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