AI戦略に持続可能性を取り入れるには:Gartner Insights Pickup(372)
「ChatGPT」のような生成AIがマルチモーダル時代に突入する中、インフラストラクチャとオペレーション(I&O)のリーダーは戦略的に考えて行動し、AIを取り巻く状況と進化するESG(環境、社会、ガバナンス)規制環境の両方の変化を乗り切らなければならない。本稿では、I&Oリーダーが取り組むべき4つのステップを紹介する。
企業は、「ChatGPT」のような生成AI製品の成功に後押しされ、ビジネスイノベーションの促進や効率の改善を目指してAI技術の導入を加速させている。だが、インフラストラクチャとオペレーション(I&O)のリーダーは、こうした進歩と環境の持続可能性のバランスを取るのに苦労することが多い。AI機能を開発している多くの組織は、AIインフラが環境に与える影響を見落としがちだ。
AI技術やモデル、データセットが複雑さを増すにつれて、AIインフラの材料への影響や環境負荷は、経営層にとって喫緊の課題となりつつある。持続可能性の要件を無視すれば、組織の持続可能性目標の達成を妨げる恐れがあるだけでなく、I&Oリーダーに厳しい目が注がれることになる。
AIインフラは従来のコンピューティングインフラとは異なり、特殊なハードウェアやAIに特化したソフトウェアフレームワーク、環境への影響を抑えながら効率を最大化する新たな運用戦略を必要とする。
環境的に持続可能な生成AIインフラを構築、運用するには、環境持続可能性を確保するために従来のI&O慣行からの明確な転換が求められる。この新しいインフラでは、GPUのコンピューティング能力の有効利用管理により、効率を最大化し、電力消費を最適化し、温室効果ガス排出を削減する必要がある。さらに、AIの価値を完全に実現するために、GreenOpsなどの新しいスキルと運用アプローチも導入しなければならない。
生成AIがマルチモーダル時代に突入する中、I&Oリーダーは戦略的に考えて機敏に行動し、AIを取り巻く状況と進化するESG(環境、社会、ガバナンス)規制環境の両方の変化を乗り切らなければならない。AIインフラの構築と運用を担当するI&Oリーダーは、持続可能性を統合したアプローチを取るために、以下のステップに取り組む必要がある。
環境とのトレードオフを乗り越え、AIの持続可能性を実現
企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるために、試験導入してきたAIの運用化を進めており、多くの企業が生成AI対応アプリケーションを本番環境にデプロイ(展開)している。だが、それに伴う環境とのトレードオフを見落としがちだ。このトレードオフには、資産の再利用性、データ処理に必要な電力の炭素集約度、AIモデルのトレーニングや実行に必要な水などが挙げられる。
I&Oリーダーは、AIインフラ戦略を組織の持続可能性目標と整合させるという課題に直面しているが、多くの場合、AIインフラを一般的なコンピューティングインフラと混同し、AIインフラの環境への影響を無視している。
こうしたトレードオフを乗り越え、持続可能なAIを実現するために、I&Oリーダーは以下のステップを考慮し、実践すべきだ。
AIインフラの構築/製造
この段階は、AIハードウェアおよびソフトウェアの製造が環境に与える影響に関わる。負の影響には、天然資源の消費や温室効果ガスの排出、電力消費が含まれる。I&Oリーダーは、製品カーボンフットプリント(PCF)(※)報告書をレビューし、異なる製品の具体化された炭素と材料への影響を比較する必要がある。
AIインフラの配送/輸送
AIハードウェアの輸送は、大気汚染や有害廃棄物の排出、温室効果ガスの排出を伴う。組織はバルク梱包(こんぽう)により、重さと材料廃棄物を減らさなければならない。また、輸送による廃棄物と温室効果ガスの排出量を減らすために、空輸よりも海上輸送を優先しなければならない。
AIインフラの運用
AIインフラの運用では、データ準備やモデルトレーニング、展開の際に大量のエネルギーが消費され、大量の温室効果ガスが排出される。I&Oリーダーは、全てのシステムがEnergy Star認証、EPEAT認証、またはTCO認証を受けていることを確認しなければならない。エネルギー性能をリアルタイムで追跡するには、アナリティクスとテレメトリーツールを活用する。
AIインフラの使用終了
AIインフラの資源ライフサイクルは、電子廃棄物のリサイクルまたは処分で終了するが、これは環境や社会に影響を与える。資産の寿命を最大化するために、I&Oリーダーは可能な場合は機械を転用または再展開しなければならない。また、責任ある処分を促進するために、IT資産を処分する全ベンダーがe-stewards認証またはR2認証を受けていることを確認することも重要だ。
AI/生成AIは複雑であり、企業環境で運用化するには、ITインフラのアップグレードと人材のスキルアップへの多大な投資が必要になる。AIインフラの取り組みを担当するI&Oリーダーは、AIインフラのライフサイクルの各段階における環境持続可能性目標を明確にしなければならない。これには、二酸化炭素排出量の削減やリソース使用量の最適化、電力使用量およびコストの最適化に関する明確な目標の設定が含まれる。
これらのステップに取り組むことで、企業はAIの取り組みの持続可能性目標との整合性を高め、技術イノベーションを進めながら、環境への影響を最小限に抑えられる。I&Oリーダーは、AIインフラの調達、開発、展開、リソース配分、リサイクル経済、エコ文化の醸成など、あらゆる側面にわたって戦略計画の策定に関与する必要がある。
組織は総合的なアプローチを取ることで、AIの取り組みによってイノベーションと効率を促進するだけでなく、この取り組みを広範な環境持続可能性目標と整合させることができる。
出典:Integrate Sustainability into Your AI Strategy(Gartner)※この記事は、2024年7月に執筆されたものです。
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