「健康」「成長」「働きがい」でこの先生きのこる エンジニアがすべきこと、企業ができること:きのこる先生×CHRO
ITエンジニアがスキルを磨き続けて成長を遂げるためには、エンジニアと企業に何が必要か。きのこる先生とNECソリューションイノベータのCHRO上浜敏基氏が語る。
@ITの人気連載「きのこる先生の『かろやかな転職』」などの筆者で、エンジニア組織づくりの豊富な経験を持つ「きのこる先生」(Web系代表)と、従業員数1万人超えの大企業「NECソリューションイノベータ」の執行役員 兼 CHRO(最高人事責任者)を務める上浜敏基氏(SIer〈システムインテグレーター〉系代表)が、エンジニアの幸せな働き方やキャリアの歩み方を語り合った。
Web系代表 vs. SIer系代表。同じIT業界の中でもコンテキストが異なる世界にいる2人の話は、果たしてかみ合うのだろうか――。
大手SIerのエンジニアも積極的に社外活動に目を向けるべし
ITエンジニアが長期にわたってスキルを磨き続け、自身が思い描くような成長を遂げるためには、どのような働く環境を選ぶべきか。これまでエンジニアのキャリア形成を支援するさまざまな情報を発信してきたきのこる先生は、自身のキャリアを振り返りながら次のように話す。
「私がエンジニアとしてスキルアップの意識に目覚めたのは、コミュニティー活動で会社の外の世界に触れたことがきっかけでした。会社の中だけに閉じこもっていると、どうしても組織の“型”や“枠”にとらわれてしまいがちですが、一歩会社の外に出てコミュニティーの世界に足を踏み入れてみると、それまで想像しなかったような仕事をしている人たちと直接会って話を聞けるので、大いに刺激になりました」(きのこる先生)
コミュニティー活動は、エンジニアが成長を志すための場として広く認知されている。だが、コミュニティーの場に積極的に出掛けるエンジニアは、どちらかというとスタートアップ企業や先端テック企業のエンジニアが多く、大手SIerやメーカーのエンジニアは相対的に少ない。しかし近年は、そうした傾向も少しずつ変わりつつある。日本有数のSIerであるNECソリューションイノベータは、従業員が会社の外に出て、社外のコミュニティー活動に参加することをむしろ推奨している。
「若手エンジニアと話していると『社外に目を向けるようになって、自分を高めていく必要性を強く感じるようになった』という話をよく聞きます。そのため現在は、社外にもっと目を向けてコミュニティー活動へ積極的に参加する機運を高めようとしています」と上浜氏。従業員数が1万人以上の大組織では、どうしても画一的な人材像が良しとされると思われがちだが、同社は上浜氏を中心にそうしたイメージの払拭(ふっしょく)に努めている。
「弊社には特定の分野で業界有数のスキルを持つ“尖った”エンジニアも多数在籍しています。そうした人材を社外にどんどんアピールして、エンジニアとしての成長意欲をかき立てるような活動を推進しています」(上浜氏)
社内にいながら多様なキャリアパスを希望できる環境
一方、同社のように規模が大きく、かつ幅広い分野のプロジェクトを遂行している企業の場合、社内にいながらもさまざまなバックグラウンドやスキルセットを持つエンジニアと交流し、刺激を受けることも可能だと上浜氏は語る。
「社内で共通のテーマを持ったコミュニティーを作って、エンジニア同士が互いに切磋琢磨(せっさたくま)し合える環境を構想しており、これを社外にも開放できればいいなと考えています。エンジニアが新しい分野にチャレンジするとなると通常は転職が思い浮かびますが、弊社は社内で多様なキャリアパスを設けて、組織の活性化を図っています」(上浜氏)
具体的には社内の人材公募制度を設け、特定分野のスキルや経験を持つ人材を必要とする部門は、社内で要件を満たす人材を募集できる。従業員は社内公募に自ら応募可能だ。従業員が職務経歴を社内で公開する仕組みもあり、採用部門側はこの情報を基に、要件にマッチした従業員に直接アプローチできる。さらにこの制度をNECグループ会社にも広げつつあり、こうした“社内転職”のパスを設けることで、チャレンジを希望するエンジニアが他社に転職せずに、自ら望むキャリアを社内で開発できる機会を提供している。
現在はコンサルタントとして多くの企業の採用戦略や組織開発をサポートしているきのこる先生も、組織の壁を越えた社内キャリアパスの価値について高く評価する。
「起業したばかりの小さなスタートアップ企業ですら、プロダクトの数が1つから2つに増えた瞬間、社内の組織が2つに割れて見事にサイロ化してしまいます。大企業であるにもかかわらず、組織やグループ会社の壁を越えてエンジニアがキャリアパスを築ける制度を設けているのはレアケースだと思います」(きのこる先生)
大企業は往々にして、エンジニアがキャリアアップのためにマネジメント職への転身を強いられ、技術を極める道を泣く泣く諦めなければいけないケースも多い。その点でも、NECソリューションイノベータではエンジニアとして中長期的にキャリアアップを図れるように配慮し、生涯エンジニアとしてキャリアを全うしたいというエンジニアの希望に応えるキャリアパスも用意している。
「人的資本レポート」は社内外とのコミュニケーションツール
同社が進めているこれらの人事施策は、同社が掲げる「人的資本経営」の戦略に沿って行われている。人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大化することで持続的な成長と企業価値の向上を図る経営手法を指す。欧米では多くの投資家が、投資対象となる企業の価値を評価する尺度の一つとしてこれを採用し、企業側も自社の取り組みを市場に向けて積極的にアピールしている。
日本でも現在、国の主導の下に多くの企業が人的資本経営に積極的に取り組み始め、その成果を外部に公開している。NECソリューションイノベータも「人的資本レポート」という人的資本経営のレポートで人材育成や採用、報酬、ウェルビーイングなどの取り組みを紹介し、2023年度の「人的資本調査2023」では「人的資本経営品質ゴールド」に認定された。さらに同社は現在、「健康」「成長」「働きがい」を3本柱に据えたウェルビーイングの施策を推進している。
ただし上浜氏によれば、同社は人的資本経営が社会的に注目される前からこうした施策を続けており、人的資本レポートも基本的には従来の活動内容を紹介しているに過ぎないと言う。
「人的資本経営として取り上げるようになってから新たに始めたことはほとんどなく、やってきたことを体系立てて整理しました。弊社は非上場企業ですから、そもそも投資家や株主に対して人的資本経営の取り組みをアピールする必要性は必ずしもありません。それでもレポートをあえて公開したのは、労働市場に情報を開示して、働き手たるエンジニアの方々に人材育成に懸ける思いを知ってもらいたかったからです」(上浜氏)
新たに人的資本経営を意識して始めた施策は、いわゆる「動的な人材ポートフォリオ」の作成だ。単に目の前の人手不足を解消するために人材を確保するのではなく、全社の事業戦略を基に人事のリソース戦略を策定し、人材ポートフォリオを整備するという考え方だ。NECソリューションイノベータは自社の戦略だけでなく、親会社であるNECの事業戦略とも整合を取りながら人事戦略を策定している。
きのこる先生も、人的資本経営の公開は社外の労働市場へのアピールはもちろん、社内に向けても良い影響を及ぼす効果があると指摘する。
「社外向けの情報を社内にも展開することで、従業員は自分の会社が社外に対してどのような価値をアピールして、世間の価値観とどのようにアラインしているかを把握できます。その結果、従業員が『外に出ないと手に入れられない』と思い込んでいたスキルやキャリアが、実は社内にいながらでも得られると分かり、従業員のロイヤリティー向上へとつながることが期待できます」(きのこる先生)
さらにオープンで風通しの良い組織を目指し、カルチャーの変革を
人的資本経営への取り組みの成果は、幾つかの経営指標に早くも表れている。離職率は減ってきており、逆に従業員の満足度を表す「エンゲージメントスコア」は大幅に向上しているという。
この取り組みを前出のレポート以外にも多くの場で開示するようにしたことで、採用面談で応募者から「人事面の取り組みや社風に魅力を感じて応募した」という声も寄せられるようになった。
社内にも取り組みの価値をアピールしたところ、良い影響が表れている。上司と部下が「1on1」でキャリアプランについて話し合い、各自がキャリア開発に取り組むキャリアオーナーシップの意識が大きく向上しているという。
他にも注力している取り組みの一つに「アサーティブコミュニケーションの浸透」がある。これによって社内の文化や風土を、さらにオープンで風通しが良いものに変革していきたいと上浜氏は抱負を語る。
「例えば、会議で何か言いたいことがあったり違和感を覚えたりしたら臆せず発言して、それを受けた側は必ず『ありがとう』と返します。会議で言いたいことがなかなか言えない雰囲気が一部ではありましたが、これからはそうした文化を変えていきたいと考えています」(上浜氏)
こうした取り組みは現在、「心理的安全性」というキーワードで広く認知されており、多くの企業が取り入れるようになったが、「誤った解釈に基づいて導入するのは避けるべき」ときのこる先生は言う。
「心理的安全性はオープンでモダンな働き方というイメージがありますが、この考え方が合わない人にとっては逆にタフな環境になってしまう可能性があります。それを念頭に置いた上で、『それでも心理的安全性が確保された組織になることで得るものが大きいのだ』というメッセージを必ずセットで発信することが大事だと思います」(きのこる先生)
上浜氏もうなずき、同社が目指す方向性を次のように語る。
「 “ゆるくて仲良し”なだけの状態は心理的安全性が高いわけではなく、健全な目的を持った組織は適度な緊張感を持っているものです。取り組み前から弊社の心理的安全性のスコアは他の企業に比べて高かったのですが、お客さまへより価値のあるものを提供するという事業成長の目的の下で今後のスコアを上げていきたいですね」(上浜氏)
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2025年2月19日