あの「タイミー」「SmartHR」も使ってる――聖地 島根にRubyistが集結した日:Ruby biz Grand prix 2024レポート
まつもとゆきひろ氏によって開発されたプログラミング言語「Ruby」を活用し、新たなビジネス価値を創造するサービスや商品を展開している企業を表彰するビジネスコンテスト「Ruby biz Grand prix 2024」の表彰式が、2024年12月4日に開催された。
2024年12月4日、島根県松江市でビジネス領域におけるRubyの活用事例を表彰する「Ruby biz Grand prix 2024」が開催されました。2024年で10回目を迎えた本グランプリにはRubyを用いて開発した21事例のサービスがエントリーし、大賞2点、特別賞3点が決まりました。
受賞サービスに見る最新技術とビジネスモデル
Ruby biz Grand prix 2024は、Ruby言語開発者であるまつもとゆきひろ氏を審査委員長に迎え、Rubyの特徴を生かした新規性、独創性、市場性、将来性に優れたビジネス事例を表彰しました。
大賞(2点)
大賞を受賞したのは、不動産取引をデジタル化する「ITANDI BB/ITANDI BB+」と、事業者と働き手のスキマ時間をマッチングする「Timee(タイミー)」。
ITANDI BB/ITANDI BB+は、物件の空室情報などをタイムラグなく共有できるサービス群が利用できます。
これまでは例えば、物件を決めたつもりになっても、他の人が別の不動産業者を通じて契約していたなどの“トラブル”も起きがちでした。というのも、不動産の所有者や管理会社は、仲介業者との間で業者間サイトや電話、FAXなどを通じてやりとりをしているため、契約が決まっても仲介業者に伝わるのに時間がかかったからです。
ITANDI BB/ITANDI BB+はこのタイムラグに注目して、管理会社向けSaaSとしてリアルタイムに反映できるようにしました。さらに電話での自動応答や24時間内見予約、Web入居申し込み、電子契約、原状回復工事監理、入居者管理なども可能です。
ITANDI BB/ITANDI BB+を提供するイタンジの大原将真CTO(最高技術責任者)は「『不動産賃貸取引をなめらかにする』を目指し、不動産自動電話応答サービスを皮切りに9年間、10以上の不動産サービスをRubyで作ってきました。素早く市場にサービスを提供できてきたのは、Rubyを使えば速く開発ができるからこそ。社会課題に取り組みたいRubyエンジニアと一緒にサービス開発を進めていきたい」と話しました。
Timeeは、働き手が働きたい仕事を選ぶだけで、履歴書、面接なしですぐに働くことができ、勤務後すぐに給料を受け取れるサービスです。
仕事を発注する事業者にとっても、来てほしい時間や求めるスキルを設定するだけで、条件に合った働き手を自動的にマッチングするサービスです。労働条件通知書、労働基準法に基づく適切な給与計算、給料の支払い、源泉徴収票や労働者名簿など、細かい事務作業を自動的に行うのが特徴です。導入事業者は13万6000企業、働き手数は900万人に及びます(2024年9月現在)。
Timee プラットフォームエンジニアリング部の恩田拓也部長は、「Timeeはお仕事探しのイメージが強いと思いますが、企業向けにも管理画面(労働条件通知書、給与計算など)を提供しています。2018年のサービス開始からRubyやRuby on Railsを使って開発してきました。今後はコミュニティーへの恩返しをしていきたいです」と話しました。
特別賞(3点)
特別賞は3事例。電話のAI自動応答システム「IVRy」、人事・労務の管理システムを提供する「SmartHR」、過疎地の定額乗合タクシー配車システム「TAKUZO」です。
IVRyは、1日100円から利用できる電話自動応答サービス(IVRシステム)です。
自由な分岐設定と自動応答、SMS(ショートメッセージサービス)返信、電話の転送(リダイレクト)、録音機能などが利用できます。同社の堀田裕理エンジニアリングマネージャーは、「世の中の99.7%が中小企業という中で、電話は今も重要な通信手段ですが、人材不足で電話が鳴っても取れない時代になっています。IVRyではお客さんが電話で要件を伝えたものをAI(人工知能)によるプッシュ通知で対応することもできます。ほとんど全ての機能をRubyやRuby on Railsで開発しました」と話しました。
SmartHRは、人事や労務といった従業員の情報をクラウドで一元管理し、入社から年末調整までの手続きをペーパーレス化できるサービスです。
従業員情報を活用することで、人材マネジメントにも活用できます。同社の齋藤諒一氏(技術統括本部)は、「“働く”という価値観をアップデートしていきます。バックエンドはほぼ全てRubyを使って開発しました。Ruby全体のコミュニティー活性に今後も力を入れていきたい」と話しました。
TAKUZOは、過疎地向けの定額乗合タクシー配車サービスです。
バスや電車と競合しない“便利過ぎないサービス”を目指して、事業者によし、利用者によし、社会によしという三方よしの交通環境整備を進めるといいます。「全面的にRubyを使って開発しました。プロトタイプを作って開発することで工数を削減できました」(TAKUZOを提供するバイタルリードの森山昌幸代表取締役)
印象的だったのは、全ての受賞企業がプレゼンテーションの最後に「Rubyエンジニアの積極採用」を訴えていた点です。現在のRubyエンジニア需要の高さを端的に示すものといえるでしょう。
現場で求められるRubyエンジニア
「クリエイティブ賞」を受賞したロッカは、プログラミングスクールを運営しています。同社の町田哲平代表は、昨今のエンジニア採用市場についてこう話しました。
「近年はAIを学びたがる人が増えているものの、今、現場で求められているのはRubyエンジニアです。AI人材は現場に1人いれば十分なレベル。既存のWebサービスの多くはRubyを使って開発していて、新規機能の開発にはRubyエンジニアが必須です」(町田氏)
ただ、「Rubyを学んでいても、未経験だと採用されにくい場合もあります」とのこと。それでも「一度でも現場経験を積むと年収が大きく向上するなど、Rubyにはまだまだチャンスがあります」とも述べました。
強固なコミュニティーがつなぐ縁
表彰式後の懇親会に参加した女性エンジニアは、Rubyの特徴として、コミュニティーを挙げました。
「以前は別の言語を使用していましたが、現在の会社でRubyを使うようになり、Rubyコミュニティーの素晴らしさを知りました。国産言語であるRubyのコミュニティーは、開発者が国内に多いこともあってか、深く、そして熱いつながりであふれています。コミュニティーでRubyエンジニアと知り合えることも多いので、顔見知りになったエンジニアと次の仕事の機会や転職につながる可能性もあると感じています」
2024年5月に沖縄で開催された「RubyKaigi 2024」には1400人ものRubyエンジニアが集まったそうです。Rubyの活気あるコミュニティーは、スキル向上だけでなく、新たな仕事や人脈形成の場としても機能しているといえるでしょう。
社会課題を解決するサービスをスピーディーに
Rubyの言語としての特徴は、コードの柔軟性が高く、開発現場で応用が利くことです。シンプルな記述でプログラムが動かせるため、初心者でも学びやすいといわれています。ベンチャー企業が自社サービスを立ち上げる際にRubyがよく使われるのも、Rubyのコードがシンプルでバグを発見しやすいからでしょう。
Ruby biz Grand prix 2024では、スピーディーな開発が可能なRubyだからこそ、喫緊(きっきん)に迫った社会課題を解決するサービスなど、新たなビジネス価値を生み出せることが示されました。多くの企業が、少子高齢化や人材不足などの社会課題解決に貢献する革新的なサービス開発にRubyを採用しており、Rubyエンジニアの需要はますます高まりそうです。
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