IPAが明らかにする日本企業のDX推進状況 米国、ドイツ企業に並ぶも、成果は「コスト削減」止まり? レガシーシステム刷新は「二極化」:「DX動向2025」
DXレポートが登場してから7年が経過した今、日本企業はDXにどこまで取り組み、どのような成果につなげているのか。情報処理推進機構(IPA)は「DX動向2025」で、日本企業のDX推進状況を米国、ドイツの企業と比較分析した調査結果を明らかにしている。
レガシーシステム(老朽化した既存ITシステム)の課題を解消できなければ、企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進できないだけでなく、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある――2018年、経済産業省がこうした内容をまとめた「DXレポート」を発表し、ITベンダーやユーザー企業の間で「2025年の崖」問題として大きな注目を集めた。今やビジネスパーソンにとって、DXは当たり前のキーワードとなっている。
では、DXレポートが登場してから7年が経過した今、日本企業はDXにどこまで取り組み、どのような成果につながっているのか。
日本企業のDXの取り組み状況 米国、ドイツに並ぶか、それ以上に?
IPA(情報処理推進機構)は、米国とドイツの取り組み状況と比較分析し、日本企業のDX推進状況をまとめた「DX動向2025」を公開している(PDF)。この報告書は、日本企業1535社、米国企業509社、ドイツ企業537社へのアンケート調査に基づいている。
調査によると、日本企業の77.8%はDXに何らかの形で取り組んでいる。内訳は、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」が34.4%、「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」が24.0%、「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」が19.4%だった。特に、全社的にDXに取り組んでいる割合は、米国が34.6%、ドイツが26.4%であり、米国と同等程度、ドイツよりも高い状況となった。
では、DXを推進する企業は、DXによる成果が出ているのか。国別で見ると、米国は87.0%、ドイツは81.7%が「成果が出ている」と回答。一方、日本は57.8%となっており、成果創出に大きな差が生じていた。また「分からない」の割合も米国とドイツに比べて大きく、IPAは「DXに取り組んだ成果が出ているのかどうかを追えていない企業が多いことは課題だ」と指摘する。
なお、「成果が出ている」と回答した企業の内、経営面の成果は、日本企業の場合、「コスト削減」「製品、サービスなど提供にかかる日数削減」といった生産性向上や業務効率化の取り組みに関する成果が多かった。一方、米国とドイツの企業は「利益増加」「売上高増加」「市場シェア向上」「顧客満足度」といった企業の価値向上に関する成果が多かった。
レガシーシステム刷新は「二極化」が進んだか
DXの阻害要因の一つとして指摘されたレガシーシステムの刷新状況については、「レガシーシステムはない」の割合は米国およびドイツを上回り、日本が最も高かった。だが「ほとんどがレガシーシステム」「分からない」の割合も日本が最も高かった。
多くの日本企業はDXに着手し、特に「業務効率化」というDXの第一歩に取り組んでいる状況だといえる。だが、本来のDXで期待された成果、すなわち売上増加やビジネスモデル変革といった「外向き」の領域は、米国やドイツ企業と大きな差があることが明らかになっている。
IPAの調査はこれ以外にも、DXの成果を測る指標の設定が不足していること、経営層のデジタル分野の知見不足、内製化の遅れ、現場のデータ利活用を阻む企業文化など、日本企業のDXの阻害要因が複数あることを浮き彫りにしている。「外向き」の変革を実現させるためにも、自社の状況と照らし合わせたり、経営戦略を見つめ直したりするきっかけとしてIPAの資料は参考になるだろう。
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