ITエンジニアのキャリアを支援するキッカケクリエイションは2025年11月12日、「ITエンジニアの上司評価に関する実態調査」の結果を公表した。直属の上司がいるITエンジニア431人を対象にした上司評価に関する調査で、2025年7月24〜25日に実施。上司のマネジメントスタイルが仕事の生産性や転職意向に与える影響や、エンジニアが求める理想の上司像を明らかにした。
約9割が「上司のマネジメントは生産性に影響」と回答
「上司のマネジメントスタイル(仕事の進め方や指示の出し方など)が仕事の生産性に影響すると思うか」を尋ねたところ、「かなり影響すると思う」(35.0%)、「やや影響すると思う」(53.4%)で、合計88.4%が「影響する」と回答した。「あまり影響しないと思う」(7.2%)、「全く影響しないと思う」(1.6%)、「わからない/答えられない」(2.8%)は少数にとどまり、上司の指示や進め方が生産性に直結すると感じているエンジニアが多数派であることが分かった。
現在の直属の上司のマネジメントへの満足度を聞いた設問では、「非常に満足している」(15.8%)、「おおむね満足している」(51.4%)で、約7割が「満足」と評価した。一方で「やや不満である」(20.0%)、「非常に不満である」(8.4%)と、約3割は何らかの不満を抱いており、「わからない/答えられない」は4.4%だった。
上司のマネジメントに満足している理由(複数回答)としては、「作業の優先順位付けを自分で決められるから」(49.7%)が最多となった。次いで「要件や期待値を明確に伝えてくれるから」(37.2%)、「技術的な判断や実装方法を任せてくれるから」(35.9%)が続いた。
転職検討の引き金になる上司への不満とは?
上司の仕事の進め方や指示の出し方に不満を持つ人に理由(複数回答)を尋ねたところ、「要件があいまいで何度も確認が必要だから」(42.6%)が最多だった。次いで「成果を正当に評価してくれないから」(31.1%)、「予期せぬ問題を想定せず余裕のない計画を立てるから」(29.5%)が続いた。
この他、「進捗(しんちょく)確認が頻繁過ぎて作業に集中できないから」(22.1%)や、「技術的な判断や実装方法に過度に介入してくるから」(17.2%)といった、マイクロマネジメントや技術的な過干渉も不満要因として挙がっている。「その他」(17.2%)、「特にない」「わからない/答えられない」(それぞれ4.1%)といった回答もあった。
自由回答では、「負荷を考慮していない」「興味がないのか、仕事内容について何度説明しても理解しない。上からの業務は全て丸投げしてくる」「指示が曖昧、明確に決めるところも決めずに投げてくる」「思いつきで仕様やスケジュールを変えたり、要領を得ない話のことを説明と言い張ったり、他人の手柄を横取りする」といった声も寄せられた。
こうした不満が転職意向にもつながっている。上司の仕事の進め方や指示の出し方が原因で転職を検討したことがあるかを聞いたところ、「現在検討している」(31.2%)、「過去に検討し、実際に転職した」(16.4%)、「過去に検討したが、転職はしなかった」(21.3%)となり、7割近くが上司への不満をきっかけに転職を考えた経験があることが分かる。「検討したことはない」は(29.5%)、「わからない/答えられない」は(1.6%)だった。
理想の上司像は「段階的評価」「技術理解」 エンジニア自身も対話重視
理想とする上司像について重要だと思う要素を3つまで選んでもらった設問では、「完璧を求めすぎず段階的な改善を評価する」(40.8%)が首位となった。次いで「エンジニア経験があり技術的な難しさを理解している」(35.5%)、「技術的なチャレンジを積極的に支援する」(30.9%)が続いた。
「この会社でもっと頑張ろうと思える上司像」を問う設問では、「技術的な観点からの意見を積極的に求める上司」(40.1%)で最も多かった。「プライベート時間を尊重し緊急時以外連絡しない上司」「エンジニアの仕事の価値を正しく理解している上司」(いずれも37.1%)が続いた。
「もし自分が上司になったら部下のエンジニアに対してしてあげたいこと」では、「気兼ねなく発言できる場の提供」(51.5%)がトップとなり、「適切な評価とフィードバック」(45.2%)、「自律性の尊重」(38.3%)、「ワークライフバランスの配慮」(37.4%)と続いた。
調査結果では、経済産業省が示す「2030年に最大79万人のIT人材不足」という見通し(「IT分野について」)も紹介しながら、「要件があいまい」「技術への理解不足」などのマネジメント不全が、貴重なエンジニアを失う大きな要因になり得ると指摘している。特にエンジニア経験のない上司による的外れな指示や評価は、現場の士気を低下させ、組織の競争力を損ないかねないという。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が競争力の分かれ目となる中で、エンジニアの特性や仕事の難しさを理解し、段階的な改善を評価しながら技術的チャレンジを支援できる上司をどう育成するかは、企業にとって重要な経営課題となっている。キッカケクリエイションは「適材適所の人材配置やマネジメントスタイルの見直しが、企業の持続的な成長につながる」とまとめている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
優秀なエンジニア志望学生は「AI肯定」、AI活用度が低い企業は「選ばれない」
paizaの調査レポートによると「生成AI活用を進めていない企業は、魅力が致命的に下がる。企業側も具体的なAI戦略と育成方針を示すことが重要だ」という。
パワハラのリスクを回避しつつ、伝えるべきことを伝える方法
パワハラ、モラハラ的な言動は気を付けたいもの。しかし、パワハラ、モラハラを意識し過ぎるがあまりにコミュニケーションの難しさを感じているのなら、本末転倒です。指摘すべきところは指摘できないと、人や組織の成長は望めません。
「生涯エンジニアでいたい」は、本当の理想なのか?
「生涯エンジニアでいたい」――そう思っている人も多いでしょう。20年前の僕も「何となく」そう思っていました。でも、いまは……。


