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あなたのCopilotが「全然使えない」本当の理由情シスのためのMicrosoft 365/Copilot活用の基本ワザ(2)

企業の情報システム部門が「Microsoft 365」「Microsoft 365 Copilot」を社内で有効活用するためのノウハウを解説する本連載。今回は、ユーザーが効果的にAI(Microsoft 365 Copilot)にアシストしてもらうには何が大事なのかを解説します。

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連載目次

 全国1億2300万人の「Microsoft 365」ユーザーの皆さん、Microsoft 365で利用できる生成AI(人工知能)「Microsoft 365 Copilot」(以下、Copilot)に興味はありますか? ありますよね! と、勝手に決め付けて今回はスタートします。

 今、生成AI周辺はベンダーの競争が激しく、新しいAIモデルをドンドン出しては追い付け追い越せを繰り返しています。生成AIの最先端にいるような人たちは、日々あっちが良いだの、こっちが良いだのと言っているようですが、世間一般からするとそこまでの関心はないのではないかとも思っています。逆に「思った回答を出してくれない」「ウソを教えられた」など、ネガティブな声はいまだに多く聞きます。

 今回はそうした部分にフォーカスし、「Microsoft 365 Copilotライセンス」(以下、Copilotライセンス)が付与されたユーザーが効果的にCopilotに仕事をアシストしてもらうには「データが大事ですよね」ということをお伝えしたいと思います。

Microsoftが2025年に発表した「Work IQ」とは?

 本連載第1回では、「Microsoft 365ライセンス」だけで利用できるCopilotの4つの機能を紹介しました。思った以上に反響がありうれしい限りです。未読の方はぜひ読んでみてください。

 第1回では「Microsoft 365ライセンスだけでもここまでCopilotが利用できるなら、Copilotライセンスはいらないのでは?」という疑問へのアンサーとして、「Copilotライセンスの有無による最大の違いは『Microsoft 365に蓄積された社内データがCopilotの対象であるか否か』という点であり、それがライセンス価格の分」と表現しました。

 一般的なチャット形式の生成AIは、情報源として学習済みデータを基本とし、インターネット上の公開情報も参照するので、プライベートでは便利に利用できるでしょう。

 しかし、業務で利用する場合の情報源としてはそれだけでは乏しく、閉ざされた社内情報が必要な場面も出てきます。それには機密性の高い顧客情報だけでなく、社内のみで共有されているデータや一般公開前/企画段階の新製品/新サービスの情報、毎日利用しているメールやチャットの履歴や会議内容などもあります。そうした社内に蓄積された情報を利用できれば、業務で生成AIを利用する際に役立つことは理解できると思います。

 2025年11月に開催されたMicrosoftの大型イベント「Microsoft Ignite 2025」の基調講演では、「Work IQ」という概念が発表されました。

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画面1 Microsoft 365 CopilotのWebサイトより抜粋

 Work IQは、Microsoftの言葉を借りれば「Copilotとエージェントを支える独自のインテリジェンスレイヤー」ということです。ちょっとフワっとした表現ですよね。僕も発表直後はイマイチ理解できませんでしたが、日本マイクロソフトのWebサイトにあるように「データ」「メモリ」「推論」というキーワードによって、具体的な意味合いが分かるようになってきました。

 Work IQでは、組織図以上にあなたの仕事での全体図を理解するという「メモリ」、データとメモリを融合し、あなたに最適化した洞察や次の行動を予測する「推論」、そして最初に出てくる「データ」が重要です。この「データ」は組織全体の社内データを指します。「メモリ」も「推論」も、まずはこの「データ」が起点となっています。Work IQにとって最も大事なキーワードは「データ」と言えます。

同じ専門知識を持っているなら、入社初日の人と勤続年数の長い人、どちらがよい?

 それでは、Copilotを人に置き換えて考えてみましょう。うれしいことにあなたにアシスタントが付くとします。2人の候補から選択できます。1人目は汎用(はんよう)的な高度専門知識はあるけど入社初日。2人目は汎用的な高度専門知識もある勤続10年目の人。さて、どちらをアシスタントにしたいですか?

 大多数の人は2人目を選択するはずです。一般的知見の範囲内での相談であればどちらも同じかもしれませんが、社内に関する相談なら勤続10年目の人の方が良さそうですよね。社内の知識や作法はインターネットを検索しても分からないので、むしろ大事かもしれません。

 これをCopilotに当てはめてみましょう。Microsoft 365内に社内データが蓄積されていなければ、Copilotはさまざまな汎用的な高度専門知識を持っているだけのアシスタントです。いや、それでも十分すごいアシスタントですが……。

 一方、Microsoft 365内に社内データが蓄積されていれば、Copilotは高度専門知識に加え、社内の知識や作法にも精通している優れたアシスタントになり得ます。

 例えば、「来月出張する際にホテルを予約したいけど、社内規定から僕の職位での宿泊費の上限を教えて」や「先週Aさんが会議で僕に何かを依頼したけど忘れちゃった。教えてくれる?」「何か顧客へ返信しなければいけないメールがあったと思うけど、大事そうなメール10件リストアップして」「現在開発中の製品Aを想定できる競合製品と比較して」など、まるで四六時中自分の隣にいるようなアシスタントになります。

 しかし、ここには大きな落とし穴があります。再度人に置き換えて考えてみましょう。先ほど2人の候補から多くの人が選択するであろうアシスタントは、「汎用的な高度専門知識もある勤続10年目の人」でした。ただし、そこから「勤続10年目なら社内情報に精通しているだろう」というのは単なる推測に過ぎません。

 勤続10年目の人であっても、その人がその10年間をどのように過ごしていたのかによって大きく変わってきます。極端な例ですが、その10年間は一匹おおかみで業務に携わっており、作成した資料は全て個人のキャビネットの中、業務上顧客との接点もなく、社内規定などにも無関心、そして社内の他者とほぼコミュニケーションを取っていなかったら……。なかなかそんな人はいないと思いますが、大なり小なり同じ勤続10年でも社内知識や作法について情報や経験に差はあるものです。するとどうでしょう? 勤続10年が全く生かせないことも可能性としてあり得ます。

 これをCopilotがアシスタントになった場合で考えてみましょう。Copilotの情報源にどれだけ社内データが蓄積されているのかで、アシスタントとしてのCopilotの有能さに大きな差が出るわけです。

 いくらMicrosoft 365導入歴が長い企業であっても、そこにデータが蓄積されていなければ Microsoft 365導入歴1日目の企業と差がないとも言えますよね。決して安くはないCopilotライセンスを払っても、学習済みデータを基本としてインターネット上の公開情報を情報源にする一般的なチャットUI(ユーザーインタフェース)の生成AIと変わらないことになります。そうなると、生成AIのモデルの優劣という追い付け追い越せの泥仕合での比較となってしまいます。

 Copilotライセンスを追加するメリットは、泥仕合の様相を呈するAIモデルの優劣ではなく、既に活用されているMicrosoft 365内の豊富な社内情報を情報源にできるということです。

 Copilotライセンスを付与されたユーザーが「思った通りの回答を出してくれない」という場合は、Microsoft 365内にデータが蓄積されていない場合が多いです。

 社内資料はファイルサーバもしくは別のオンラインストレージサービス、社内ポータルサイトは別サービス、メールも別サービス、チャットは使っていない、業務に必須である「Microsoft Excel」や「Microsoft PowerPoint」のみを利用し、作成中のデータはPC内にのみ保存……。それではCopilotに何か社内情報に関する質問をしたところで、思ったような回答を出してくれるわけないですよね。

 Copilotライセンスを付与されたユーザーが、Copilotを有効活用するには、Microsoft 365のさまざまなアプリを利用し、社内データを蓄積していくことが大事です。既にMicrosoft 365の利活用が盛んで、利用歴が長い企業ほど、Copilotの恩恵にあずかれる土壌が整っていると言えます。

Copilotがウソをつくのは僕たち人間のせいでもある可能性も疑う必要がある

 同じく、Copilotライセンスが付与されたユーザーが「ウソを教えられた」という声もよく聞きます。確かに、生成AIがウソをつくということに関しては「ハルシネーション」(事実ではない内容をもっともらしく回答する現象)という言葉がネガティブワードとして浸透しています。そうした要因は低減されてきてはいますが、まだ完全に解消されていません。

 しかし、何だか生成AIが一方的に悪いように思われているフシがありますが、本当にそうでしょうか。先ほど、僕はCopilotライセンスが付与されたユーザーがアシスタントとしてCopilotを最大限に生かすには、Microsoft 365内に社内データを蓄積する事が大事だと言いましたが、実は言葉足らずでした。

 もちろん、特定のユーザーだけではなく、会社全体でMicrosoft 365を活用し、社内データを蓄積し、それが適切なアクセス権で管理されている必要があることは言うまでもありません。ここで大事なのは「正しいデータを蓄積すること」になります。

 そこで出てくるのが企業にとって永遠の課題でもある「ファイルサーバのごみ山問題」です。よくある同じフォルダ内に「製品A価格表_20030208.xlsx」「正式版_製品A価格表.xlsx」「最新版_製品A価格表.xlsx」「最終版_製品A価格表.xlsx」など、同じ内容のさまざまななバージョンが乱雑に置かれたまま放置され、本当にどれが最新で、正しい情報なのか知る人がいない状態がごみ山問題です。

 このなかなか解決できない組織のカルチャーは、ファイルサーバだけにとどまりません。Microsoft 365なら「Microsoft SharePoint」や「Microsoft OneDrive for Business」内でも同じように課題となっているでしょう。

 製品Aの価格が値上げや値下げを繰り返していたら、現在の正しい製品Aの価格をここから探すのは、難しいことです。社内の人ですらどれが本当に正しい情報なのか知る人は一握りである状態なのに、Copilotがそれを的確に正確な情報を探し出して回答するのは無理ですよね。これがファイルの最終更新日が一番新しいファイルが正しい情報なのかというとそういうわけではない場合もあります。それでCopilotの回答を基に顧客に価格を伝えたら……。大きなトラブルになりかねません。

 Copilotは実在するデータを参照しており、情報を捏造(ねつぞう)しているわけでもないので、ハルシネーションとは言えないですよね。しかし、ユーザーからすると自信満々に出典付きでもっともらしく誤情報を回答してくるので、結果としてCopilotが悪いと思われます。

 Copilotライセンスがより多くの企業で購入しやすくなったのが2024年1月ですが(1ライセンスから購入可能)、その前年の2023年11月にMicrosoft主催で開催されたイベント「Microsoft Ignite 2023」のセッションで、Microsoft MVP(Most Valuable Professionals)のMatt Wade氏が「X」で以下のような内容を投稿しています。

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画面2 Matt Wade氏の「X」のポストより引用

 これは「Copilotを利用できるようになる前から、データを整理・準備することが重要だ」というメッセージを非常に的確に示している秀逸なイラストです。

 元データがごみならCopilotの出力も「それっぽいごみ」になる。Copilotは魔法ではありません。Copilotを使う前に事前のデータ整備が重要ということです。そして、それは紛れもなく僕たち人間がすべきことです。

 今後データ整備のアシストすらCopilotがやってくれる新機能もロードマップ上にありますが、あくまでもアシストであり、最終的に判断し、行動してデータ整備をするのはやはり僕たち人間がしなければいけないというわけです。

Copilotに関係なく正しく利用し正しくデータを蓄積することは大きな課題

 生成AIは驚くほど進化が速いです。Copilotも同様です。今後は、その進化と同時に使う人間のマインドも変化していかなければならないでしょう。ファイルサーバのごみ山問題は永遠の課題と言いましたが、正直これまでは課題をネガティブに捉え、クリアできない課題なら解決しようと歩まないマインドになってしまっているのではと思います。

 でも、捉え方次第では「永遠の課題」とは、常に試行錯誤し、少しでもより良い状況を目指して歩みを止めない必要がある状態とも言えます。そこで大事なのは「エンドユーザーに自分事にしてもらうこと」だと信じています。

 これは僕も過去にとある企業の情報システム部門(情シス)に長く在籍していた経験からでもありますが、従来のファイルサーバのごみ山問題は、正直エンドユーザーにとっては解決すべき大きな課題という意識がないのではと思っています。

 情シスからの発信としてよくあるのが「ファイルサーバの容量が逼迫(ひっぱく)しているので、不要なファイルを削除するなどご協力をお願いします」です。これはエンドユーザー視点では、ファイルサーバの容量不足は情シスが解決すること、であり自分たちには関係ないと人ごとになってしまいがちです。

 では、この課題をエンドユーザーが自分事としてもらうにはどうすればよいでしょうか。そのキッカケとして、Copilotは非常に乗りやすい波ではないでしょうか。ごみデータを山盛りにしても容量不足という課題ではエンドユーザーは困らない。しかし。Matt Wade氏のイラストのように、ごみデータをため込むとCopilotがもっともらしいごみ回答を返してきますよ、となると困るのはエンドユーザーである皆さんですよね、というアプローチならエンドユーザーに自分事にしてもらいやすいです。

 これは僕がこれまでさまざまなイベントで登壇したときに話した内容ですが、そのセッションに参加してくれた多くの人たちがデータ整備に着手してくれたかどうかは分からないものの、セッション後に「自分事として課題を認識した」という多くのリアクションを頂いています。まずは自分事にしてもらうことは大事な一歩です。

 人間側のマインドチェンジが必要だということが分かったところで、では具体的にどのようにデータ整備をしていけばよいのでしょうか。上述した通り、今後OneDrive for BusinessではCopilotがデータ整備に関して提案してくれるような機能が登場するというアナウンスがあります。

 しかし、その前にMicrosoft 365の機能でできることはいろいろあります。例えばSharePointやOneDrive for Businessのバージョン管理機能です。保存されているファイルをそのまま編集すれば、編集前の状態はバージョン履歴として残され、そこから過去のバージョンに復元する機能は標準で備わっています。「そんなの知ってるよ!」と思った方もいらっしゃるでしょう。

 しかし、僕の経験則ではそれを知らないエンドユーザーも結構います。ごみ山問題は自分だけ知っているだけでは解決できません。多くのエンドユーザーにバージョン履歴が広く認知され、少しでも多く利用してもらうことで、ごみ山問題の解決に向けて一歩進むのではないでしょうか。

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画面3 SharePointライブラリのバージョン履歴

 また、既にごみ山状態のフォルダ内で同じようなファイルが複数あった場合、Copilotライセンスが必要ですが、SharePointのライブラリやOneDrive for Businessでは、複数のファイルを比較してもらえる機能があります。これを利用すると、全部のファイルを開いて見比べるような手作業をCopilotが代行してくれるので、人間はそこから本当に最新で正確なファイルはどれなのかを判断しやすくなります。

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画面4 Copilot in OneDriveの「ファイルを比較する」

 また、ごみ山問題と並んでCopilotを利用する上での大きな課題となっているのが「過剰共有」です。データが不要な人にも共有されている状態ですが、これもデータ整備という意味でも関わってきます。

 例えば、製品Aの販促資料を社内ポータルサイトで公開し、営業部員に利用してもらっているとします。一方で製品Aの担当チームが販促資料のブラッシュアップしているとして、その作りかけのファイルも従業員全員が閲覧できる状態になっていたら、Copilotはそちらも回答に含めてしまう可能性は大いにあるでしょう。

 この場合、社内公開する正式バージョンのファイルは、全従業員が閲覧できるアクセス権のある場所に保存し、それとは別の担当チームしか閲覧できない場所で作りかけのファイルを管理するなど、アクセス権や共有状況を意識した運用がエンドユーザーにも求められます。

 生成AIとしてのCopilotは、世の中の情報から“魔法のつえ”のような印象があります。しかし、実際はそう思える面もあれば、何でも思ったように解決できるようなものでもありません。特にMicrosoft 365内の社内データを利用するという性質を考慮すると、Copilotが情報源として利用できる場所にいかに社内データを蓄積するか、そしてそのデータが整備されているのか、それによってCopilotの回答精度が大きく変わるということが分かると思います。

 「生成AI、全然使えないじゃないか!」なんて言っていたら、そのうち生成AI側から「その言葉、そっくりそのままお返ししてやる!」って言い返されそうですね。生成AI時代の到来により、生成AIを意識したデータの蓄積と整備や管理が必要になってきます。

 ですが、やらなければいけないことは、実は生成AIがなかった時代からも大きな課題だったというわけです。なので、同時に人のマインドチェンジも必要になり、マインドチェンジの動機付けとして自分事にする、してもらう必要がありますね。

筆者紹介

中村 太一(なかむら たいち)

居酒屋店員、ミュージシャン、Webデザイナーという異色な経歴から、2009〜2016年まで従業員数数千名の企業のIT部門でSharePointの運営・サイト構築を経験。その後、数社転職を繰り返しつつも自分が推しのMicrosoft 365に関連する業務を継続中。個人活動としてMicrosoft 365関連のブログ(https://art-break.net/tech/)をメインにさまざまなアウトプット活動やIT技術コミュニティー活動を行いい、それらの活動が評価されMicrosoft MVPを8年連続受賞。


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