まずは「APIゲートウェイ」「サービスメッシュ」の基本から 分散アーキテクチャ時代のAPI管理:APIファースト時代のAPI管理(4)
APIの数が増え続ける中で重要性を増しているのが、それらをいかに統制し、設計と運用の一貫性を保つかです。API管理の代表的な手法を踏まえながら、その考え方を掘り下げます。
組織内外における「API」(Application Programming Interface)の数が増え続ける中で、それらをいかに統制し、設計と運用の一貫性を保つかが重要な課題となっています。前回(第3回)は、「APIガバナンス」の必要性と、その本質が「制限」ではなく「共通設計思想と可視性」にあることを整理しました。しかし、ガバナンスは理念だけで成立するものではありません。 重要なのは、それをどのようなアーキテクチャとして実装し、日々の運用に落とし込むかです。
APIの数が増え、システム構成が分散化・複雑化する中で、API管理は単一の方式で完結するものではなくなりつつあります。本稿では、API管理の代表的な技術とその進化を整理しながら、分散型アーキテクチャにおけるAPI管理の考え方を掘り下げていきます。
1.APIゲートウェイによる集中管理――入り口を制するアプローチ
API管理の領域において、代表的な技術としてまず挙げられるのがAPIゲートウェイです。APIゲートウェイは、クライアントとバックエンドサービスの間に位置し、APIへのアクセスを一元的に制御する役割を担います。
認証・認可、レート制限、ルーティング、ログ取得などを共通化できる点は大きなメリットであり、特に外部公開APIや、BtoB(Businesss to Businesss)連携においては、APIガバナンスを実装するための中核コンポーネントとしてAPIゲートウェイが機能します。
APIゲートウェイによる集中管理の利点は、
- セキュリティポリシーの一貫性
- 運用の可視性
- ガバナンスルールの適用容易性
にあります。APIの「入り口」を押さえることで、全体の振る舞いを比較的シンプルに制御できます。
一方で、マイクロサービスが増え、内部通信が複雑化するにつれて、APIゲートウェイだけではカバーし切れない領域も見えてきます。
2.サービスメッシュによる分散制御――内部通信をどう扱うか
APIゲートウェイが外部と内部の通信を扱うのに対し、サービスメッシュはサービス間の通信の制御に主眼を置いたアーキテクチャです。両者の主な違いは、以下の通りです。
- APIゲートウェイ
- 主に「南北トラフィック」(外部と内部の通信)を扱う
- サービスメッシュ
- 主に「東西トラフィック」(サービス間通信)の制御を担う
サービスメッシュでは、各サービスのそばにプロキシを配置し、認証やトラフィック制御、リトライ、暗号化、可観測性といった機能をアプリケーションコードから切り離して実装します。これにより、開発者は通信制御を意識せず、ビジネスロジックに集中できるようになります。
サービスメッシュによる分散制御の利点は、
- サービス単位での細やかな制御
- スケールに強い構造
- クラウドネイティブ環境との高い親和性
にあります。一方で、構成が複雑になりやすく、全体をどう可視化・統制するかが新たな課題として浮かび上がります。
3.モニタリングとメトリクス可視化の進化
集中管理と分散制御、いずれのアーキテクチャにおいても、不可欠なのが可観測性(オブザーバビリティー)です。
従来の監視は「異常が起きたかどうか」を見るものでしたが、現在のAPI管理では、
- どのAPIがどれくらい使われているか
- どこで遅延やエラーが発生しているか
- それがどの事業や顧客に影響しているか
といった文脈を含めて把握することが求められます。APIは単なる技術要素ではなく、ビジネスの流れを映し出す存在です。そのため、メトリクスは運用改善だけでなく、APIの価値を測る指標としての役割も担っています。
4.なぜ分散型アーキテクチャが不可避なのか
企業のIT環境は、もはや単一クラウドや単一データセンターで完結しません。オンプレミス、複数クラウド、SaaS(Software as a Service)が混在する環境が当たり前となり、API管理もそれに対応する必要があります。
このような環境では、全てを一箇所で集中管理しようとすると、
- レイテンシの増大
- 可用性リスクの集中
- 組織構造との不整合
といった問題が生じます。そのため、API管理も「中央集権か分散か」という二者択一ではなく、役割に応じた分散が前提となります。
5.ハイブリッド、マルチクラウド環境への適応
ハイブリッドクラウド、マルチクラウドの環境では、クラウドごとに異なるネットワーク構成やセキュリティモデルが存在します。API管理を特定環境に依存させてしまうと、環境が増えるたびに運用が破綻しかねません。
そのため、API管理には、
- 環境差異を吸収できる抽象化
- 一貫したポリシー適用
- 分散配置を前提とした設計
が求められます。また、拠点やリージョンをまたぐAPI通信では、レイテンシ最適化も重要なテーマとなります。ユーザー体験や業務効率に直結するため、単なる技術問題ではなく、ビジネス要件として扱う必要があります。
6.API管理とDXロードマップの関係
API管理は、個別システムの効率化施策ではありません。APIは事業を構成する部品であり、その管理の在り方はDX(デジタルトランスフォーメーション)全体の成否に直結します。
API管理をDXロードマップに組み込まず、場当たり的に導入すると、
- 事業部ごとに異なるAPI基盤とAPI設計
- 全社視点での可視性欠如
- 将来統合時の大きな負債
といった問題を招きます。重要なのは、事業部主導のスピード感と、全社横断の統制をどう両立させるかです。これは技術選定の問題であると同時に、組織設計の問題でもあります。
まとめ――API管理は「構成の問題」から「設計思想」へ
API管理は、もはや単なるミドルウェアやツールの選択ではありません。集中管理と分散制御を適材適所で組み合わせ、組織構造やDX戦略と整合させることが求められています。
次回は、こうしたアーキテクチャを前提に、API管理を実際にどう運用し、ガバナンスとして定着させていくかに踏み込みます。APIは「作るもの」から「育て、使い続けるもの」へ。連載は、いよいよ運用と実践のフェーズに入っていきます。
筆者紹介
帆士 敏博(ほし としひろ)
マーケティングディレクター/Kong株式会社
2023年12月にKongへ入社。日本市場におけるマーケティング戦略の立案と実行を統括し、API管理基盤「Kong Konnect」を中心とした製品・ブランドの認知拡大に取り組む。これまで、HERE TechnologiesおよびF5 Networksにおいてマーケティング部門を率い、フィールドマーケティング、プロダクトマーケティング、ブランド戦略など幅広い領域を担当。また、キャリア初期には大手SIerにてネットワーク製品の検証業務に従事し、その後、大手商社向け在庫管理アプリケーションの開発にも携わるなど、エンジニアリングとビジネスの両視点からテクノロジー活用を推進。
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