第315回 SK hynix・Samsung・Micronの3強崩しへ。米中ハイテク覇権争いの裏で進む中国HBM国産化のリアル:頭脳放談
AIデータセンター向けGPUに不可欠な高帯域幅メモリ「HBM」は、米韓の主要3社による供給が需要に追い付かず、AI進化のボトルネックとなっている。そうした中、中国のDRAM大手CXMTがHBM3Eを少量生産しているとのうわさが流れている。損得度外視の投資と独自の割り切りで技術的障壁を突破しようとする、中国半導体国産化の最前線に迫る。
米中ハイテク覇権争いの裏で進む中国HBM国産化のリアル
AIデータセンター向けGPUに不可欠な高帯域幅メモリ「HBM」は、米韓の主要3社による供給が需要に追い付かず、AI進化のボトルネックとなっている。そうした中、中国のDRAM大手CXMTがHBM3Eを少量生産しているとのうわさが流れている。損得度外視の投資と独自の割り切りで技術的障壁を突破しようとする、中国半導体国産化の最前線に迫る。画面は「CXMT」のWebページ。
半導体ビジネスというものは、昔も今もB2Bが主流である。秋葉原のショップに行けば1個単位で小分け販売されている製品もあるが、一般の手には入らない産業用製品も多い。特にメモリ製品において、その傾向が顕著である。
昔はメモリの商談というと「型番、値段、納期」の3要素さえ押さえておけば成立した古き良き時代もあった。多くの半導体会社が同じ「標準」仕様のメモリ製品を製造販売しており、それを必要とする需要家も多くいたからだ。しかし現代的なメモリビジネスでは、とっくにその構図は崩壊している。
HBMを製造できるのは世界で3社だけ
そもそも、先端メモリを製造できる会社自体が限られてきているのだ。特にHBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)と呼ばれる最先端製品を量産できるのは、韓国の「SK hynix」と「Samsung Semiconductor」、そして米国の「Micron Technology」の3社しかない。一方でその需要家はというと、「NVIDIA」「AMD」「Intel」といったなじみの顔ぶればかりが並ぶ。大口顧客はせいぜい10社前後に絞られる。
HBMは買ってきて、基板上でロジックチップの横に並べれば済むというような単純なものではない。ロジックチップとHBMチップを結合するのに、極めて高度な実装技術が必要になるからだ。
このHBMに注目が集まるのは、これなしにはAIデータセンターで稼働するGPUなどの主要部品を成り立たせることができないからだ。現状、供給元は3社しかないから、まさに奪い合い状態だ。価格も高騰を続けており、このメモリの供給ネックが、AIの発展速度を決める主要なボトルネックとなっているのが実情である。
中国CXMTがHBM3Eを少量生産開始?
「HBMを制する者はAIを制す」的な状況下で、国を挙げてAIの完全国産化を推進する中国にも大きな動きが見られる。かねてより中国製のAIアクセラレータ(ロジックチップ)は登場していたし、うわさによれば前世代のHBM2の生産を開始しているという。ただ、主流クラスのHBMについては輸入に頼っていると思われる。
米国による先端半導体製品の中国への輸出規制強化の流れから「国産化命」の中国が、それをそのままにしておくはずがない。中国国内のDRAMメーカー「CXMT(ChangXin Memory Technologies)」がHBM3E(最先端ではないが、現状の主流クラス)を少量生産し、中国国内のAIアクセラレータベンダーが評価中だ、といううわさが報じられた。
ただし公式発表は一切ない。現在「性能、コスト、時期」いずれも詳細不明である。何らかの理由の秘密プロジェクトということだろう。逆に、リーク情報が表に出たということは、一定の製造のめどが立ったことを示唆しているとも受け取れる。
HBMは、韓国や米国のメモリメーカー(実装技術には台湾、日本などのベンダーも関わっている)が長年かけて開発し、積み上げてきた技術である。「そんなに簡単にキャッチアップできるのか?」という疑問もある。しかし、中国の特殊事情を鑑みていろいろ想像してみると、不可能ではないと思えてくる。何も情報が出ていないので、想像するしかないのであるが。
「経済合理性」の物差しが日本とは違う
まずは、経済合理性に対する考え方が日本などの市場経済国とは根本的に異なる点だ。日本の場合、新技術を開発しても、大量生産に至る道筋のコストを回収しきれないとなると、プロジェクトは頓挫することが多い。ところが中国は、観点が違うことがあるのだ。
過去に中国の半導体会社を訪問し、新規の工場計画のプレゼンを聞いたことがある。日本的にいうと、まずはもくろみ(端的に言えば、どれだけもうけるつもりか、どの程度にリスクを抑えるつもりか)を考え、進出先の利点や欠点をいろいろ調べた上で、特定の場所を選定して進出、という発想になるものだ。
しかし、中国で聞いたプレゼンでは、「ある方向」へ進出せよという大方針の下、ともかく拙速で進出するにはどうするか、というような計画だった。局所的には損得度外視にも聞こえた。現在は分からないが、いろいろな補助金や優遇措置が作用している可能性もある。まぁ、昨今では日米などの各国政府も半導体支援に踏み出しているため、もはや「他国事」とも言い切れないが……。
旧共産圏流の「割り切り」とコスト低減策
また、コスト低減策も旧共産圏には独特のものがある。年代は異なるが、旧東独の人からソ連の半導体プロセスについて聞いた話を紹介しておこう。
同じ機能のものを「少ない枚数のマスク」で作ることに、彼らは長けているという。マスクは少なければコストが下がるものだ。その上、旧ソ連時代はフォトレジストなどの輸入材料にも制約があり、量をケチる必要があったようだ。
ごまかして似た機能のものを作れたところで、手抜きの分、性能や信頼性にしわ寄せがくるものだ。しかし、そこを救う手もないではない。日本でいうところの特採(特別採用)である。標準規格の汎用品としてはダメなのだが、単一のメーカーと特定の需要家の間の取引であれば、多少の問題に目をつぶって量産投入、ということも十分あり得るのだ。
また、信頼性を手抜きして、かえって性能を向上させるという策もある。大昔、某社がライセンシーにマスクを渡していた製品で、ライセンシー品の方がオリジナルの某社品より速い、という現象があった。調べてみると、ライセンシーの製品の金属配線層が微妙に細くなっていた。そういうことをするとエレクトロマイグレーション(金属配線に電子が流れる際、電子と金属原子が衝突することで原子が移動して配線の欠損や断線、ショートを引き起こす現象)に弱くなって、信頼性が落ちるのだ。しかしライセンシーは、その辺に目をつぶってやったみたいだ。当時の信頼性は、旧電電公社的な「20年電源入れっぱなしでも壊れるな」という世界だった。しかし当時でも、PCなどは4年や5年で買い替え、という風潮。割り切ればできる、という初期の例だろう。
蛇足だが、そのころの日本の品質基準は厳しく、高コストを招いていた。初期の台湾製品を日本の大手メーカーに持ち込んだときなど、「煮たり焼いたり」した上、X線をかけられてクレームがついたことがある。「電気的、機能的」な不具合が一切なかったにもかかわらずだ。不必要なところまで追い込まず、品質基準を現実の利用に合わせて少しだけ緩めると、大分楽になるものなのだ。この辺は、中国企業のお得意の技の範囲だと思うが。
2027年には「出てくる」雰囲気
どのような仕様のHBMが、どのくらいのコストで作れるものかは、まったく不明。しかし2027年には登場させることが「決まっている」雰囲気だ。どんなことになるのかは、出てからまた。
筆者紹介
Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。
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