ノキアが語るAIネイティブなネットワークと6Gが目指す3つの姿とは:トラフィックの質が変わるAI時代
AI技術の進展は、通信ネットワークにも構造転換を迫りつつある。AI特有の新たな通信形態が急速に広がり、ネットワークの性能基準や設計思想そのものの見直しが求められている。2026年8月開催の技術セミナー「Nokia Amplify Japan 2026」で、ノキアはこうした変化への対応策とその先にある6Gの姿について解説した。
ノキアソリューションズ&ネットワークス(以下、ノキア)のエンリケ・ヴァーレ(Henrique Vale)氏は、AI時代のトラフィック変化や、求められるネットワークアーキテクチャについて講演した。ヴァーレ氏はまず、AI技術が通信ネットワークにもたらす変化について、データを示しながら解説した。
世界全体のAIインタラクションは年間で1.3兆件に上り、月間のAI関連トラフィックは77 E(エクサ)Bに達しているという。すでにその半分以上はモバイル経由で発生しているが、人間とサーバ間の通信にとどまっている段階だとヴァーレ氏は指摘した。今後、AIエージェント同士が自律的にやりとりする通信が本格化すれば、トラフィックは指数関数的に増加する可能性が高い。
ネットワークは、時代ごとに主役となるワークロードに合わせて進化してきた。音声信号の伝達から始まり、インターネットの普及によって動画配信の拡大がダウンリンク中心の設計や大容量化を促した。そして、新たな主役として台頭しているのがAIだ。生成AIサービスはもちろん、複数のタスクを連携させるエージェンティックAI、自動運転やロボティクスのような物理世界に働きかけるフィジカルAIと、AIの適用範囲は短期間で急速に広がっている。
この変化はネットワークに求められる性能の基準そのものを変えつつある。これまで通信品質は99.999%(ファイブ・ナイン)のような可用性を中心に評価されてきた。しかし、AIの世界では不足だとヴァーレ氏は強調した。
「AIデバイスにとって、どのネットワークが処理を届けるかという点は重要ではない。重要なのは、必要な性能とセキュリティを満たした形でデータが届くことだ。それには決定論的な接続性(Deterministic Connectivity)が欠かせない」
決定論的な接続性とは、システムがダウンしない確率(稼働率)を示す従来の可用性とは異なり、個々のデータ転送における遅延やゆらぎが事前に定められた許容時間内に確実に収まることを保証する信頼性の高い通信の性質のことだ。
トラフィックの性質そのものも変わりつつある。従来のモバイルトラフィックは予測しやすく直線的な動きを見せ、動画配信であっても比較的安定した波形を描いていた。しかしAIのトラフィックはまったく異なる特徴を持つ。
「AIのトラフィックはバースト的かつ動的だ。あるときはアップリンクが逼迫(ひっぱく)し、あるときはダウンリンクが逼迫する。既存のアーキテクチャはこうした特性を前提に作られていないため、既存の基盤の上にAIのワークロードをそのまま乗せることができない」とヴァーレ氏は述べ、ネットワーク側にもアーキテクチャ全体を見直す必要が生じていると主張した。
通信インフラに求められる「AIネイティブ」への進化
ヴァーレ氏はモバイル回線(mobile)・固定回線(fixed)・伝送網(transport)の通信インフラ全体に話を進め、AIに対応したネットワークがどうあるべきかを提示した。ここで強調したキーワードが「AIネイティブ」だ。
これまでのネットワークは、既存環境にインテリジェンスを後付けする形でAIを取り込んできた。しかしそれは生産性向上や差別化にはつながるものの、出発点にすぎないという。目指すべきは、計算資源・接続性・制御をあらかじめ一体として設計したAIネイティブなアーキテクチャへの転換だ。
この考え方は、モバイル回線・固定回線・伝送網の各領域に共通して当てはまる。モバイル領域では、AI-RANの実現がカギを握る。「ノキアは巨大AIデータセンターを支えているものと同じ半導体(GPU)をRANにも採用する判断をした」とヴァーレ氏は説明した。
この取り組みによって、まず無線ネットワーク自体の性能向上やスペクトル効率が改善する。さらに、開発者に開かれたエコシステムを通じて余剰のGPU処理能力をAI推論用途に転用できるようになる。ハードウェアとソフトウェアを切り離すことで、次世代の専用チップを待たずにソフトウェアのみで進化させられる点も大きな利点だとしている。
固定回線領域におけるAI活用も、高速化だけが目的ではない。文脈を認識できるネットワーク、ポスト量子暗号によるセキュリティ、そしてミッションクリティカルな信頼性を備え、企業のAIワークロード向けにミリ秒未満のレイテンシでスライシングできる基盤作りが求められている。
伝送網の領域でも変化は大きい。IPルーティングは、分散推論を支える基盤としての役割を担うようになる。特にパラメーター数が兆単位に及ぶモデルの実行や、生成AIの推論において過去のトークンの計算データを一時的に保持して、効率的に再利用するKVキャッシュの分散処理では、高性能な相互接続が不可欠だ。さらに光ネットワークは、エッジから長距離・海底ケーブルまで、大容量かつ高いスペクトル効率を備えた接続を提供する役割を担う。
これまで通信事業者は、モバイル回線・固定回線・伝送網といった各領域を、5〜10年という長いサイクルでアップグレードしてきた。それではAI時代に間に合わず、各領域が連携しながら、より短い周期で進化を続けることが求められている。
こうした変化の先にあるのが「ネットワークの自律化」だ。自己構成・自己最適化・自己修復・自己防御という4つの機能を備え、ネットワーク自体が状況を把握、判断して実行する仕組みが必要になる。
「ネットワークの自律性は、個別のAI機能を寄せ集めただけでは実現できない。戦略と実行を結び付け、ビジネス、サービス、リソースの各レイヤーを横断するエンド・ツー・エンドの自動化アーキテクチャが必要になる」(ヴァーレ氏)
5Gの浸透が遅れる日本 AI活用が効率化を推進
続いて登壇したハリー・ホルマ(Harri Holma)氏は、AIとネットワークアーキテクチャの関係について、日本の通信インフラの現状を示すデータから話を始めた。
ホルマ氏は、日本のモバイルネットワークが通信の信頼性や安定性の観点では世界でも極めて高い水準にある一方で、データ通信速度の面では他の主要国と比較して見劣りすると指摘。5Gの実効接続率についても、他の主要市場に比べて低い水準にとどまっているというデータを示した。
この課題を解決する具体策として、ホルマ氏は5G SA(スタンドアロン)方式によるアップリンク性能の強化を挙げた。SA方式のネットワークと対応端末があれば、送信側での空間多重化(2×2 MIMO)や、TDD周波数とFDD周波数を組み合わせた高度なキャリアアグリゲーションが可能になる。実測データによると、この技術によってアップリンクのデータレートは45〜77%、スペクトル効率は最大64%向上させられる(ただし、非SA方式では効果を得られない点には注意が必要だ)。
ホルマ氏はAIによる無線ネットワークの効率化についてもフィールド実測に基づく成果を紹介した。近年、無線技術は複雑化が進んでおり、その性能を十分に引き出すにはAIの活用が不可欠だ。
「とりわけMIMOをはじめとする技術は非常に複雑であり、その恩恵を最大限に得るためにはAIが欠かせない」
受信機のチャネル推定にAIを適用することで、フィードバックの精度が10%以上改善したとする実測データがある。複数の端末が同一の時間・周波数リソースを共有するマルチユーザーMIMOのペアリングでも、AIの活用によって10%を超える改善が確認された。この他、伝送レートを通信環境に応じて動的に変更するリンクアダプテーションや、複数の周波数を組み合わせるキャリアアグリゲーションでも、AIによって10%を超えるスループット向上が見られたという。
ただの通信網ではない 6Gが目指す3つの姿
次にホルマ氏は視点を6Gに移して、その目指す姿を3つの領域で説明した。1つ目は接続性そのものの向上、データレートやアップリンク性能、スペクトル効率の改善に加えて、5Gから6Gへの移行を容易にすること。2つ目は、モバイルネットワークをセンサーとして活用する発想。3つ目は、モバイルネットワークをAIプラットフォームとして機能させる構想だ。
モバイルネットワークをセンサーとして活用する発想の具体例として、ホルマ氏は現行の5Gアンテナと信号を用いた実証実験を紹介した。この実験で、反射波を測定・解析することで数百メートル離れた場所にいるドローンを検知できることを確認した。ノキアはこれら一連の処理をGPUで実行して、無線ネットワークとAIアプリケーションを結ぶミリ秒レベルのリアルタイムインタフェースをノキアの無線基地局に用意する。これによって、防災や空港、交通、産業分野など幅広い用途に活用できる仕組みを目指しているという。
AIプラットフォームとしての価値を示す例としては、フィジカルAIの実現に不可欠な低遅延性能が挙げられた。ホルマ氏自身がフィンランドで実施した検証では、往復遅延の中央値は約10ミリ秒、高い確率で15ミリ秒を下回る結果が得られたという。無線アクセスポイントに近い場所でAI処理を実行することで、ドローンや配送ロボット、産業用ロボットといったフィジカルAIの要求に応えられる可能性を示した。
一方で、6Gへの移行そのものは「これまでの世代交代とは大きく異なる」とホルマ氏は述べた。「4Gから5Gへの移行の際は、新たな基地局や新周波数帯対応アンテナなど大規模なハードウェア刷新が必要だった。6Gへの移行の際は、既存の5Gのコアネットワーク、基地局、アンテナ、周波数帯を最大限生かして、ソフトウェアのアップグレードを中心にスムーズな機能拡張と移行を進められるようにしたい」
最後にホルマ氏は、ノキアの研究の方向性を「AIの活用に最適化されたハードウェアの実現」「AIによるイノベーションを促すネットワーク設計」「AIとネットワークが一体となったグローバルな接続性の実現」の3点に整理した。その上で、こうした将来像はノキアだけでは実現できないとして、日本を含む世界中の優れたパートナーとの協業が不可欠であると締めくくった。
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提供:ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2026年10月24日





