Database Watch 10月版 Page 2
イチキュッパでDB2が買える超デフレ時代
加山恵美
2004/10/16
PostgreSQLはUCB作成
さて次はPostgreSQLですが、その前にリレーショナルデータベースの始まりまで戻ります。1970年にIBMの研究所に所属していたエドガー・F・コッド博士がリレーショナルデータベースの元になるリレーショナルデータモデルの論文を発表しました。これは集合論を基にした表の集合についての概念でした。博士は後にデータマイニングにも影響を与えるなどデータベース技術に大きく貢献して、昨年この世を去りました。
そのコッド博士が論文を発表した数年後、彼の理論を実装したものがいくつか出てきました。その1つがアメリカ、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)のマイケル・ストーンブレーカー教授がUNIXで開発したINGRESです。これがPostgreSQLの祖先に当たります。INGRESはQUEL(Query Language)を用い、1980年ごろにほぼ完成します。そこで商用版のIngresと大学版のUniversity INGRESに枝分かれします。
商用化されたIngresはリレーショナルテクノロジー社(当時)から提供されましたが、後にコンピュータアソシエイツ(CA)社からINGRES IIとして提供されるようになりました。2004年5月からIngresはオープンソースとして公開されています(プレスリリース)。
一方、University INGRESは小規模向けに細々と開発されていましたが、1986年から先述のストーンブレーカー教授がオブジェクト指向のRDBMSの研究を始めたことがきっかけで再出発します。INGRESの後継という意味でPOSTGRESと改名しました。POSTGRESは意欲的に新しい機能を盛り込み、バージョン4まで開発が続きました。
このPOSTGRESで培った技術は後にILLUSTRAとしてIllustraインフォメーションテクノロジーズ社から商用で提供されました。その後 インフォミックス 社のRDBMSと統合して、Informix Universal Serverとなります。さらにインフォミックス社は2001年にIBMへと合流して現在に至ります。
POSTGRESは開発終了後もストーンブレーカー教授の周辺人物らを中心にメーリングリストを介して情報交換やサポートが続いていました。後にサポートの中心人物らがPOSTGRES 4.2にある余分な機能を切り捨て、問い合わせ言語をSQLに置換したPostgres95を1995年に発表しました。このバージョンになると現在の形にかなり近づいてきます。ネットの交流も拡大し、コミュニティとして発展していきます。
1990年代後半になると開発の中心はコミュニティに移ってきます。SQL92準拠を目標に着々と開発が進められ、投票により新名称が決まります。そして遂に1996年にはpostgresql.orgからPostgreSQLが登場します。POSTGRESからの連続性を意識して(Postgres95はバージョン5)、PostgreSQLはバージョン6としました。そして現在に至ります。
図 PostgreSQLの系譜 |
INGRESの後継はたびたび商用化して世に旅立つものもありましたが、根強く母校に残るものもありました。最後まで母校UCBとネットに支えられて育ったものがPostgreSQLです。INGRESの血を濃く受け継ぐ末えいといったところでしょうか。
UCBはサンフランシスコから橋を渡った先にあり、時計塔が有名な広大な敷地の大学です。アーノルド・シュワルツェネッガー氏が妊娠してしまう映画『ジュニア』や、怒ると緑の巨人に変身する映画『ハルク』も、実はUCBが舞台でした。
写真 カリフォルニア大学バークレー校、正門のシザーゲート |
こうして見ると、MySQLの特徴である高速さはオーバーヘッドで悩んだ時代の教訓を感じさせ、PostgreSQLには積極的に機能を盛り込もうとしたストーンブレーカー教授のスピリットを感じます。
■ユーザーコミュニティは新製品の話題で持ちきり
8月末から9月上旬にかけて開催されたイベントについては前回報告しましたが、コミュニティではその余韻が感じられます。DB2.jpでは「DB2 Day 2004」で発表されたプレゼン資料が公開されたり、PASSJでは「Tech・Ed 2004」の感想が投稿されたりしています。PASSJでは早速、SQL Server 2005ベータプログラムの掲示板で活発に意見交換されているようです。
コミュニティでの意見交換はどうでしょうか。ベンダ直営系のコミュニティ(OTN、PASSJ、DB2Forum)はどこも掲示板形式で、話題別に部屋が用意されています。雑談系の掲示板では取りまとめ役が興味あるニュースを提供したり話題を振るなど、話題を盛り上げるように配慮しているようです。
オープンソース系のコミュニティはいまでもメーリングリストが中心のものが多いようです。アーカイブはWebで公開されていて、質問する前には過去ログを参照してからというのは鉄則ですね。話題は当然ながら技術的な質疑応答に終始していて、たまに先日のLinuxWorldなどのイベント報告がなされたりしているようです。
◇
個人的にはエンジニア時代にコミュニティから多大な恩恵を受けたので、それぞれのコミュニティが実りあるものになるようにと陰ながら願っています。ではまた来月、お会いしましょう。
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連載 Database Watch 10月版 イチキュッパでDB2が買える超デフレ時代 |
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Page 1 ・ついにDB2もソースネクストから1980円で発売 ・MySQLとPostgreSQL、進化の歴史をひもとく −スウェーデン生まれのMySQL |
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2 −PostgreSQLはUCB作成 ・ユーザーコミュニティは新製品の話題で持ちきり |
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