Database Watch
Database Watch 2008年6月版

PostgreSQLに足りないもの/XMLDBへの期待


加山恵美
2008/6/19

 

山に登ろうとするとき、山頂まで一直線に走るロープウエーがあったら便利ですよね。または一気に山頂までジャンプできたらなんて楽なことか。しかし実際はそうはいきません。データベースの進化も同じことがいえるそうです。今月はデータベース関連のイベントが多数あり、それぞれの開発動向や普及状況がレポートされました。


Bruce Momjianは“The Long and Winding Road”から頂を目指す

 今年はたびたび話題にしているようにサン・マイクロシステムズのMySQL買収があり、MySQLはエンタープライズ領域に向けて大きくジャンプすることができました。その一方、「オープンソースDBMSの両雄としてMySQLと並んでいたPostgreSQLはどうなるのか」という疑問が自然とわいてきます。

 6月6日に開催された「PostgreSQL Conference 2008」ではその答えの一部が垣間見えたような気がします。

 基調講演にはPostgreSQL開発コアメンバーでありEnterpriseDB(http://www.enterprisedb.com/)のアーキテクトであるBruce Momjian氏が登壇し、PostgreSQLの過去から将来の展望までを語りました。冒頭に同氏は左右に曲がりくねった山道の写真を示し、こう話し始めました。

「山頂への道が一直線なら最短距離で到達できていいように思えますが、実際はそうはなりません。傾斜が急すぎて登れなくなるからです。PostgreSQLの進化もこれに似ています」

 山道をくねりながら進むようにトレンドがある方向へと進み、後に方向を変えて進み、方向転換を繰り返しつつも緩やかに着実に前進していくことがあります。こういう歩み方は進化の過程にはよくあることなのかもしれません。

機能拡充から性能強化へ

 講演でMomjian氏はPostgreSQL開発の歴史を振り返りました。

 Ingresの後継データベースとして始まったPOSTGRESが、現在のPostgreSQLと改称した1996年から数年は「クラッシュしないこと。利用を広めること」が最優先で、1998年以降はSQL標準をいち早く取り入れることに注力してきたそうです。そして2001年から本格的にエンタープライズでの利用を視野に入れ始めました。

注)Ingres:IBMのエドガー・コッド博士の論文を基に作られたシステムRに触発され、カリフォルニア大学バークレー校にて開発されたRDBMS。現在は、CAからオープンソースソフトウェアとして提供されている(関連記事:CAの新ツールはビジネスの意思決定を自動化できる ――@IT)。

 特に大きな変化として記憶に新しいのは、2005年1月にリリースされたPostgreSQL 8.0です。PostgreSQLはこのバージョン8.0からWindowsプラットフォームに対応するようになり、利用者層をぐんと広めることができました。また、このバージョンからエンタープライズ用途では必須といえる機能が多数盛り込まれました。

  トランザクション内でロールバックする位置を指定するsave pointsのサポート、Point-In-Timeリカバリのほか、テーブル空間概念の導入によるインデックス領域とデータ領域の独立管理機構も実現し、より柔軟なデータ領域利用が可能になりました。

 PostgreSQLは8.0前後まではSQL/99準拠や機能拡充に注力していましたが、このリリース以降は、パフォーマンス改善に向けた開発に力点が移ってきました。ほぼ1年おきのペースでバージョンアップを繰り返し、性能改善のための新機能は確実に効果を上げています。最新バージョンである8.3での性能改善については参考リンクをご覧ください。

【関連リンク】
>>>PostgreSQL 8.0
Windows対応のPostgreSQL 8.0、大規模システム浸透を狙う――@IT

>>>PostgreSQL 8.3
「PostgreSQL 8.3」が正式リリース、性能は最大30%向上――@IT

 性能追求に終わりはありませんが、PostgreSQLはバージョン8.3で一段落ついたといえます。Momjian氏は、

「大手商用ベンダのDBMSと同列とはいえないまでも、かなり近づいた」

と手応えをつかんでいます。

現在のPostgreSQLに足りないもの

 Momjian氏の手応えを裏付けるエピソードも披露されました。

  つい最近、同氏がある顧客から指摘されたPostgreSQLに足りないものについてです。

  その顧客はOracle Databaseの管理画面を指して「PostgreSQLにはこれがない」と言ったとか。同氏は「うん、確かに」と同意しつつも、その指摘にさほど落胆することはありませんでした。

 そのときの心境を思い浮かべ、ゆっくりと言葉を選びながら同氏は、

「ほんの数年前まではPostgreSQLに足りないものはもっとたくさんあった。なのに、いま足りないものとして指摘されるのが管理画面となるなんて……」

と、感慨にふけるような顔で話していました。

 考えようによっては、ユーザーがOracle DatabaseとPostgreSQLとの差として豪華な管理画面を指摘するということは、基本機能や性質面の差は気にならないくらいのところまで追いついたともいえます。十数年PostgreSQLの開発を続けた同氏からすれば、商用製品と肩を並べたことを実感した記念すべき指摘だったようです。

 今後はどうでしょう。

 従来どおり性能改善は最優先課題として進むのは確かです。しかし今後は性能以外にも力点を移していくことになりそうです。Momjian氏は「リーダーシップ」と強調していました。商用RDBMSに機能や性能で追いつこうとする段階は一区切りつき、今後はほかにはない機能を提供してデータベースの世界でリーダーシップを発揮していくことを目指していくと語っていました。

 当初は安定性、次に機能拡充、そして近年では性能強化へと力点を移してきました。そして近い将来は新機能の開拓という創造的で高度な課題に取り組もうとしています。思えばPostgreSQLは、その源流であるIngresの時代から、新しい機能をいち早く取り入れることに意欲的でした。近い将来、機能拡充や新機能開拓がPostgreSQLの「おはこ」となるのかもしれません。

◆◆◆

 次はXMLデータベースに目を移してみましょう。XMLコンソーシアムのXMLDB部会は、6月4日にXMLコンソーシアム Weekの一環として、XMLDB市場状況アンケートの考察を発表しました。XMLDB市場の現在が垣間見られる興味深い内容ですので、次ページでご紹介しておきましょう。

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Database Watch 2008年6月版
PostgreSQLに足りないもの/XMLDBへの期待
→ Page 1
・Bruce Momjianは“The Long and Winding Road”から頂を目指す
・機能拡充から性能強化へ
・現在のPostgreSQLに足りないもの
  Page 2
・今年はXMLDBが現場へ進出するか?


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