XMLデータベース開発方法論(2) Page 4/4
スケーラビリティの重大な誤解、
“大は小を兼ねない”
川俣 晶
株式会社ピーデー
2005/7/22
さて、ここで1つの疑問があり得る。これほどまでにCPUの高性能化が進んでいる現在であるから、CPUパワーの拡大によってこれらの問題が解消し得るのではないか、ということである。CPUパワーが上がれば、ない袖(CPUパワー)は振れないという事態はなくなるし、定型データに直さずとも処理可能になるかもしれない。
そのような考えは、もちろん正しい。CPUパワーの拡大は、いずれのデータ処理技法の量的な制限を緩和してくれる。そのことが難しい問題を解決してくれることも多いだろう。
図10 CPUパワーの拡大 (この図はイメージを示すもので具体的な数値を反映したものではない) |
しかし、ここではCPUパワーの拡大が、1つの懸念される状況を生んでいることが分かる。RDBとAWKを示す2本の線間に広がる中間領域が拡大しているのである(図11)。
図11 中間領域の拡大 (この図はイメージを示すもので具体的な数値を反映したものではない) |
この中間領域は、AWKでは処理できないがRDBでなら処理できる範囲を示している。しかし、もしもすでに説明した「大は小を兼ねない」という主張を受け入れるなら、これは困ったことになる。つまり、RDBでは処理できるが、それによって処理を行うことが最善ではないかもしれない世界が、CPUパワーの拡大に比例して大きくなってきているのだ。
この問題を解決するために必要とされるのは、RDBとAWKの中間に、ほかの線を書き加えることである。もし、大は小を兼ねないのであれば、できるだけ扱うデータの規模に近い規模を扱うデータ処理技法を追加するのが1つの解決策である。
さて、われわれはすでにここに書き加えることができるもう1つの選択肢としてXMLデータベースを持っている。ここに、XMLデータベースの線を1本書き加えてみよう。
図12 中間領域をカバーするXMLデータベース |
図12は、なぜ、いまになってXMLデータベースに対する強いニーズが発生しているのか、そしてどのような条件でXMLデータベースを用いると価値を発揮し得るかを分かりやすく示している。CPUパワーの拡大が中間領域を拡大させ、そこに当てはまるニーズが新しい選択肢としてのXMLデータベースを求めているのである。
残念ながら、具体的な数値に立脚した図ではないので、図12は概念を説明するという以上の用途には使用できない。しかし、概念さえ分かれば、各論に入っていくのは容易である。この連載の内容が適切か否かを含め、考察したり議論を行う最初の取っ掛かりとしては、決して悪くはないものだろう。
冒頭で紹介した映画のせりふは、情報の「量」の拡大がその「性質」を変えてしまった象徴的な事例として紹介してみた。なお、余談だが、この映画の監督、細田守はこの映画でアーティストの村上隆に見いだされ、ルイ・ヴィトンのプロモーションフィルム「SUPERFLAT MONOGRAM」を監督している。
さて、このせりふの内容を簡単に説明しておこう。コンピュータの中でデータを食べて成長するデジモン(デジタルモンスター)「クラゲ」を倒すために、選ばれし子どもたちは自分たちのパートナーのデジモンをネットワークの中に送り出す。しかし、その戦いをパソコンを通して目撃した世界中の子どもたちは、選ばれし子どもたちにメールを送ってくる。その多くは素朴な質問や激励にすぎないのだが、その膨大な量は選ばれし子どもたちのパソコンの処理能力の多くを消費してしまう(1秒間に何枚ものウィンドウが次々開いていく描写は圧巻である)。その結果、戦いはピンチに陥ってしまうのである。
1通では悪意のない善良なメールが、数が増えたことで凶悪な障害に変化してしまう。まさに、規模が性質を変えるという象徴的な事例といえるだろう。念のために強調するが、ここで問題にされているのは、決して送られてきたメールがシステムの許容量を超えたことではない。1通1通の善良な性質しか持たないメールが、内容が変わったわけではないのに、数が増えることで凶悪な性質を示すようになったことが問題なのである。
そう、データは量が変わるだけで性質を変えることがある。それ故に、大が小を兼ねないという事態も発生する。そこで、量に対して適切な技術を選択するという必要性も生じる。XMLデータベースの存在意義の一端は、そのような文脈で考察したときに見えてくるように感じる。
さて、それは存在意義の一端でしかない。存在意義には別の一端が存在する。次回は、それについて取り上げたいと考えている。そのために、人や社会の変化や、それに対応するために迫られるシステムやデーやベースの変化についての話題を語ってみたいと思う。そして、2つの存在意義という2つの座標軸を示すことができたとき、その交点にこそXMLデータベースが活用されるべき領域を見いだせると考えている。つまり、今回の内容は、次回の内容と合わせて初めて具体的なイメージを提示することができるのである。(次回へ続く)
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Index | |
XMLデータベース開発方法論(2) スケーラビリティの重大な誤解、“大は小を兼ねない” |
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Page
1 ・前回のおさらいと今回のテーマ ・自らの最終学歴を語る三重苦 ・化学工学の華はスケールメリット ・層流と乱流、規模(スケール)が変わると性質が変わる例 |
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Page 2 ・情報の規模が変わると性質は変わるか? |
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Page 3 ・情報は人間の思いどおりにならない ・規模から見たRDBとAWKの違い |
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Page 4 ・CPUパワーの拡大と中間領域の拡大 ・次回予告 |
XMLデータベース開発論 |
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