[DB Interview]
最新RDBMS選びのポイント 〜情報系システム〜(前編)
大規模データベースの“定説”をバッサリ切る
アイエイエフ コンサルティング
平井明夫
2006/7/11
■「Oracle対SQL Server」の図式に惑わされてはいけない
Oracleは難しくて、SQL Serverは分かりやすいという人がいます。Oracleは専門的な知識と高度なチューニング技術を要求されるが、SQL Serverは導入してすぐに使えてチューニングも不要という、データベースの世界でしばしばいわれる“定説”です。
「分かりやすい」を別の表現でいえば「ユーザーに対するメッセージがシンプルである」ということなのです。そしてメッセージがシンプルであるということは、それを伝える対象がミドルレンジからローエンド層だということを意味します。高いスキルを持ったデータベース管理者を持たないこの層のユーザーには、「分かりやすさ」は大きな訴求力を持ちます。すなわちマイクロソフトは、自分がベンダとして獲得したい層にメッセージのスタイルを最適化しているだけなのですが、第三者から見ると「オラクルの難しさに対する、マイクロソフトの分かりやすさ」という差別化メッセージに映るのだと思います。
ハイエンドのデータベースというのは、もともとシンプルなメッセージで売れるようなものではないので、エントリー層にも理解できる「分かりやすい」メッセージは実質的に必要ありません。とはいえ、この「ハイエンドであること」と「はたから見て分かりにくい」ということが表裏一体に見える点こそが、オラクルの強さであり弱さでもあるのは事実です。
ここで誤解しないでほしいのは、「分かりやすさ」を要求する層にターゲティングしているSQL Serverが、エンタープライズ分野に通用しないかというと、そんなことはまったくありません。特にSQL Server 2005はエンタープライズを確実に意識したバージョンとして根本から作り直されたもので、十分な機能やスケーラビリティを備えています。前バージョンのSQL Server 2000でも、64bit化されてからは大規模エンタープライズでもまったく問題ないといえます。
問題なのは、マイクロソフトが発している「使い方が簡単です」というメッセージは、あくまでミッドレンジ以下の層に対してしか説得力を持っていない点です。いくら「チューニングレスで使えます」といっても、そもそもチューニングすることが前提になっているハイエンドのエンタープライズ・データベースではあまり意味がないのです。
さらにエンタープライズ・レベルでは、製品そのものの性能に加えて、構築や導入のノウハウをちゃんと知っているSIerがいて、初めてソリューションの提供が可能になります。Oracleは長い歴史を通じて一連のシステム構築のノウハウが出来上がっているのですが、現時点のSQL ServerにはOracleに匹敵するSIerの態勢が整っているかというと、まだそこまで達していないというのが実情でしょう。
こうして見てくると、Oracleはエンタープライズ用途に関して優位で、SQL Serverがそうでないという単純な議論は、あまり意味のないことが分かると思います。大事なのは、むしろOSレベルでの根本的な歴史の違いに着目することです。SQL Serverというのは、もともとWindowsベースのデータベースですから、Windowsが得意とするミドルレンジ以下の層に広く受け入れられてきたのです。反対にOracleはあくまでもハイエンドのUNIXを本道としてきました。この差が現時点での到達位置の違いになっていると考えるべきでしょう。
本来エンタープライズ・データベースというのは、単なるブランドでは判断できない部分が多いのです。ブランディングとカタログスペックだけで製品を判断してよいのはミッドレンジからローエンドまでです。エンタープライズのレベルでは、大手SIerがOracleとSQL Serverのどちらを提案するのかで決まってしまいます。ですからこの分野で勢力を広げようと考えれば、エンドユーザーに提案する技術者に対するマインドシェアが必要なのです。エンタープライズ領域でのマーケットシェアというのは、テクノロジだけでなくこうした複雑なビジネスのダイナミクスの上に成り立っていることを心得ておかないと、「シェア=データベースの実力」という安易な考えに縛られてしまう危険があります。
■互いの聖域に踏み込んだOracle 10gとSQL Server 2005
2005年、Oracleに転換期が訪れました。新たにリリースされたOracle 10gから、市場に向けたメッセージが大きく変わったのです。Oracle9iまではひたすらに大規模システムでのパフォーマンスを追求してきたのが、ここでがらりと方向性を転換したという印象があります。従来のハイエンドだけから、ミッドレンジまでを含む幅広いマーケットにターゲットを広げたのです。
その良い例が、インストールディスクです。Oracle9iまではインストールディスクが増える一方で、多いときは10枚くらいありました。それがOracle 10gになった途端、1枚になったのです。SQL Serverユーザーから見れば驚くに当たりませんが、これはOracleにとっては大きな姿勢の転換です。それまで、ハイエンドのエンタープライズ市場だけを追求していたのが、本気でミッドレンジから下の市場に取り組まなくてはならないと考えだしたのだと思います。
この市場を狙った競合製品を見ても、この2〜3年、SQL Server Express Editionなどの小規模システム向けのエディションが増えてきたことも、Oracleの市場戦略に影響を与えているのではないかという気がします。
こうしてOracleがミッドレンジに視線を転じたのと反対に、これまでミッドレンジ中心だったSQL Serverは、SQL Server 2005になって、本格的なエンタープライズ市場への取り組みを見せています。これはいい換えれば、SQL Serverが本当の意味でチューニングということを考え始めたのだということです。ある意味で、これまでOracleが追求してきた部分を、SQL Serverも追いかけようと考えだしたといえるかもしれません。
SQL Serverに精通した技術者の方々と話したのですが、彼らもSQL Server 2005が、いわゆるDBA(データベース管理者)の存在を前提とした、大規模エンタープライズシステムを意識したアーキテクチャに変わってきたと口々にいっていました。
上のような事実から、Oracle 10gとSQL Server 2005という最新のバージョンで、両ベンダが互いに相手の得意としてきた聖域に踏み込んだと感じています。今後はブランディング合戦にとどまらず、重なり合った土俵での技術力勝負になります。これはRDBMSの歴史にとって大きなトピックだと思います。(後編に続く)
プロフィール |
アイエイエフ
コンサルティング 平井明夫 DEC(現HP)、コグノス、オラクルを経て現職。一貫してソフトウェア製品の開発、マーケティング、導入コンサルティングを歴任。特に、データウェアハウス・BIを得意分野とする。現在は、BI技術の啓蒙のため、講演・執筆に積極的に取り組んでいる。 |
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Interview] 最新RDBMS選びのポイント 〜情報系システム〜(前編) 大規模データベースの“定説”をバッサリ切る |
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Page 1 ・大規模化へのニーズに応えたオラクルの戦略 ・Oracleのマーケット制覇を支えた最先端テクノロジ |
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Page 2 ・「Oracle対SQL Server」の図式に惑わされてはいけない ・互いの聖域に踏み込んだOracle 10gとSQL Server 2005 |
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