[DB Interview]
最新RDBMS選びのポイント 〜情報系システム〜(前編)
大規模データベースの“定説”をバッサリ切る
アイエイエフ コンサルティング
平井明夫
2006/7/11
本記事は前後編にわり、ビジネス・インテリジェンスやデータウェアハウスといった情報・分析系システムにおけるRDBMSの製品選択のポイントを検証する。お話を伺ったのはBIシステムのコンサルティングでは第一人者の平井明夫氏である。前編となる本稿では、RDBMS製品の変遷と最新のトレンドについて整理する。(編集部)
■4大ブランドが覇を競い合った10年前、生き残ったのは?
今回は私の専門領域であるBI(ビジネス・インテリジェンス)を中心に、情報系システムで使用されるリレーショナル・データベース(以下、RDBMS)についてお話ししたいと思います。まず、RDBMS製品の歴史とその背後にどういった動きがあったのかを知っておきましょう。
アイエイエフ コンサルティング マーケティング部 マーケティングディレクター 平井明夫氏 |
RDBMSのマーケットが最も成長し、実力の拮抗したベンダが激しく争っていたのは10年くらい前のこと。Oracle、Sybase、Informix、Ingresの各ブランドが「4大RDBMSベンダ」と呼ばれていました。
当時すでに業務系(データの検索と更新が大量に発生するトランザクション中心のシステム)、情報系(蓄積した大量のデータを分析するシステム)の両方にデータベースのニーズが存在していましたが、現在とはだいぶ様子が異なっていました。特に情報系システムのRDBMSでは、まだ単純に検索パフォーマンスを争っていたという印象があります。ベンチマークテストの結果が繰り返し発表され、「どの製品が一番速かった」といった議論に花を咲かせていたのです。
その後、時代とともにいろいろなベンダが淘汰されて、勢力地図も変わってきました。有名なところでは、当時はSybaseのブランドだったSQL Serverが、現在のマイクロソフトのSQL Serverに変わったり、InformixがIBMに買収されたりしました。情報系の分野、それも大規模なデータウェアハウスの世界では、あまたの競合製品の中でOracleだけがシェアを大きく伸ばしたという結果になっています。
一方、ミッドレンジから下のマーケットでは、Windowsプラットフォーム限定とはいうものの、マイクロソフトのSQL Serveが着実に力を付け、かつスケーラビリティもアップして、現在ではオラクルに次ぐ地位を築いています。非常に駆け足ですが、以上がいま私たちの見ているデータベース市場の勢力図の変遷です注1。
注1:RDBMS市場のシェア調査(IDC Japan)などでは、IBMのDB2、富士通のSymfoware、日立のHiRDBの名前も挙がるが、この3製品はベンダの提供するトータルソリューションの一部として採用されることが多い。今回の記事では、単体の製品として語られることの多いOracleとSQL Serverを中心に業界動向を考察している(編集部)。 |
■大規模化へのニーズに応えたオラクルの戦略
マーケットの移り変わりの一方で、ユーザーニーズの変遷はどうだったのでしょうか。
情報系システムのユーザーニーズに限ってみると、1995〜2000年ころまでは、ひたすら大規模データベース(以下、VLDB:Very Large Database)化が進められました。この中心となったのは通信・金融業界、加えてPOSデータの分析にデータベースを活用していた小売業界があります。
当時のVLDB化の大きな動きには、こうしたデータ量が巨大になる業務システムを使っている業界の情報系システムを中心に、非常に大規模なデータベースを高速に検索したいというニーズがあって、それに対する機能強化という形でデータベース・ベンダ側が開発に奔走したという背景があります。
通信業界でも特徴的なのは携帯電話です。NTTドコモをはじめとした各キャリアのデータウェアハウスは急激に巨大化し、そのデータ量はテラバイトをあっという間に突破してしまいました。コンビニ業界ではセブンイレブンを筆頭に、POSデータを分析するために、各社ともかなり大規模なデータベース+高速クエリのシステムを構築していたのです。
このリーディングエッジに当たる分野で、VLDB化の流れの先導役を演じたのはOracleで、圧倒的な実績を収めていました。Oracle7から始まって、Oracle8、Oracle8i、そしてOracle9iがリリースされた2001年ころまで、ブランドの威信にかけて強力にVLDB化を追求していったのです。もちろん同時に、ミッションクリティカルな業務系に向けた機能強化にも力を入れていましたが、やはり中心となったのはVLDBでした。
たしか、Oracle9iでは「ペタバイトまで対応可」という触れ込みでした。もちろんペタバイトというデータベースはいまだに実装レベルではほとんど存在していませんが、理論値ではそこまでいけるという話だったと思います。そういうエピソードからも、当時のオラクルの意気込みが伝わると思います。
■Oracleのマーケット制覇を支えた最先端テクノロジ
マーケットリーダーとなる一方で、リーディングエッジのテクノロジ分野でも、やはりOracleがリーダーとなっていました。その中でも特筆すべき項目の1つが、「パラレル系並列処理」です。いわゆる、パラレルクエリですね。パラレル処理の場合は、比較的シンプルにパラレル化して結果が出ればいい。情報系の処理ではトランザクションのコミットなどの排他制御はないので、わりと多重化しやすいのです。このため、パフォーマンスが速ければいいという当時の風潮の中で、追求しやすい技術分野だったともいえます。
次に反響が大きかったのは、「パーティション技術」です。例えば「レンジパーティション」と呼ばれる、1カ月ごとなどの連続的ドメインに沿ったパーティションとか、あるセグメントに関してパーティションを作って、その中でクエリをかけると非常に速いとか、あるいは大量データのドロップやアップデートをかけるのに速いといったメリットが受け入れられました。このため、当時はかなり利用された技術です。
上の2つは当時としては真新しい技術でしたが、こうした新技術を積極的に製品に取り込んでいった革新性という面でも、Oracleは非常に支持されていました。
当時のOracleはほとんど途中から1人勝ち状態だったのですが、こうした技術戦略の背景には、ブランド力の確立という目標も大きかったと思います。ブランド力が上がって注目度が高まれば、当然日本のSIer(システムインテグレータ)やユーザー企業はオラクルを採用するという動きが起こってきます。その結果、導入実績が増えれば技術者のスキルの蓄積がさらに加速し、相乗効果によるサイクルが回るようになります。
現在のエンタープライズ分野では、こうしたダイナミクスがシェア獲得のうえで重要で、対抗するベンダはキャッチアップできなかったということでしょう。ほかのベンダ製品もスペックではOracleに拮抗するレベルに達しているのですが、技術者のノウハウやスキルという部分では、Oracleに追い付けなかったのです。
大規模な情報系システムでは、以上のような理由でOracleが圧倒的に強いのですが、市場シェアがある程度まで満たされてくると、その一方でニッチマーケットというのが必ず生まれてきます。ここに、特殊セグメントならば飛び抜けて強いというベンダが出てきます。そうした分野で、当時Oracleに対抗して健闘していたのが、Red Brickです。汎用データベースではなく、検索専用のデータベースとして特殊なインデックス技術を使っていました。例えばバルクロードといって一度に大量のデータの更新をかけたり、複数のインデックスで集計データを取るといった局面になると、Oracleをどうチューニングしてもかなわないような、強力なパフォーマンスを見せていました。
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Page 1 ・大規模化へのニーズに応えたオラクルの戦略 ・Oracleのマーケット制覇を支えた最先端テクノロジ |
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