.NET開発者中心 読者調査レポート

開発者の関心は「スマートフォン」と「クラウド」に集中

―― 第3回 「.NET開発者中心」コーナー開設アンケート結果(2010年9月実施) ――

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2010/10/29

 @IT/Insider.NETのサブコーナーである「.NET開発者中心」では、2010年8月26日(木)〜9月5日(月)の期間、Windows/.NETベースの業務アプリケーション開発に携る@IT読者を対象に、Web上での自記式アンケートによる読者調査を行った(調査実施機関はアイティメディア株式会社。有効回答数は366件)。

 本稿は、その調査結果から、筆者が特に面白いと感じた「勤務先所在地」と「現在開発中/今後開発したいアプリケーション種別」と「.NET開発者中心へのフィードバック」に関するものを抜き出してグラフ化し、簡単な説明と考察を付記したものである。なお、本稿で取り上げなかった調査結果(「ソフトウェア開発の品質と課題」など)は、TechTargetホワイトペーパー「ソフトウェア品質の課題と対策とは?」として提供されている。

 以降、「アプリケーション」は「アプリ」と略す。「クラウド・コンピューティング」は「クラウド」と略す。

回答者プロフィール(勤務地)と、現在開発中/今後開発したいアプリ種別

勤務先所在地

Q. お勤め先の所在地(都道府県)は、次のどちらですか?

勤務地所在地:降順

 まず注意点として、47都道府県のこの分布を調べるのに今回の「366」というサンプル数は少ないと思われるので、正確性は保証できないが、ある程度の傾向を判断することはできると考えている。

 予想どおり、東京、大阪、神奈川、愛知などの都会に(今回のアンケートに答えた)開発者が多いことが分かる(これらの合計は、全体の58.5%)。その後に、北海道、兵庫、埼玉、新潟、福岡、静岡、広島、千葉と続いている(全体の21.6%)。

 なおこの勤務地の結果は、以降の説明とは何の関係もないが、読者調査レポートでは初めての調査項目で、筆者としては(東京と大阪の比率や、新潟県が比較的上位に来ていることなどが)興味深かったので載せてみた。

開発中のアプリ種別

Q. あなたが現在開発にかかわっているアプリケーションの種類を、ひとつだけお選びください(複数ある場合は、もっともリソースを投じているものをお選びください)。

現在、開発中のアプリ種別(全体:N=366)

 「現在、開発中のアプリ種別」(以降、現在アプリ)としては、「C/Sシステム用アプリ」(=クライアント/サーバ型システム)と「業務用Webアプリ」の2つがいずれも約30%前後と大きな割合を占めている。これに続いて、「スタンドアロンPC用アプリ」(=スタンドアロンのデスクトップ・アプリ)が11.7%である。これは、以前のアンケート結果とあまり変わらず、いつもどおりの結果だ

 一方、スマートフォンやWindows Azureをターゲットしたアプリ開発は、まだまだほとんど行われていないことが分かる。

今後、開発したいアプリ種別

Q. あなたが今後開発したいと思うアプリケーションの種類を、いくつでもお選びください。

今後、開発したいアプリ種別(全体:N=366)

 「今後、開発したいアプリ種別」(以降、今後アプリ)としては、「業務用Webアプリ」が51.6%と非常に大きくなっている。次に、「スマートフォン用アプリ」(38.8%)への関心が高い。つまり開発者は、Web指向がさらに強まりつつあると同時に、iPhoneや、Android端末(例:GALAXY S)、Windows Phone 7iPadなどの登場で話題となっているスマートフォンにも大きな関心を寄せてきていることが分かる(なお、この傾向がより明示的に理解できるよう、次節で、現在アプリと今後アプリを併記したグラフを示す)。

 その後は緩やかに(ほぼ横並びのような形で)、「Azureで稼働するクラウドアプリ」(33.3%)、「C/Sシステム用アプリ」(30.6%)、「商用Webアプリ」(29.8%)、「スマートクライアント3階層アプリ」(27.0%)と続いている。その下に少し離れて、「スタンドアロンPC用アプリ」がランキングされているが、それでも「21.6%」の利用意向がある。

 筆者が特に注目したのは、それぞれのアプリ種別にそれなりの利用意向が存在しているところである。これは、それだけ「開発技術の利用意向が分散してきている」ということを示している。

 この現象について技術系メディアの観点で考えると、昔はC/S型システムとWeb業務システムが主な開発分野だったため、その2大市場に向けた技術情報を提供すれば8割方の開発者にリーチできたわけだが、いまやさまざまなジャンルの技術情報を提供しなければ8割方の開発者にリーチできなくなってきているということであり、本当に大変な「薄利多売」の時代になりつつあるともいえる。これを、(情報を受け取る側の)開発者視点で見ても、たくさんのジャンルの技術情報を並行して学ばなければならないということで、同じく大変な時代なのかもしれない。

現在開発中/今後開発予定のアプリ種別

Q. (上の2つの質問のデータを統合)

 なお、現在アプリは単一選択の設問であるのに対し、今後アプリは複数回答で聞いた設問である。つまり、下記のグラフは厳密な比較結果ではなく、開発者の関心の行方を示す材料としてご覧いただきたい。

「現在、開発中のアプリ種別」と「今後、開発したいアプリ種別」の増減度(全体:N=366)

 このグラフは、上の2つの回答を1つにまとめて、「増減度」の値を「今後アプリ − 現在アプリ」により計算し、その数値が大きい順(=降順)で並べ替えたものだ。

 このグラフを見ると、スマートフォン(増減度:37.7%)とWindows Azure(クラウド)(増減度:33.3%)という2つの技術への関心が、大きく高まっていることが分かる。IBMが「多数のITプロフェッショナルが、2015年までに企業のコンピューター・テクノロジーがモバイルやクラウド・テクノロジーに移行すると予想‐ビジネス成長を加速するためのスキルの変化を示唆‐」という調査レポートを発行しているが、その結果にも類似する傾向である。

 逆に、C/S型システムへの関心は大きく縮小している。

 この結果を受けて筆者が考えたのは、以下のようなことだ。

 スマートフォンとクラウドの開発技術は、今後ますます目が離せなくなっていくに違いない。しかしながら、特にクラウドは普及に至るまでに数年単位で時間が掛かるだろうと、筆者は予測している。

 1つの指標として、ガートナーが毎年発表している「ハイプサイクル」(=注目→過剰な期待→幻滅→習熟→安定と推移する技術普及の流れ)の2010年度版では、クラウドは幻滅期に入りつつあるとしている。また、そもそもクラウドは「銀の弾丸」ですべてのアプリに対する最適な解ではなく、それに適したシステム種別がある。最も分かりやすい分野が、セールスフォース・ドットコムのForce.comのような、数週間でWebアプリを構築して、数カ月の期間限定で公開し、万〜億ユーザー単位の処理を行うようなシステム(例えばエコポイントの受付)である。

 つまり、「現在の中小企業などの受託開発がすべてクラウドに置き換わっていくのではなく、クラウドに向くシステム開発の市場が新たに拡大していくのではないか」と予想している。いい換えると、クラウド開発への「移行」ではなく、クラウド開発の「新規開拓」が、これから進んでいくのではないかということだ。このようなクラウド新規開発のジャンルが十分に理解され、普及していくには一定の時間が掛かるであろう。

 さらにいうと、将来的に、前述したように多くのアプリ種別がほぼ横並びで成長(あるいは衰退)していく可能性が高いだろうと予想している。つまり、業務系Webアプリ、商用Webアプリ、スマートフォン・アプリ、N階層システム、C/S型システムもそれなりのシェアを保ちながら、そこに大きくクラウド・アプリが加わることになるのではないだろうか。さらに、(せっかく盛り上がってきている状況に水を差すような形のコメントをするのは望んでいないが)クラウド・アプリが業務系Webアプリのシェアを追い抜くのはかなり先の将来で、「現在主流の業務系WebアプリやC/S型システムのほとんどが、クラウド・アプリに移行する未来」は、現時点の状況では想像しにくいと筆者は考えている(もちろん、クラウド開発の優位性が劇的に高まって、状況が激変することはあり得るが)。

 またスマートフォンについては、「利用者が急拡大するのではないか」という見方が世間一般的に大勢であり、年末商戦に向けてますます盛り上がりつつある。スマートフォン利用者が増えるに従って、エンド・ユーザーから「iPhoneを利用したシステムが欲しい」などの要望が多く挙がるようになるのは想像に難くない。「実際にこのような要望が、現場で増えてきている」と、iPhone向けのUIをASP.NET Webアプリで開発するためのコンポーネント「ComponentOne Studio for iPhone-UX 2011J」を提供するグレープシティ社からも聞いている。そういう「エンド・ユーザーからの突き上げ」という形で、今後、スマートフォン開発に対するニーズは急速に高まる可能性があると見ている。

 なお、本稿を掲載している「.NET開発者中心」では、12月4日(土曜日)に「.NET開発者のためのスマートフォン開発を考える」ことをテーマとしたセミナー「.NET中心会議」を開催することを計画している。そこでは、Windows Phone 7を中心に、幅広いスマートフォン開発を議論する予定である。募集告知は、数週間後になる予定だが、興味のある開発者はぜひ参加をご検討いただきたい。また、地方在住の方や参加申し込み人数からあふれた方のために、Ustremによるライブ放送も試験的に行う予定になっている。

「.NET開発者中心」コーナーへのフィードバック

読みたい記事/利用したいサービス

Q. あなたが今後「.NET開発者中心」で読みたい記事内容や利用してみたいサービスがあれば、いくつでもお選びください。

読みたい記事/利用したいサービス(全体:N=366)
SL=Silverlight。

 最も読みたい記事は「Visual Studio 2010で始めるデザインパターン」(43.7%)で、依然として開発効率化を高める技術情報に対するニーズは大きい。

 続いて第2位の記事は「Silverlightによる業務アプリ開発」(40.7%)だった。このことから分かるように、業務アプリ開発でSilverlightを使いたいという需要は高まってきているようだ。この記事と、デスクトップ・アプリ向けのWPFを対象技術とした「WPFによる業務アプリ開発」(27.0%)という記事を比較すると、「13.7」ポイントの差があり、Silverlightの方がWPFよりもニーズが強いことが分かる。

 上記の2つの記事に加え、「1から作る業務Webアプリ」(35.2%)が高ポイントであることを考慮すると、業務系アプリ開発の記事は、これまでどおりに需要が高い結果となっている。

 意外だったのは、ベータ版(英語版)として公開されている「Visual Studio LightSwitch」(23.0%)や「WebMatrix」(20.%)に関する記事のニーズが、まだそれほど高まっていないことだ。今後、正式版リリース時までに関心が高まるかどうかは注視していきたい。

 また、前述の「今後アプリ」でスマートフォンが人気であったのに対して、「Windows Phone 7アプリ開発」(22.4%)の記事にそれほど大きなニーズがないことは気に掛かる。この理由は、やはりまだ日本市場向けが出ていないことと、実際に利用者が使っているものがiPhoneであるため、スマートフォンとはいえどiPhone向けの開発に注目している開発者が多いからではないかと推測している。

 以上、簡単にアンケート結果の一部を紹介した。今回ご回答いただいた方々に感謝したい。皆さんからいただいた情報を基に試行錯誤を続け、今日の業務アプリ開発に役立つ実践的な情報を学び・共有する“場”をデベロッパーに提供できるよう、.NET開発者中心コーナーは努力していきたいと考えている。End of Article


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