連載
開発をもっと楽にするNAgileの基本思想

第4回 「プチ・パラダイムシフトせよ!」

福井コンピュータ株式会社 小島 富治雄(Microsoft MVP for Visual Developer - Visual C# Jul. 2005 - Jun. 2007)
2007/01/17
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登場人物:
弟子:点網 滝てんもう たき(♀)
.NET開発者。ウォーターフォール型の開発を行っているが、アジャイル開発を明るく真摯(しんし)な態度で学ぼうとしている。今回は滝に「プチ・パラダイムシフト」が起こるかも。
師匠:ナジャイラ師(マスター)(♂)
NAgiler(ナジャイラー=.NETにおけるアジャイル開発の実践者)。謎の多い人物。ちょっと偉そう。だが、実は弟子思い。前回判明した本名は「戸部 健とべけん」。
青年:原 健二はら けんじ(♂)
福井県で .NET開発者をやっている青年。目指すは、スーパー・プログラマー。実は、師匠の息子。訳あって母方の姓を名乗っている。
大師匠:原 眞鎮はら まあちん(♂)
福井県の永平寺の近くの女祖泥寺めそどろじに住む初老の男性。昔はソフトウェア開発者をやっていたらしい。師匠の師匠であり、義理の父でもある。健二の祖父。

※ご注意 ……本稿に登場する人物、会社、団体などはすべてフィクションであり、実在の人物、会社、団体などとは一切関係ありません。登場人物の役柄はストーリー上の設定であり、筆者や読者を代表するものでもありません。あくまでもフィクションとしてお読みください。
 
前回:開発をもっと楽にするNAgileの基本思想 第3回 アジャイル開発のキモはフィードバック!
姉妹連載:NAgileで始める実践アジャイル開発

■■プロローグ■■

 前回から数カ月が経過した。

 滝は、再び福井に来ていた。前回同様、CADメーカーとの仕事を終えた滝は、福井県の永平寺の近くの女祖泥寺めそどろじに向かった。大師匠に当たる、原 眞鎮氏の元を訪れるためだ。

 前回一緒だった、CADメーカーの青年、原 健二も一緒だ。また、(健二の父でもある)師匠も、やはり女祖泥寺で合流することになっていた。

よく来たな。滝、健二。健もすでに来ておるぞ。

 

 

はい。先日はお世話になりました。またぜひお話を聞かせてください。

   

まあお上がり。

   

おお。来たな。

   

親父……久し振り。

   

師匠!

   

そろったようぢゃの。

■■1. 滝の悩み■■

……さて。滝よ。どうだ。NAgileを実践しているか?

 

 

はい。N*ツール*1を使ったチーム開発を試しています。

*1 N*ツールについては「NAgileで始める実践アジャイル開発 第1回 .NET+アジャイルなら本当に幸せになれるのか?」を参照のこと。
   

そうか。うまくいっているか?

   

N*ツールには、まだ不慣れです。師匠。わたしもN*ツールを使いこなせるようになるでしょうか。

   

焦ってはならない。N*ツールを使いこなせるようになることが大切なのではなかろう。

 いっておいたはずだ。

“I'm trying to tell you that when you're ready,
you won't have to use the N* tools.”

(お前がもし真にNAgileに目覚めれば、もはやN*ツールを使うまでもない)

   

はい、師匠。

 ……それから、組織の中でアジャイル開発がなかなか浸透していかなくて、ちょっと悩んでます。組織の上の方には、アジャイルに懐疑的な人も多くて……。

そうか。

アジャイル開発をやるためには、組織自体も少しずつ変えていかなきゃいけないのかな、と。

……。滝よ。お前にいっておいた方がよいようだ。

「アジャイル開発をやろう」なんて考えるな。

ええっ?! でも……。

……まあ聞け。……実は、わたしも以前同じように悩んだことがある。どうやって組織にアジャイル開発を取り入れていこうか、と。組織全体を巻き込もうといろいろとやってみた。だが、なかなか思うようにはアジャイル開発は浸透していかなかった。 わたしは悩んだ。そして、ここにいらっしゃる師匠にも相談した。師匠から教えを受け、そして、ある日わたしは気付いたのだ。

   

師匠。教えてください!! どういうことが分かったんですか!?

   

まあ待て。その前にお前に確認することがある。アジャイル開発を組織内で普及させるのが目的なのか?

   

それは……。

   

アジャイルが目的なのか? アジャイル開発をやること自体が目的なのか?

   

……。

   

……滝よ。いっておく。「どうすればアジャイルな開発をやれるか?」などと考えてはならぬ。

“Don't think how to do the agile development,
but be agile simply.”

(どうやってアジャイルをやろうかと考えるな。ただアジャイルであれ)

 アジャイル開発は目的ではない。それは分かっているだろう。

   

……はい。

   

なら何が目的だ? 目的について考えてみよ。

   

……。

   

滝よ。まず申してみよ。ソフトウェア開発は何のためにやるのだ?

   

それは……。それは……顧客に顧客の欲しいシステムを提供するためです。

   

そうぢゃ。顧客(=クライアント)の抱えている問題に対して、われわれソフトウェア開発者はソフトウェア開発によって、解(=ソリューション)を提供する。

 そしてアジャイル開発はそのための手段にすぎぬ。手段についてばかり思い悩むのではない。目的について考えるのだ。

 とらわれてはならぬ。

“Free your mind.”
(心を解き放て)

   

……。

   

滝よ。本当のことを話してやろう。信じられないかもしれぬが、

「アジャイル開発プロセスなんてものはないのぢゃ」。

 そして、最も大切なことを教えてやろう。「これをやりさえすればソフトウェア開発が成功する」なんて手段は存在しない。

“There is no silver bullet.”
(銀の弾丸はない)

 アジャイル開発を「銀の弾丸」だと思い込んではならぬ。アジャイル開発も、ソフトウェア開発が抱える多くの問題を一発で解決するようなものではあり得ない。

   

はい。よく考えてみます。

   

頭で考えるでない。感じるのぢゃ。考え方を変えるのだ。新たな視点を探せ。

プチ・パラダイムシフトぢゃ。

 それではこれから視点を変える練習をしてみよう。わしの書斎に行こう。付いてきなさい。

   

はい。

 

 INDEX
  開発をもっと楽にするNAgileの基本思想発
  第4回 「プチ・パラダイムシフトせよ!」
  1.滝の悩み
    2.ソフトウェア開発の目的とは何か
    3.視点を変えよ 〜プチ・パラダイムシフト〜
    4.アジャイル開発をやることとは
 
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