Linux Kernel Watch

10月版 Reiser4と激怒するLinuxカーネル開発者たち

上川純一
日本ヒューレット・パッカード株式会社
コンサルティング・インテグレーション統括本部
2005/10/25

linux-kernelメーリングリスト(以下LKML)かいわいで起きるイベントを毎月お伝えする、Linux Kernel Watch。9月のLinuxカーネル関連の状況について、見てみましょう。

Reiser4のマージは前途多難

 ReiserFSの開発者Hans Reiserは、メインラインカーネル(Linusのツリー)へのReiser4ファイルシステム導入に関するメールを投稿しました。

編注:ReiserFSについては、「進化し続けるReiserFS」も参照。

 Reiser4ファイルシステムについては、Hans Reiserが以前「2.6.13に本格的にマージしてくれ」という議論を展開したものの、結局2.6.13にはマージされなかったという経緯があります。Hans Reiserへの反論として、「メインラインに新しいファイルシステムのコードを入れる要件として、カーネルのメンテナたちだけでもバグを修正できるようにレビューが必要だ」という主張が多くありました。

 9月の始めに、Reiser4をレビューできるようにするために必要な8つの項目が、宿題としてHans Reiserに出されました。最初に触れたHans Reiserのメールはその宿題への回答で、「半分くらいは実装した」というものでした。しかし、そのメールの趣旨は「宿題をやりました」という報告ではなかったため、議論となりました。

 Hans Reiserのメールの中で特に反感を買ったのは、

8.ソースコードが見にくくなるから、冗長なassertを削除する。

という修正要求(宿題)に対して、

この要求をした人はセキュリティについての専門家でないだろう。assertをたくさん入れているのは、専門的にコードのレビューをしている人たちから見ると良い方針だと思われていることをやっているだけだ。

という文章から始まる反論でした。

 この反論に対して、Christoph Hellwigは自分が名指しされていると感じたようです。彼はHans Reiserのコメントについて長々と反論のコメントを書き、最終的には、

自分はReiser4についてはレビューはしない。レビューをして指摘しても、コードの修正ではなく、個人的な中傷が返ってくるので、もうやりたくない。ほかの人を探してくれ。

というメールを投稿しました。

 Christoph Hellwigは、ReiserFSの中でLinuxのI/Oの機構が再実装されている理由を説明するか、再実装を止める必要があるだろうと宣言しました。

 Reiser4のマージは、まだまだ難しそうな雰囲気です。

参考リンク:
Reiser4(NAMESYS) http://www.namesys.com/

ついにFUSEがLinusのツリーに

 Andrew Mortonは、9月5日に発表した2.6.13の「Kernel Status」というメールでFUSE(Filesystem in Userspace)について触れ、「もう議論するのに飽きた。残っている問題については、ツリーに入れてしまってから検討しよう」と宣言しました。まずはこのままの状態で、FUSEをLinusのツリーにマージしてしまい、そのうえで残りの問題を議論する、という方針を取るというのです。

編注:FUSEについては、Linux Kernel Watchの
 「4月版 カーネル2.6.11.yのメンテナは嫌なヤツ?
 「5月版 BitKeeperからgitへ、ソースコード管理ツール大変更
 「8月版 割り込み頻度変更で消費電力は低下するか?
も参照。

 それから間もない9月13日、Linusが発表したカーネル2.6.14-rc1のリリースのメールには、「FUSEがマージされた」という一文がありました。紆余曲折がありましたが、とうとうFUSEがLinusのツリーに入ったのです。

 FUSEは、ユーザー権限でファイルシステムサービスを提供することができます。ただ、そのような機構においてどうやってセキュリティ機構を実装するのか、という点についてはなかなか開発者たちの同意が得られませんでした。それどころか、「FUSEはNFSサーバとして実装し直せるのではないか」という議論まで展開されるなど、不遇な期間もありました。

 FUSEと同時に、v9fsもLinusのツリーにマージされていました。面白そうなファイルシステムがカーネルに入ってきたところで、これらカーネルの新機能を応用したシステムがどのように構築されていくのか、見ものです。

編注:v9fsについては、Linux Kernel Watchの
 「7月版 gitベースのカーネル2.6.12に問題発生!?
も参照。

参考リンク:
FUSE http://fuse.sourceforge.net/
v9fsプロジェクトページ http://v9fs.sourceforge.net/

1/2

Index
Linux Kernel Watch 10月版
 Reiser4と激怒するLinuxカーネル開発者たち
Page 1
 Reiser4のマージは前途多難
 ついにFUSEがLinusのツリーに
  Page 2
 RCU導入でファイルアクセスにロックが不要に?
 gitのコマンドの一部がリネームされる
 Serial Attached SCSI対応をめぐる攻防
 -stableのアップデート
 DynTicksの続報
 devfs削除との戦い

連載 Linux Kernel Watch


 Linux Squareフォーラム Linuxカーネル関連記事
連載:Linux Kernel Watch(連載中)
Linuxカーネル開発の現場ではさまざまな提案や議論が交わされています。その中からいくつかのトピックをピックアップしてお伝えします
連載:Linuxファイルシステム技術解説
ファイルシステムにはそれぞれ特性がある。本連載では、基礎技術から各ファイルシステムの特徴、パフォーマンスを検証する
特集:全貌を現したLinuxカーネル2.6[第1章]
エンタープライズ向けに刷新されたカーネル・コア
ついに全貌が明らかになったカーネル2.6。6月に正式リリースされる予定の次期安定版カーネルの改良点や新機能を詳しく解説する
特集:/procによるLinuxチューニング[前編]
/procで理解するOSの状態

Linuxの状態確認や挙動の変更で重要なのが/procファイルシステムである。/procの概念や/procを利用したOSの状態確認方法を解説する
特集:仮想OS「User Mode Linux」活用法
Linux上で仮想的なLinuxを動かすUMLの仕組みからインストール/管理方法やIPv6などに対応させるカーネル構築までを徹底解説
Linuxのカーネルメンテナは柔軟なシステム
カーネルメンテナが語るコミュニティとIA-64 Linux
IA-64 LinuxのカーネルメンテナであるBjorn Helgaas氏。同氏にLinuxカーネルの開発体制などについて伺った

MONOist組み込み開発フォーラムの中から、Linux関連記事を紹介します


Linux & OSS フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

Linux & OSS 記事ランキング

本日 月間