11月版 ドライバに変数を渡すのにうってつけの方法
上川純一
日本ヒューレット・パッカード株式会社
コンサルティング・インテグレーション統括本部
2005/11/29
linux-kernelメーリングリスト(以下LKML)かいわいで起きるイベントを毎月お伝えする、Linux Kernel Watch。10月のLinuxカーネル関連の状況について、見てみましょう。
カーネル2.6.14リリース!
10月28日に、とうとうカーネル2.6.14がリリースされました。
Linusの計画では、10月11日にリリースしたrc4の後にリリースするつもりでした。しかし、さまざまな問題が解決できなかったため、当初の計画にはなかった-rc5を出すことになりました。これにより、カーネル2.6.14は予想よりも遅れてのリリースとなったのです。
当初宣言していたリリースプロセスでは、「リリースから2週間経過した後はメールのみでパッチを適用する」としていました。しかし、この方法は運用上のオーバーヘッドが大き過ぎて、2.6.14のリリースには適用できませんでした。そのため、gitのツリーで丸ごとマージする処理も発生していました。
今後もこのまま運用することになりますが、「最初の2週間に大きな変更を導入し、以後は修正のみを適用する」という方針を維持していくつもりのようです。
なお、2.6.14がリリースされたことにより、新規の取り込みを止めていた大量のパッチがすごい勢いでLinuxのツリーに取り込まれ始めました。次の2.6.15はどうなるのか、そのリリースプロセスをどうするのか、楽しみです。
プライベートネームスペースに懸念
ユーザーレベルでファイルシステムをマウントできるv9fsやFUSEが、とうとう安定版カーネル2.6.14の一部としてリリースされました。
編注:FUSEとv9fsについては、Linux Kernel Watchの 「10月版 Reiser4と激怒するLinuxカーネル開発者たち」 も参照。 |
ただし、これらのファイルシステムが導入されたことにより、「ユーザーごとにファイルシステムツリーが異なって見える」という、従来はより実験的で特殊な状況に限られていた状態が普通に発生することになります。
例えば、「/etc/mtabをどう維持するのか?」という問題があります。mountコマンドは、/etc/mtabを管理する際に「複数のファイルシステムネームスペース空間がない」ことを前提にしています。FUSEなどにより、この前提条件が成立しなくなるのです。実は、これまでにも、chroot環境などでは問題になっていたことです。
今後、/etc/mtabの仕様が変わることもあるのでしょうか。/etc/mtabに依存しているツールもいくつかあると思われるので、今後の対応が心配です。
参考リンク: | ||
FUSE | http://fuse.sourceforge.net/ | |
v9fsプロジェクトページ | http://v9fs.sourceforge.net/ |
広がる-RTカーネル
-RTカーネルは、Linuxカーネル上でのリアルタイム処理実現を目指して開発が続けられています。-RTカーネルでは、長時間カーネル内部で処理をし続けるような状況を回避するため、プリエンプションや長時間の処理を複数に分割したりする変更が加わっています。音声データのリアルタイム処理など、処理のレイテンシが重要な用途でのユーザーが定着しています。
これまで開発はx86対応が中心で、まだ移植版を作成するという雰囲気ではありませんでした。最近は、デスクトップPCやノートPC向け64bit CPUであるx86_64アーキテクチャのユーザーが増加しているため、x86_64の対応が進んでいます。LKMLにも、「デバッグ機能が動かなかったりしたのを修正した」というメールが流れていました。今後、x86_64でも安定してリアルタイムの音声処理ができるようになるかもしれません。
なお、ARM向けの対応も少しずつ進んでいるようです。
ディスクI/Oとniceレベル
「大きなディレクトリに対して“cp -a”などを実行すると、システムの速度がかなり低下するため作業ができない」。Marc Perkelの苦情がLKMLに流れました。
それに対して、Con Kolivasは「CFQ(Complete Fair Queuing)スケジューラではniceレベルを選択できる」と説明しました。
niceコマンドを使うと、CPUの優先度を変更することができます。フロントエンドで実行しているアプリケーションのレスポンスタイムへの影響を低減するため、バックグラウンド実行しているバッチジョブの優先度を下げる場合などによく利用するコマンドです。
最近のカーネルは、ディスクI/Oのスケジューラを選択できるようになっています(注)。そのうちの1つであるCFQスケジューラでは、発行しているプロセスごとに優先度を指定できるようになっているとのことでした。CFQの優先度は、ioniceコマンドで設定できます。また、デフォルトではnice情報を利用するため、niceコマンドを使えばCFQスケジューラを利用しているデバイスに対する処理の優先度を変更できるようです。
注:I/Oスケジューラには、anticipatory(デフォルト)、CFQ、deadline、Noopがある。ちなみに、Red Hat Enterprise Linux 4.0はCFQをデフォルトとして採用している。 参考:Choosing an I/O Scheduler for Red Hat Enterprise Linux 4 and the 2.6 Kernel(http://www.redhat.com/magazine/008jun05/features/schedulers/) |
残念ながら「READなど一部の処理についてのみ有効」とのことですが、便利な機能かもしれません。
参考(カーネルソース内): | ||
CFQの優先度設定について (ioniceツールなどが紹介されている) |
Documentation/block/ioprio.txt |
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