連載:アニメーションで見るパケット君が住む町(7)
インターネット世界の住所の書き方
綱野衛二
Roads to Node
2009/12/8
今回はTCP/IPネットワークであて先を特定するための識別子であるIPアドレスについて説明していきます。IPアドレスの構造や値の設定、サブネットマスクの役割など、IPアドレス関係はTCP/IPネットワークの重要なポイントとなっています。
パケット君の配送票に書く「住所」
前回の連載で、パケット君が登場しました。多くの市から構成されるインターネット世界で、パケット君は荷物に配送票を付けることによって、市をまたいだ荷物運輸を可能にしています。今回はパケット君が荷物に付ける配送票に書く内容のうち、最も重要といえる「ビル所在地」について説明します。
編集部注:実は、インターネット世界では地名のネタが尽きかけています。そんな事態に備えて、新しい地名を決めるルール(IPの新しいバージョン)のIPv6への移行が進みつつあるのですが、この記事では、現行のIPv4を前提にして説明します。IPv6の世界での荷物配送については、回を改めて説明します。 |
7-1 パケット君が使う住所
さて、前回パケット君の仕事っぷりを確認しました。パケット君は「市」と「市」をつないで、違う市にあるビルとの荷物の受け渡しのために仕事をしていることが分かりました。
パケット君「そういうこと。僕がいないと市内運輸しかできないんだからね」
そうですね。パケット君の仕事によって、広大なインターネット世界での荷物のやりとりが可能になるんです。
前回、パケット君が使っている配送票について説明しましたが、今回主に取り上げるのは、その配送票に書かれている内容のうち、「届け先」「送り元」の住所です。これは確か「ビル所在地」でしたよね。イーサ配送君が使う「ビル名」とはまた違った、「届け先の指定」でしたよね。
パケット君「そうだね。僕が届け先と送り元に使うビル所在地は、インターネット世界でそのビルの場所だからね。つまり『どこにあるか』が明確に分かる住所ってことだよ」
イーサ配送君が使う住所は「市内で届け先が分かる住所」である「ビル名」、パケット君が使う住所は「インターネット世界で届け先が分かる住所」である「ビル所在地」ってことですね。
前回の話では、ビル所在地は、「ビルの所属する市」と「市内のビルの場所」という2つの情報が組み合わさっているという話でした。つまり「市の名前」+「ビルの番地」で「ビル所在地」ってことですね。例えば「ビントサーフ市」の「1番」で「ビントサーフ市1番」というビル所在地になるわけです。
つまり、届け先を考える場合、まず「届け先のビルがある市はどこか」が市の名前で、さらに「市のどこにあるか」が番地で分かるという仕組みになっているわけですね。これはルート君の仕事の中でも重要なポイントなので、忘れないようにしないといけません。
パケット君「そういうこと。まず『市の名前』だけど、これはインターネット世界政府が決めた名前で、同じ名前の市はほかにはないんだよ。一方、ビルの番地は市の役所が決めるんだ。こっちは別にほかの市と同じ番地があっても問題ないよね。これで『世界で1つだけの住所』ってことになるんだよ」
図7-1 インターネットにおけるビル所在地の書き方 |
ふむふむ。インターネット世界政府が重複のないように市の名前を決めて、さらに市の役所がビルの番地を決める――確かにこの2つを組み合わせれば、「インターネット世界で同一の住所がない住所」になりますね。これにより、「インターネット世界でビルの場所が特定できる」ことになります。
また、どの市でも「0番地」は必ず「その市そのもの」を指す住所です。
例えば、「ビントサーフ市0番地」といったら、それは「ビントサーフ市そのもの」を意味します。例えば、「この道はビントサーフ市0番地につながっている」といったら「ビントサーフ市につながった道」という意味になります。
パケット君「いくつか特別な意味を持つビル所在地の書き方があるんだよね。ともかく、インターネット世界ではこの『ビル所在地』で届け先とあて先のビルを指定する。そして、ビル所在地は『市の名前』と『番地』から成り立っている。この2つは大事なことだよ」
前回からIPについて説明してきました。IPの役割として大事なのが「アドレスの決定」と「経路選択」です。今回はそのうち、アドレスの決定について説明します。
前回も説明しましたが、IPが使用するアドレスはIPアドレスです。TCP/IPプロトコルを使用するうえで、IPアドレスがないことにはあて先の特定ができません。
IPアドレスは場所を特定するため、「相互に接続するネットワーク群内で重複がない値」にしないといけません。そのため、「相互に接続されているネットワーク群」の中で管理され、重複が存在しないように設定されています。
インターネットの場合、ICANN(アイキャン:The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という非営利団体がIPアドレスを管理しています。もともとはアメリカ合衆国の組織であるIANA(アイアナ:Internet Assigned Numbers Authority)がその業務を行っていましたが、現在はICANNがIANAの上位組織として管轄しています。
ICANN/IANAが管理するIPアドレスは、その下部組織である地域レジストリ(RIR:Regional Internet Registry)や国別レジストリ(NIR:National Internet Registry)が委託されて、実際にIPアドレスを配布・管理しています。
インターネットへの接続を希望する団体・組織は、この「レジストリ」からIPアドレスを配布されます。
図7-2 レジストリの役割 |
IPアドレスは「機器が所属するネットワークの番号」と「機器の番号」で32ビットであるという話を前回しました。IPアドレスをレジストリから配布されるということは、このうち「ネットワーク番号」が決定される、ということになります。パケット君たちの例でいえば、市の名前が決定するわけです。
これに、その組織の管理者が機器の番号を割り振ることにより、その機器のIPアドレスが決まります。
IPアドレスは32ビットの固定長ですが、「ネットワーク番号」「機器の番号」の長さは決まっていません。ネットワーク番号の長さはレジストリが決定します。それにより機器の番号の長さが決まり、そのネットワークに配置できる機器の数(IPアドレスの数)が決定します。
例えば、レジストリがネットワーク番号を20ビットとして決定した場合、機器の番号の長さは残り12ビット、つまり2の12乗で2048個のIPアドレスがそのネットワークで使えることになります。
図7-3 IPアドレスの表記法 |
ただし、機器の番号のビットがすべて0とすべて1のIPアドレスは、機器に割り当てることができない特別なアドレスです。すべて0のアドレスは「ネットワークアドレス」と呼ばれ、その「ネットワークそのもの」を指すアドレスとして使います。
すべて1のアドレスは「ブロードキャストアドレス」と呼ばれ、「ネットワーク内すべての機器あて」を指すアドレスとして使われます。
7 インターネット世界の住所の書き方 | |
7-1 パケット君が使う住所 | |
7-2 市内を「区」に分割しよう | |
7-3 ビル所在地から考える荷物の動き 7-4 「ビル所在地」のおさらい |
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