連載:アニメーションで見るパケット君が住む町(9)
インターネット世界の連絡係
綱野衛二
Roads to Node
2010/5/19
9-2 相手に届くか確認してみよう
ICMP君の仕事にもいろいろありますが、中でも一番多い仕事は何でうか?
ICMP君「そうですね、『往復書簡』とでもいうべき仕事です。単純な仕事なんですが、しょっちゅうやっていますよ」
この仕事ですが、内容はとてもシンプルです。
- ICMP君が届け先にいるICMP君に対して、「返事をください」と要求書を送ります
- それを受け取った届け先にいるICMP君は「返事です」という報告書を送ります
これだけです。
図9-5 ICMP君の主な仕事、「往復書簡」 |
さて、何のために、ICMP君はこんな仕事をするのでしょうか?
パケット君「僕はICMP君の『要求書』と『報告書』を運んでるんだけど、これは『僕の仕事がうまくいくか』を調べるためにICMP君が依頼を受けて実施するんだよ!!」
この仕事のポイントは、
- 要求書を送った相手から、返事の報告書が返ってくるということは、「荷物のやりとりができている」という証拠となる
ということです。
パケット君はいろんな荷物を運びます。実際には、イーサ配送君やPPP君のトラックや列車が運んでいるんですが、パケット君とルート君が道を決めて運ばせています。ICMP君の要求書・報告書もパケット君に頼んで運びます。また、TCP課長やUDP課長による業務用荷物も、同じようにパケット君に頼んで運ばれています。
ここでICMP君の要求書・報告書がやりとりできるということは、パケット君が荷物を運ぶことが可能な相手である、ということを意味します。それはつまり、業務の荷物も運ぶことができる相手であるということなのです。
ICMP君「逆にいえば、『荷物がうまく届かなかった』といわれた場合でも、私の『往復書簡』がちゃんとやりとりできているならば、パケット君に責任はないということになりますよね」
そういうことです。もしICMP君の「往復書簡」がちゃんとやりとりできているにもかかわらず、「荷物の受け渡しがうまくいってない」ならば、それはTCP課長やUDP課長、もしくはその上に原因があるということが分かります。つまり、ICMP君の往復書簡は「荷物の未着」の「原因調査」に使われているんですね。
図9-6 往復書簡が意味するところとは…… |
「ping」というソフトウェアがあります。
これはTCP/IPを実装している機器ならばほとんどの機器が使用でき、また保有しているソフトウェアで、聞いたことがある人も多いかと思います。ちなみに読みは「ピン」か「ピング」です。
このpingはICMPを利用したソフトウェアで、タイプ「8」の「Echo Request」(エコー要求)を、指定したあて先へ送信するという機能を持っています。ICMPではこのエコー要求を受け取った場合、タイプ「0」の「Echo Reply」(エコー応答)をエコー要求の送信元へ送る、という取り決めになっています。つまり、エコー(やまびこ)です。「やっほー」といわれた側は、「やっほー」とやまびこを返さなければいけません。
図9-7 ICMP Echoのやりとり |
この単純な仕組みのソフトウェアが非常に有名な理由ですが、それは、このpingによりエコー要求を送ることで「あて先との接続」が確立しているかどうか分かるからです。
当たり前ですが、IPはTCP/IPでは必ず使われるプロトコルです。TCP/IPで行われる通信、例えばWeb、メールなどは、IPによってネットワーク間接続が行われ、あて先に届きます。IPはイーサネットやPPPなどのプロトコルを「乗り継いで」あて先へ届くことになります。ICMPも、IPを使ってICMPのメッセージを運んでもらっています。
よって、pingによりエコー要求に対してエコー応答が返ってくるならば、「IPによる通信には何ら問題がないことが分かる」ことを意味するのです。具体的には、
- あて先に指定したIPアドレスが存在する
- あて先(のIPアドレス)の機器が起動しており、通信に応答できる状態である
- あて先がTCP/IPを使用している
- あて先までのルーティングが間違っておらず、パケットが届く
- あて先までの経路上のイーサネット、PPPなどのレイヤ2プロトコルは正常に動作しており、データを伝えることができる
などの事柄が、「エコー応答が返ってくる」ことで確定します。
もし、Webを閲覧できない、メールが届かないなど、ネットワークを利用していてあて先との通信がうまくいってない状態になったとしても、pingを実行してエコー応答が返ってくるならば、それは「IPやレイヤ2・1は正常」であり、「レイヤ4以上に問題がある」ことが分かります。
またエコー応答が返ってこないならば、それはIPアドレスのミスや途中のレイヤ2の状態がおかしい、つまりIP以下のレイヤに問題がある、ということになります。
つまり、このpingは「あて先とデータのやりとりができるか」「できない場合の原因はどのレイヤ3以下なのか、レイヤ4以上なのか」を判別できる、ということです。よって、ネットワークを管理したり、状態を確認したりする際には、この「ping」という単純なソフトウェアを使用することが多いのです。
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