連載:アニメーションで見るパケット君が住む町(10)
TCP課長は几帳面でしっかりもの!
綱野衛二
Roads to Node
2010/7/26
TCP/IPプロトコル群の名前は、そのままずばり「TCP」と「IP」という2つのプロトコルから来ています。このうち「IP」についてはすでに説明しました。今回はもう1つの主役、「TCP」の役割について説明します。
データ通信を確実に行うために必要な仕事
これまでの連載で、イーサ配送君、パケット君、ルート君などの働きにより、ビルとビルの間で荷物を運べるようになるまでの動きを見てきました。今回からは、パケット君の上司の仕事っぷりを見てみましょう。
10-1 2人の上司
さて、パケット君のいる「商品受発注課」は3階と4階にあります。パケット君がいるのが3階です。4階にはパケット君の上司に当たる人たちがいるそうです。
パケット君「2人いるよ。TCP課長とUDP課長だね」
そうですね。ではこの2人の話をする前に、ちょっとだけ復習といきましょう。
UDP課長「ありゃー、ようやく出番かと思ってたのにー」
すいません、後でまた。
このインターネット世界では、荷物はビルからビルへと運ばれます。いままでの説明で、「ビルからビルへの荷物の運輸」は十二分に行えることがお分かりかと思います。
- トラックや電車が、道路や線路を使って荷物を運ぶ
- イーサ配送君やPPP駅員君がトラックや電車の運行を管理する
- パケット君が住所を決め、都市間のやりとりのルールを決める
- ルート君がステーション間の道筋を決める
図10-1 3F商品受発注課までの仕事 |
これでビルとビルの間で荷物をやりとりできるわけです。つまり、こと「荷物を運ぶ」という点に関していえば、トラック、イーサ配送君、パケット君、ルート君たちの仕事だけで問題なく行われるわけです。
パケット君「そういうこと。3Fの商品受発注課の仕事で、都市と都市を結び、ビルとビルをつなぎ、荷物をあて先のビルまで届けるのさ!!」
逆にいえば、4階の商品受発注課の2人の課長や、5階より上にいる各サービス事業部の皆さんの仕事は「荷物を運ぶ」ことではない、ということですね。いったいどんな仕事なのか聞いてみましょう。
TCP課長「私の仕事は『届ける』という直接的な仕事ではありませんが、パケット君やルート君、イーサ配送君達がビルまで届けてくれた荷物に対し、それが正しく届いているかを監視し、そして途中における荷物の……」
UDP課長「話が長いんだね、相変わらずー。後でゆっくり説明してくれよー」
……え〜っと。つまり、「届いた荷物にまつわる処理」を行うということですね。
3階商品受発注課の仕事だけでも荷物は届きます。そこから上の階では、「届けること」ではなく、「届いた後にすること」「届ける前にすること」を考え、実行する役割を担っているのです。
図10-2 4F商品受発注課から上のフロアのお仕事 |
では、4階商品受発注課の2人の課長は具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。
パケット君「うちの2人の課長の仕事ぶりは正反対さ。『しっかり正確』がうたい文句のTCP課長に、『ざっくり素早く』のUDP課長。見てる分には飽きない2人だよ」
TCP課長は「しっかり正確」、つまり「荷物をしっかり正確に」運んでもらうための仕事をしています。一方UDP課長は「ざっくり素早く」、つまり「荷物をとにかく速く運ぶ」ための仕事をしています。ですよね?
TCP課長「そうです。私が正確に仕事を行うことにより……」
UDP課長「次からちゃんと説明するからねー」
前回までの説明で、コンピュータからコンピュータへのデータ転送自体は可能になります。つまり、
- IPによるアドレッシングとルーティングにより、あて先コンピュータの決定、あて先への経路の決定
- イーサネット・PPPによるネットワーク内のデータ転送での制御
- ケーブルによる信号の伝達
これらにより、データをあて先のコンピュータへと届けることが可能になります。ですが、データを相手と「正しくやりとりする」には、別途そのための機能が必要となります。それを提供するのがレイヤ4、トランスポート層です。
レイヤ4のTCP/IPのプロトコルには「TCP(Transmission Control Protocol)」と、「UDP(User Datagram Protocol)」の2つがあります。この2つは排他で使用され、どちらか一方が使用されます。どちらを使うかは、上位のアプリケーション層のプロトコルによって異なります。
TCPは「データを確実に運ぶため」の処理を行うプロトコルであり、UDPは「TCPの逆の処理を行う」プロトコルです。TCP/IPではTCPを使うプロトコルの方が多いため、まずはTCPの動作を覚えましょう。
10 TCP課長は几帳面でしっかりもの! | |
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データ通信を確実に行うために必要な仕事 10-1 2人の上司 |
10-2 荷物が届くか事前に確認 | |
10-3 正しい順番で荷物をやりとり 10-4 相手の状態を確認しつつ送る 10-5 おさらいとまとめ |
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