標準化の完了した最新イーサネット規格
特集:10ギガビット・イーサネット大解剖
近藤卓司
ノーテルネットワークス
2002/7/17
Part.4 10ギガビット・イーサネットの最新動向と将来の展望 |
■標準化後の10ギガビット・イーサネット
写真1 WAN PHYを搭載したノーテルネットワークス製レイヤ2/3スイッチのデモ風景 |
10ギガビット・イーサネットの標準が「IEEE802.3ae」として承認された。これまで標準化に先行して製品を出荷してきたベンダに加え、年内にはさらに多くのベンダが標準に準拠したさまざまな製品の出荷を開始する。現状としては、先行出荷の製品を含め、レイヤ2/3スイッチにLAN PHYを実装したものが中心となっている。その用途として、ギガビット・イーサネットに代わる大容量のレイヤ2/3スイッチ間接続を意識しているものと思われる。
サーバ向けのアダプタも順次出荷されている。今後は、WAN PHYの実装やルータや光伝送装置などへの実装が進んでいくと予想される(写真1)。LAN PHY、WAN PHYの両方に対応するUNI-PHYや、PMDを交換することができるプラグ型のXENPAKの実装も徐々に進むだろう。ルータでは、現状でもかなり高価なOC-192 PoS(Packet over SONET)インターフェイスの代替が期待される。10ギガビット・イーサネットのWAN PHYとOC-192 PoSとには互換性はない。実現できる機能に差はないが、10ギガビット・イーサネットならば低価格化が期待できる。すでに多くの場で進められているが、異なるベンダの機器間で相互接続の実績が増え、10ギガビット・イーサネットが普及する環境が急速に整っていくだろう。
■LAN分野での製品出荷が先行〜今後の普及は低価格化がカギ
標準化が始まった当初は、通信事業者のバックボーンでWAN PHYの採用が先行し、その後にLAN PHYが普及するとみられていた。現状ではLANおよびMANでLAN PHYの採用が先行すると予想されている。多くのベンダがLAN PHYを出荷していることに加え、先進的なLANの構築やMANの高速化の需要が先行しているからだ。ただし、当初の予想より10ギガビット・イーサネット市場全体の立ち上がりは遅れている。理由としては、現状ではコスト的な魅力がないことが挙げられる。ギガビット・イーサネット10本分の価格より10ギガビット・イーサネットが安くなれば、普及が加速するとみられている。現状では、10ギガビット・イーサネットの方が数十倍以上は高くついてしまう。また、ギガビット・イーサネットを最大8本束ねることができるリンク・アグリゲーションが普及していることもあり、大容量化において10ギガビット・イーサネットによる明確な差別化が図れないことも挙げられる。
ただし、リンク・アグリゲーションは基本的にトラフィックをあて先ごとに負荷分散しているだけなので、1Gbps以上の帯域幅が必要なアプリケーションがあれば、10ギガビット・イーサネットのメリットが出てくる。シャーシ型の大型レイヤ2/3スイッチを例に挙げると、現状の製品では最大でもギガビット・イーサネット数十本を収容できる交換容量しか持っていないため、10ギガビット・イーサネットだと数本しか搭載できないものが多い。またスイッチの構造上、10ギガビット・イーサネットをワイヤ・スピードで処理できないものも多い。徐々にだが、10ギガビット・イーサネットの搭載を前提とした大容量の次世代レイヤ2/3スイッチも登場し始めており、今後の急激な市場拡大に期待したい。
■WAN分野での展開〜EFMの標準化
10ギガビット・イーサネットのWAN PHYは、現時点では低コストでイーサネットをWANへ拡張する有効な選択肢となる。しかし、光伝送の世界で見ると、より高度にイーサネットと光伝送を融合する動きが見られる。その1つが、ITU-T G.7041として標準化が進められている「GFP(Generic Framing Procedure)」と呼ばれる方法だ。いわゆる「Ethernet over SONET」の技術の1つだが、WAN PHYにはない帯域幅の有効利用を可能とする。具体的には、バーチャル・コンカチネーションとLCAS(Link Capacity Adjustment Scheme)という技術とを組み合わせることにより、イーサネットをSONET上で伝送するだけでなく、SONET OC-192の中身を細かく分けて用いることや、ダイナミックに帯域幅を変えることもできるようになる。これらの技術は、光伝送を用いた次世代のMPLS技術である「G.MPLS(Generalized MPLS)」でも活用が期待される。またRPRでも、PHYとしてGFPを採用する予定だ。10ギガビット・イーサネットのWAN PHYは、イーサネットがWANに進出するための第一歩にすぎない。
イーサネット技術の1つとして、新たにLANとMANをつなぐアクセス・イーサネット技術「EFM(Ethernet in the First Mile)」の標準化がIEEE802.3ahで進められている。EFMが標準化されれば、エンド・ツー・エンドでイーサネットを接続する技術がそろうことになる。低コストでアクセス回線のブロードバンド化が実現できれば、やはり低コストでバックボーンを構成する10ギガビット・イーサネットへの要求がますます高まるだろう。さらに、イーサネットの高速化の要求はとどまるところを知らない。SONET OC-192より高速な「OC-768(40Gbps)」「OC-1536(80Gbps)」にイーサネットを載せる方法も検討されている。また、独自の100ギガビット・イーサネットの開発も始まっている。10ギガビット・イーサネットが普及を始めるころには、次のイーサネットの姿が見えてくるだろう。
Index | |
特集:10ギガビット・イーサネット大解剖 | |
Part.1 進化するイーサネット ・進化するイーサネットはLANからWANへ ・イーサネットの進化の歴史的経緯 |
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Part.2 10ギガビット・イーサネットと従来技術との違い ・10ギガビット・イーサネットの7種類の規格 ・LAN向けの仕様「LAN PHY」 ・WAN向けの仕様「WAN PHY」 ・LAN PHYとWAN PHYをどのように使い分けるか |
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Part.3 10ギガビット・イーサネットの可用性を高める技術 ・イーサネットの可用性とスパニング・ツリー ・レジリエント・パケット・リング(RPR) ・イーサネットの可用性を高めるもう1つのアプローチ |
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Part.4 10ギガビット・イーサネットの最新動向と将来の展望 ・標準化後の10ギガビット・イーサネット ・LAN分野での製品出荷が先行する ・WAN分野での展開〜EFMの標準化 |
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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