標準化の完了した最新イーサネット規格
特集:10ギガビット・イーサネット大解剖
近藤卓司
ノーテルネットワークス
2002/7/17
Part.3 10ギガビット・イーサネットの可用性を高める技術 |
■イーサネットの可用性とスパニング・ツリー
少し前であれば、イーサネットに可用性を求めるのはナンセンスであった。ユーザーがLANに信頼性を求めていなかったわけではない。実際、多くのユーザーがLANでループを防止するためのスパニング・ツリー・プロトコルを用いて、ネットワークの冗長構成を取っている。特にLANのバックボーンでは、障害が発生した場合の迂回路を持つ構成が普通であった。ただ、スパニング・ツリー・プロトコルは障害時の切り替えに分単位の時間がかかり、とても信頼性が高いとはいえなかった。イーサネットは安価な技術であるため、それと引き換えに信頼性はある程度妥協されてきたのだ。ところが、最近では企業内のLANにおいてもイーサネット上で基幹業務のデータがやりとりされ、通信事業者の通信サービスを提供する技術としてもイーサネットが用いられている。もはやイーサネットだからといって、信頼性の低いままでは許されなくなってきた。コストを抑えつつ可用性を高めるという難題が、イーサネットに求められている。
だが、10ギガビット・イーサネットそのものに可用性を高める技術は含まれていない。可用性を高めるには、ギガビット・イーサネットと同様にレイヤ2スイッチの機能で解決しなければならない。その1つが、スパニング・ツリー・プロトコルを拡張し、障害時により高速に切り替えを行う方法だ。この技術は、ベンダ独自の手法によってレイヤ2スイッチに実装されてきた。現在、この技術は「IEEE802.1w ラピッド(高速)・スパニング・ツリー・プロトコル(RSTP:Rapid Spanning Tree Protocol)」として標準化が進められている。RSTPを用いることで、障害時の切り替えが秒単位(数秒〜数十秒)にまで改善される。
トポロジを限定することで、RSTPよりさらに高速に、具体的には1秒以内に切り替えるベンダ独自技術もある。ほかにも、IPネットワークの冗長に用いるVRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)を、レイヤ2でも用いることができるように拡張したものがある。また、レイヤ2スイッチ間で複数本のイーサネットを束ねて用いることができる、リンク・アグリゲーションを拡張したものもある。ベンダ独自の技術は、ほかのベンダの機器と相互接続ができないという制限があるが、イーサネットの可用性を高める1つの選択肢となり、差別化のためにベンダも独自技術を競い合っている。
■レジリエント・パケット・リング(RPR)
通信事業者が提供する通信サービスの可用性の目安としては、障害時に50ミリ秒以内に復旧することが挙げられる。レイヤ2スイッチで実現する秒単位の切り替えとは、けた違いの要求だ。こうした通信事業者の要求に応えるには、可用性を高める別の技術が必要となる。その1つが、IEEE802.17で標準化が進められている「レジリエント・パケット・リング(RPR:Resilient Packet Ring)」だ。
厳密には、RPRはイーサネット技術ではない。RPRは、これまでのイーサネットにはなかった帯域共有型のリング構成を提供する新しいMACの技術だからだ。RPRでは、イーサネットのIEEE802.3 MACとは異なる、まったく新しいIEEE 802.17 RPR MACを提供する。ただし、RPRの物理層に相当するRPR PHYは、既存の技術を流用する。具体的には、イーサネットとSONET/SDHをPHYとして流用する。イーサネットでは、光ファイバを用いるギガビット・イーサネット(1000BASE-X)と10ギガビット・イーサネットが用いられる。またRPRは、データリンク副層 MACより上位層の規定はないので、データリンク層としてIEEE 802.1D トランスペアレントブリッジ、つまりレイヤ2スイッチを用いれば、イーサネットとRPRをレイヤ2で接続することができる。結果的に、可用性を高めたイーサネットとしての使い方も可能となる。
RPRは、帯域を共有することでWANに必要な帯域の有効利用を図る技術のほかに、可用性を高める独自のRPRプロテクション(切り替え)技術を持っている。プロテクションとは、障害が発生した場合50ミリ秒以内に迂回する機能だ。RPRのプロテクション技術としては、2つの方法が検討されている。デフォルトとして検討されている「ステアリング」と、オプションとして検討されている「ラッピング」と呼ばれる方法だ。ステアリングでは、障害区間を発見すると、送信ノードが障害区間を避けてトラフィックを送出する方向を切り替える(ステアリング)ことにより、プロテクションを実現している(図6)。一方、ラッピングでは、障害区間を発見すると障害区間を避けてトラフィックを折り返す (ラッピング) 。ラッピングの方が単純で切り替え時間が早いので、ラッピング後にステアリングを組み合わせる方法も検討されている(図7)。方式はともかく、RPRを用いることでイーサネットでは実現不可能な通信事業者の要求を満たす50ミリ秒以内の切り替えを実現する。
図6 RPRプロテクション ― ステアリング動作 |
図7 RPRプロテクション ― ラッピング動作 |
■イーサネットの可用性を高める、もう1つのアプローチ
イーサネットの可用性を高めるもう1つのアプローチが、MPLS技術の活用だ。現在、MPLS網上でMACラーニング機能を持つマルチポイントのレイヤ2 VPN技術が検討されている。最近では、この技術を「VPLS(Virtual Private LAN Service)」と呼んでいる。
VPLSは、もともとは通信事業者がMPLS網を活用して広域イーサネット・サービスのようなレイヤ2 VPNを提供するための技術だ。VPLSがMPLS網上でレイヤ2スイッチをエミュレーション(仮想実現)する技術となるため、イーサネットの可用性を高める方法としても注目を集めている。VPLSは、MPLS網上でポイント・ツー・ポイントのイーサネットをエミュレーションする、「Martini」バーチャル・サーキットをフルメッシュで張ることにより実現される。フルメッシュが前提でダイレクトにあて先に届くため、エッジ部分にMACラーニング機能を持つことで、レイヤ2スイッチと同じ動作をする。個々にMACラーニング機能を持ち、ホップ・バイ・ホップのフォワーディングを行うレイヤ2スイッチネットワークとは、根本的に仕組みが異なる(図8)。
図8 VPLSの基本構成 |
MPLSでは、数多くの可用性を高める技術が検討されている。基本的に、MPLSは障害時にはIPのリルーティングにより経路の切り替えを行うが、これをさらに高速化する方法のことだ。その1つが、リルーティングまでにあらかじめ決めた迂回路を提供することで高速な切り替えを行うファスト・リルート方式だ。もう1つが、複数の経路をグループ化して、障害時にグループ内で迂回路を高速に選択するホット・スタンバイLSP(Label Switched Path)方式だ。これらの方式は標準化も進められ、切り替え時間の目標値として50ミリ秒以内を挙げている。RPRと同様にイーサネットとは別の方式であり、MPLSとVPLSの組み合わせで、イーサネットの可用性をより高めることができるようになる。
次章では、10ギガビット・イーサネットの最新動向と将来の展望を解説する。
Index | |
特集:10ギガビット・イーサネット大解剖 | |
Part.1 進化するイーサネット ・進化するイーサネットはLANからWANへ ・イーサネットの進化の歴史的経緯 |
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Part.2 10ギガビット・イーサネットと従来技術との違い ・10ギガビット・イーサネットの7種類の規格 ・LAN向けの仕様「LAN PHY」 ・WAN向けの仕様「WAN PHY」 ・LAN PHYとWAN PHYをどのように使い分けるか |
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Part.3 10ギガビット・イーサネットの可用性を高める技術 ・イーサネットの可用性とスパニング・ツリー ・レジリエント・パケット・リング(RPR) ・イーサネットの可用性を高めるもう1つのアプローチ |
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Part.4 10ギガビット・イーサネットの最新動向と将来の展望 ・標準化後の10ギガビット・イーサネット ・LAN分野での製品出荷が先行する ・WAN分野での展開〜EFMの標準化 |
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「Master of IP Network総合インデックス」 |
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