5分……は無理でも15分で絶対に分かるSIMロック
SIMロック解除をめぐる議論を読み解く
山崎潤一郎
2010/6/23
「SIM」「SIMロック」という言葉、最近よく聞くと思いませんか? このコラムではSIMの仕組みとSIMロックが抱える問題点について説明します。
SIMって何? どんな成り立ちがあるの?
SIM(シム、Subscriber Identity Module)カードとは、GSM、W-CDMA、CDMA2000といった方式の携帯電話に装着されている、電話番号などユーザー固有の情報が記録されたICカードの総称です。
各携帯電話事業者(オペレーター)は、FOMAカード(NTTドコモ)、au ICカード(au)、SoftBank 3G USIMカード(ソフトバンクモバイル、SBM)、EM chip(イー・モバイル)などと独自の名称を付けていますが、これらを総称して「SIMカード」と呼びます。日本の携帯電話の場合、バッテリの下側に装着され、一部の端末を除き、抜き差しが可能な構造になっています。
携帯電話に装着されているSIMカード |
バッテリの下に設置されているのには理由があります。携帯電話の電源が入ったままSIMの抜き差しを行うと、記録されたデータが破損する可能性があります。そこで、確実に電源を落とす目的からこのような位置に設置されています。一方、バッテリを交換可能な構造にはなっていないiPhoneやiPad(Wi-Fi+3Gモデル)では、本体上部や側面にSIMスロットと呼ばれるSIMカードの挿入口が設けられています。
通常であれば、一般ユーザーが自らSIMカードを抜き差しすることはありませんが、例えば、家族から端末を譲り受けたり、「白ロム」などと呼ばれる中古の端末を購入した場合、それまで使っていた携帯電話からSIMカードを抜いて、乗り換え先の端末に差し込めば、従来の電話番号やメールアドレスをそのまま引き継いで使うことが可能です(通信方式および周波数が同一の場合のみ)。ただしauの場合は、端末とSIMカードがひも付けられる構造になっているため、ショップに持ち込んでの変更手続き(消費税込2100円)が必要となります。
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表1 各事業者の通信方式およびSIMロックの形式 |
また、海外に渡航する際、端末によっては、現地のオペレーターのプリペイド式SIMカードだけを購入し、手持ちの端末に差し込むことで、通話やデータ通信を利用するといった使い方も可能です。この場合、ローミング方式よりも安価に利用できるというメリットがあります。そもそもSIMを抜き差しするという使い方は、ビジネスパーソンなどが、訪問先の国で手持ちの端末を利用しやすいようにという思想から生まれたものです。海外では、入国者向けに現地オペレーターのSIMカードの自動販売機が設置された空港もあります。
2010年になって、この「SIMカード」の扱いが日本の携帯電話業界の行く末を占ううえで大切なキーワードとして注目されています。新聞などで「SIMロック解除」などという言葉が話題になったので知っている人も多いかと思います。次からは、その生い立ちや問題点などを解説します。
SIMロックってどんなもの?
2010年4月2日、総務省8階第1特別会議室は、期待と不安が入り交じった空気に満ちていました。「携帯電話端末のSIMロックの在り方に関する公開ヒアリング」が行われ、内藤総務副大臣をはじめ総務省の幹部や一般傍聴者が見守る中、オペレーターや業界団体の代表者が「SIMロックの在り方」についてそれぞれ意見を述べたのです。そして、この公開ヒアリングの最後は、内藤副大臣が「SIMロック解除の取り組みを行う」といった趣旨の発言で締めくくりました。2007年の「モバイルビジネス研究会」から本格化した携帯電話ビジネスのオープン化政策が大きく一歩前進した瞬間でした。
SIMロック解除には、どんな意味や効果があるのでしょうか。
先ほど、海外では現地のオペレーターのSIMカードを挿して利用するケースがある、というお話をしました。その理屈からいうと、日本の携帯電話にも抜き差し可能なSIMカードが装着されているので、例えば、通信方式が同じNTTドコモとSBMの端末間でSIMカードの抜き差しを行うと相互に問題なく使えるはずです。
しかし、現実にはSBMからNTTドコモに乗り換えようとすると、NTTドコモの供給するSIMカードを差し込むだけでは駄目で、NTTドコモが販売する端末に買い替えなければなりません。その逆も同様です。それは、各オペレーターが、自社で販売する端末に自社のSIMをひも付けて他社端末では使えないようにしているからです。このような状態を「SIMロック」と呼んでいます。
SIMロックがあると、異なるオペレーターの端末への乗り換えができない |
ユーザーは、お金を払って端末を購入しているはずです。しかし、自分の所有物であるはずの端末をもってオペレーターを乗り換えることができないというのは、ある意味ユーザーの権利を踏みにじった制度ともいえます。端末の中には、オペレーターとの契約を打ち切り、SIMを返還(SIMの契約上の所有権はオペレーターにある)すると、ワンセグ放送の視聴や電話帳の閲覧といったなど通信とは関係のない機能までもが使えなくなるなど、非常に理不尽な状況になっているのです。
ユーザーの問題だけではありません。このように端末がオペレーターに囲い込まれた状態だと、端末メーカーはオペレーターのいうとおりの端末を作っていればよく、競争力がなくなってしまいます。現に、日本の全端末メーカーの世界的シェアは、数%まで落ち込んでしまいました。携帯電話ビジネス全体が内弁慶な状況になり「ガラパゴス」などという言葉も生まれました。携帯電話の契約数が1億を突破して市場が飽和状態になろうとしているいま、このままでは携帯電話ビジネス全体が衰退していく恐れがあります。
このような携帯電話ビジネスの在り方を問題視した総務省は、2007年の「モバイルビジネス研究会」で、競争政策の一環としてこのSIMロックの問題を議論したのですが、当時の環境では時期尚早として「2010年の時点で最終的に結論を得る」と先送りした経緯があります。
SIMロックが抱える問題点
かつて「ゼロ円端末」という携帯電話販売の商法があったことを覚えているでしょう。本来なら1台数万円はする携帯電話端末をなぜ0円、あるいは本来の価格よりかなり安価に販売することができたのでしょうか。
オペレーターが販売店に多額の端末インセンティブ(販売奨励金、一説には4万円/台のケースも)を支払うことで、販売店側はそれを原資にして、無料あるいは大幅に割り引いた価格を設定していました。しかしオペレーターとしては、インセンティブを回収しなければなりません。そこで、毎月の通信料にその分を上乗せして回収するシステムを作り上げました。
しかし、すぐに解約したり、端末だけ持ってほかのオペレーターに乗り換えられるとインセンティブを回収できなくなってしまいます。そこでオペレーターは、ユーザーの流出を防ぐ目的で端末にSIMロックを掛けているのです。いうなれば浮気防止の仕組みなのです。
日本の携帯電話業界は、オペレーターが大きな支配力を持って、上位のコンテンツレイヤと下位の端末レイヤをコントロールする垂直統合型のビジネスモデルを形成しています。SIMロックによりユーザーの流出を防ぐことができれば、オペレーターは安心かつ安定的に、コンテンツと端末の機能が深く連携するような、高度で独自性を持った通信サービスを構築することができます。その結果、3Gケータイの時代になって趣向を凝らした公式コンテンツやサービスが次々と登場しました。それにより、さらにユーザーを囲い込むことができます。
一方端末メーカーに対しては、上記のような自社仕様の端末開発を要求する代わりに、一定数の買い上げを約束します。メーカーからすると販売リスクを負わなくて済みますが、端末開発の自由度は制限されてしまいます。このようなオペレーターを中心としたエコシステムこそがまさに垂直統合型モデルであり、SIMロックはその“要”ともいえる制度なのです。
この垂直統合型モデルは、業界や市場が発展途上にあるときは有効に機能していました。垂直統合なしに、iモードの大成功はなかったといっても過言ではありません。
しかし市場が成熟したいま、垂直統合モデルの負の部分が目立つようになってきました。前項で話したメーカーの競争力低下はもちろんのこと、コンテンツ事業においても、オペレーター主導の公式サイトを中心にして地盤沈下が起きています。いま、コンテンツ市場で元気がよいのは、自由な発想でサービスを切り開いてきたモバゲーやグリーのような勝手サイトが中心です。
垂直統合型モデルがこのまま続きオペレーター支配の構図が維持されたままだと、自由な競争が阻害され、ビジネス全体の活力が失われる恐れがあります。従って、現状のような垂直統合オンリーではなく、インターネットのようなオープンな競争環境を携帯電話に持ち込む必要がある、というのが総務省のオープン化政策なのです。
「SIMロック」が垂直統合の要であるなら、それを「解除」することでオープン化が大きく進む可能性があるのです。ただし既存のオペレーターは、オープン化には消極的な姿勢を示しています。垂直統合で守られた既得権を失うことを恐れているのでしょう。
SIMロック解除をめぐる議論を読み解く | |
SIMって何? どんな成り立ちがあるの? SIMロックってどんなもの? SIMロックが抱える問題点 |
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SIMロック解除に向けた布石、インセンティブ廃止 SIMロックを続ける意味はあるの? SIMロック解除でオープンな競争環境を構築 |
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