IT Market Trend第3回 国内サーバ市場の将来動向−−景気低迷の中で成長は続くのか?日本ガートナー・グループ株式会社 |
今後、国内サーバ市場は、セグメントの世代交代を伴いながら成長する。オフィス・コンピュータ(オフコン)、メインフレーム市場はさらに縮小し、PCサーバ、UNIXサーバ市場を中心とした市場に着実に変化する。また、サーバ市場の成長性については、ネットワークの変化が重要なカギを握るだろう。本稿では、サーバ市場の中短期的方向性について、最新の予測をもとに考察する。 |
市場の成長性を左右するキー・ポイント
サーバ市場にとって、今後の成長を促進する材料は何だろうか。これまでのERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務)やCRM(Customer Relationship Management:顧客中心の経営手法)といった企業のビジネス・モデルの変革を伴う情報システムの構築需要は継続するが、サーバ市場にとってのインパクトは若干薄れつつある。e-Businessについても、米国におけるIT関連株価の低迷に見られるように、すでに熱狂的な成長期は過ぎ、安定成長期に入ったと見るのが妥当であり、日本国内でもバブル的なものから慎重な動きに転じる可能性が高い。景気についても、国内経済の先行きに対する不透明感がさらに続く中、米国経済にも陰りが見え始め、サーバ需要にマイナスの影響を与える可能性が高い。
■ネットワークの変化がサーバ市場の成長を生む
しかし悲観論ばかりではない。このような状況においても、ネットワークの変化がサーバ市場の成長性にとって重要なカギとなるからだ。現在のネットワークはまだまだ発展途上にあり、今後さらに高速かつ低価格なネットワークが登場する。このような次世代ネットワークとのバランスを取る必要性から、データ処理の需要も高まることは間違いない。そのために、新たなサーバ需要が見込まれるはずだ。
具体的には、家庭へのISDNの普及に加え、CATV、ADSLによるインターネット接続の普及だ。さらに、次世代モバイル・ネットワークであるIMT-2000の運用が開始されようとしており、動画を含む大量データ通信が可能となる。また今後、次世代インターネット・プロトコル「IPv6」接続サービスおよび対応機器の普及に伴い、インターネット接続デバイスが飛躍的に増加することが予想される。このようなネットワーク環境の変化により、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)/IDC(インターネット・データ・センター)といったプロバイダを中心に、さらなるトランザクション性能が求められる。また、ビデオなどのコンテンツの増加に伴い、広帯域メディア・ストリーミング・システムの需要も拡大することが予想される。こうしたネットワークの革新を背景として、これまで以上にサーバに対する需要も拡大するだろう。
企業においても、このような新たなネットワーク・インフラを活用した次世代e-Businessなどの取り組みも広がってくる。さらにホーム・コンピューティングも、インターネットの常時接続が普及し、家庭内のデジタル・メディアが増加しつつあることから、例えば自宅のコンピュータに外出先からアクセスするといったニーズも増え、新たなホーム・サーバ市場を生む可能性も考えられる。
セグメント別市場予測−−オープン系サーバが主流へ
ガートナー データクエストでは、サーバ市場を以下のセグメントに分類している。
- スーパーコンピュータ
- メインフレーム
- オフィス・コンピュータ(オフコン)
- UNIXサーバ
- PCサーバ
- IA-64サーバ
以降、それぞれのセグメント別に今後の市場を考察していこう。
■スーパーコンピュータ
スーパーコンピュータは、これまでと同様、市場全体の出荷量は少ないものの、研究開発分野を中心に比較的安定した成長するだろう。特に、医療・薬品分野、環境といった新たな分野での需要が期待される。システム・ベンダ側では、米国において国家プロジェクトとしてのスーパーコンピュータ開発競争が昨年同様に繰り広げられ、さらなる高性能化へのチャレンジが続くことになる。この結果、さらに新たな分野での需要が生まれる可能性もある。
■メインフレーム
日本IBMのメインフレーム「S/390並列エンタープライズ・サーバー G5」 |
第5世代のCMOSベースの「システム/390マイクロプロセッサー」を採用したメインフレーム。 |
メインフレームは、特にハイエンドUNIXサーバの攻勢を受け、ローエンドおよびミッドレンジ・クラスを中心に出荷が大きく減少するだろう。ハイエンド・メインフレームは引き続き一部の基幹系ユーザーでリプレース需要はあるが、その数はそれほど多くない。将来的にメインフレーム市場が縮小に向かいつつある中、各メインフレーム・ベンダは、メインフレームに代わる新たな収益源をどうするか、早期に戦略を打ち出す必要がある。
メインフレーム市場では、IBMの64bitメインフレームの登場とその市場性が注目される。また、これまでのIBM互換機ビジネスから事実上撤退しつつある日立製作所や富士通(アムダール)のメインフレーム・ビジネスの今後も気になるところである。
■オフィス・コンピュータ
メインフレームと同様、市場全体がPCサーバ、UNIXサーバへシフトする中で、出荷は引き続き減少するだろう。2000年、日本電気がオフィス・コンピュータの出荷を停止したのに続き、日立製作所も今期限りで出荷を終える模様である。オフィス・コンピュータ市場は、日本IBM、富士通、三菱電機、東芝の4社のみとなる。
■オープン系サーバ(UNIXサーバ、PCサーバ)
需要面で最も影響があるe-Businessについては、これまでのブームは一段落しつつあるが、内容はさらに高度なものへと変化しつつある。よって今後、特にオープン系サーバにはe-Businessのエンジンとして、さらなる高性能・高可用性が要求される。また、これまでのメインフレーム需要がUNIXサーバやPCサーバにシフトするのに伴い、メインフレームに求められていた高度な信頼性がこれらのオープン・サーバにも要求されるようになるだろう。
2001年も高い成長が見込まれるUNIXサーバ
UNIXサーバ市場は2000年に非常に好調であったが、2001年も引き続き、次世代e-Business需要やメインフレーム、オフィス・コンピュータの代替としての新たな需要を中心として高い成長率が見込まれる。
1999年にはサン・マイクロシステムズが圧倒的な強さを見せたUNIXサーバ市場であるが、2000年には日本HPや日本IBMなども新たなマシンを投入し健闘した(詳細は本連載の第1回「PCサーバ/UNIXサーバ市場の現状」を参照)。2001年には、新たなメインフレームのリプレース需要などを中心にこれらベンダ間の競争がさらに激化するだろう。
UNIXサーバ市場では、ローエンドについてはラックマウント型が市場を牽引している。しかし、この傾向はPCサーバでも同じであり、価格、スペックだけを比べるとPCサーバに一歩譲る形のラックマウント型UNIXサーバが、今後どこまで製品競合力を付けられるかがカギとなる。サン・マイクロシステムズは、UNIXサーバ一本であり、当然これに対抗するUNIXサーバの新製品を投入するだろう。現在、日本HPや日本IBMはローエンドUNIXサーバの開発にあまり積極的でないように見えるが、これは社内にPCサーバ・ラインを持っているためと考えられる。しかし、同一UNIXサーバ・セグメント内での競合関係もあるため、今後はローエンドUNIXサーバについても、さらに競争力のある製品群の投入を各社が推進する可能性は高い。
ハイエンドUNIXサーバについては、2000年に日本HPがhp 9000 superdome(スーパードーム)を、IBMがRS/6000 S85(e-server pSeries 680 モデルS85)、富士通がPRIMEPOWER2000(プライムパワー2000)をそれぞれ投入し、サン・マイクロシステムズのStarfire(Enterprise 10000)に追随する形で主要UNIXサーバ・ベンダ製品が出そろった状態である。今後、これらベンダのフラッグシップSMP(対称型マルチプロセッサ)マシンにおける競争がさらに激化するだろう。サン・マイクロシステムズは、2001年内に現在のEnterpriseサーバ群に変わるUltra SPARC III搭載の新ラインとしてSerengeti(セレンゲッティ)を投入予定であり、この製品群により競争関係がどう変化するかが注目される。
日本HPの「hp 9000 superdome」 | 富士通の「PRIMEPOWER2000」 |
2000年に日本HPが投入したUNIXサーバ。日本電気と日立製作所、沖電気もOEM供給を受けて販売している。プロセッサにはPA-RISCを搭載し、OSにはHP-UXを採用する。 | プロセッサにSPARC64 GPを搭載し、OSにはSolarisを採用する。PRIMEPOWER2000は、最大128プロセッサのマルチプロセッサ構成をとることが可能。 |
上位ベンダには成長率の鈍化傾向が予想されるPCサーバ
PCサーバ市場全体では、2000年に引き続き出荷は好調だろう。ただし、各ベンダともにボリュームが相当増えてきており、上位ベンダを中心に成長率は鈍化傾向となることが予想される。そのため、ボリュームの拡大に加え、課題となっているハイエンド化をいかに推し進めるかが一層重要なテーマとなる。
ローエンドPCサーバは、2000年に入ってから特にラックマウント型サーバの出荷が好調であるが、この状態は2001年も継続する。ラックマウント型サーバについては、ベンダ各社が1Uサイズの2プロセッサ搭載製品を投入しているが、これ以上の薄型化は望めない。よって今後の競争の主軸は、性能面に加え管理機能や、製品としての完成度といった観点がさらに重視されるようになる。また、アプライアンス・サーバがユーザーに認知されるに従って、ラックマウント型サーバとアプライアンス・サーバを両方提供しているベンダは、特にWebサーバでこれら製品をどうすみ分けるのかという課題が浮上してくる。
デルコンピュータの「PowerEdge 1550」 |
デルコンピュータをはじめ、ほぼすべてのPCサーバ・ベンダが1Uサイズのサーバをラインアップしている。 |
プロセッサでは、Pentium III-1GHz以上が主流になってくる。Pentium 4は、現在のところマルチプロセッサをサポートしないため、サーバ用途での使用は、当面ほとんどないと思われる。
OSでは、2001年前半でWindows 2000が評価段階を過ぎ、Windows NT 4.0からのシフト傾向が強まるだろう。Linuxは、ベンダのバンドルが本格化してくる。さらにサポート体制も次第に整備され、ユーザー環境への導入率も高くなる。結果として、LinuxのサーバOSとしての比率も現在の5%から10%程度に上昇し、特にインターネット・フロントエンド・システム(Webサーバなど)で、その傾向が強まるだろう。
ハイエンドPCサーバでは、マイクロソフトが2000年9月に発表したWindows 2000 Datacenter Server、およびこのOSを搭載した32プロセッサといった大型PCサーバがどこまで出荷を拡大できるかに注目が集まる。このサーバ製品では、稼働率99.9%以上の信頼性を保証するために、Windows Datacenterプログラムを特定ベンダとの協業で提供している。
マイクロソフト・サーバ製品の最大の課題は、製品の信頼性について、いかに市場での信用を得ることができるかということである。この達成いかんで、ミッドレンジ以上のサーバ市場におけるUNIXサーバとの競争の構図も変化する。まずは、このOSとプログラムにより確実に実績をつむことが第一優先となるだろう。このため、マイクロソフトからは当面IA-64用の64ビットWindows(開発コード名:Whistler 64bit版)のプロモーションは控え目なものとなる可能性も高い。
いよいよ立ち上がるIA-64サーバ
2001年には、IntelがItaniumのボリューム出荷を開始する。これに伴い、各社からIA-64サーバの出荷も開始される。IA-64については残された課題、すなわちOS、性能、ベンダにおけるIA-64サーバのブランディング/ポジショニングといった点を早期にクリアすることができるかどうかが注目される。日本HPのように、事実上すでにMcKinley(開発コード名:次期Itanium)に主軸を移したベンダもいる中で、2001年はIA-64に関しては特定ユーザーにおける評価期間にとどまる可能性が高い。
三菱電機のIA-64サーバ |
三菱電機は、Itaniumの2プロセッサ構成のサーバ/ワークステーションをパイロット出荷している。 |
確かに、IA-64の出荷は当初予定より大幅に遅れたし、現在の進捗も非常に緩やかである。しかしながら、このことをもってIA-64が不発に終わったと考えるのはあまりにも早計である。ハイエンド・サーバには、当然のことながら性能面以外にも信頼性が強く要求される。この信頼性は、これまでのサーバがそうであったように、決して短期間に獲得できるものではなく、この意味ではIA-64サーバについても、出荷にある程度慎重になることはやむを得ない。問題は、このことが市場であまり理解されていないことだ。ほとんどのハードウェア・ベンダ、OSベンダが、この遅延をインテル自身の問題としている。なぜ今回のような計画的スケジュールが必要なのか、各ベンダの役割は何かといったことをインテルは再度ベンダに対して明確に説明し、ベンダとともに、ユーザーおよび市場に対してもさらなる理解を求める必要があるだろう。
総じてIA-64については、2001年はほかのPentium系プロセッサで見られるような量産は期待できないが、将来へ向けた重要なステップの年として位置付けられるだろう。
市場成長率の現状と今後の推移
現時点(2001年1月現在)では、2000年の市場規模は確定していないが、2000年第3四半期の結果に基づいた最新の予測では、各セグメントの2001年における対前年(2000年)比成長率は次のようになる。
- スーパーコンピュータは、安定的であるが、2000年に自動車、文教関連で好調であった反動を受け、若干微減の台数で−1.9%、金額で−3.7%と予測
- メインフレームは、継続的な需要低迷により台数で−11.0%、金額で−13.9%。オフコンも同様に減少傾向が続き、台数で−13.1%、金額で−15.4%と予測
- UNIXサーバは好調さが継続し、台数で25.6%増、金額で19.5%増。PCサーバも同様に、台数で24.5%増、金額で14.9%増と予測
2001年、PCサーバとUNIXサーバを合計したオープン・サーバのサーバ全体に対する比率は、台数で1999年の92.6%から96.9%へと上昇している。メインフレームは、1999年のサーバ市場全体に占める売上高の約40%を確保してトップを誇っていたが、2000年には30%程度まで落ち込み、UNIXサーバに首位の座を明け渡すことになるのは確実である。2001年にはさらにPCサーバにも抜かれる可能性が高い。
総じて、2001年のサーバ市場規模は、台数で対前年比23.4%増の約46万台、金額で6.2%増の約9000億円と予測している。また、今後2001年から2005年までの5年間の成長率は、台数で13.6%増、金額で4.1%増、この結果、2005年時点のサーバ市場は台数で約70万台、金額で1兆円規模になると予測しているが、これはあくまでも楽観的なシナリオに基づくものである。
サーバ製品の価格低下傾向は今後も継続することが予想されるため、台数の伸びがこれを下回れば、金額の伸びもこれに連動し、サーバ市場全体では若干のプラスかフラット成長にとどまる可能性もある。なお、今後の予測については、2000年の確定値ならびに、今後の景気動向、需要動向などに基づき修正する予定であり、その際は何らかの形でまた公表したい。
国内サーバ市場の実績および予測(2000-2005:出荷台数) |
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月) |
国内サーバ市場の実績および予測(2000-2005:出荷金額) |
出典:ガートナー データクエスト(2001年1月) |
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第1回「PCサーバ/UNIXサーバ市場の現状 |
更新履歴 | |
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