IT Market Trend

第11回 日本PC市場:2001年の結果と2002年への展望(2)

ガートナージャパン株式会社
データクエスト コンピュータシステム産業分析部
パーソナルコンピュータ

蒔田佳苗
2002/03/27

ベンダ別シェアを分析する

 2001年、日本国内のパソコン市場出荷台数の上位5社(速報ペース)は、日本電気(21.1%)、富士通(21.1%)、ソニー(11.0%)、日本IBM(7.7%)、東芝(7.4%)となった。このうち、出荷台数対前年成長率がプラスとなっているのは、ソニーと東芝の2社だけである。

日本国内のパソコン市場出荷台数ベンダ別シェア
出典:ガートナー データクエスト(2001年シェアは速報値)
:PCサーバを除くデスクトップPCおよびノートPCの合計
 
順位 ベンダ 2000年シェア 順位 ベンダ名 2001年シェア
1 日本電気 21.5% 1 日本電気 21.1%
2 富士通 20.5% 1 富士通 21.1%
3 日本IBM 9.4% 3 ソニー 11.0%
4 ソニー 8.9% 4 日本IBM 7.7%
5 東芝 6.2% 5 東芝 7.4%
そのほか 33.5%
そのほか 31.7%
日本国内のパソコン市場出荷台数ベンダ順位

 ビジネス市場が前年並、個人市場が2けたマイナスという市場動向により、必然的に各ユーザー市場の依存度の違いがベンダ別シェアに深く影響している。今回の速報ベースでは2000年と比べ、上位ベンダのうち1位が2社同率、3位と4位が交代しているが、上位2社との差が2000年に比べ縮小している。その背景として、前述の要素に由来するところが大きいと見ている。

■シェアよりも収益を優先した日本電気
 日本電気は、これまで個人市場のPC形状トレンド、マーケット・シェアにおいてリードを保っていたが、2001年は市場全体の動向として個人需要が落ち込んだことから、このセグメントのマイナス影響を強く受けている。さらに、日本電気は2001年10月よりパソコン事業が子会社化されて以降、これまでの店頭ビジネスの方針から一転し、シェアよりも収益改善を優先する戦略を選んでいる。その一環として、2001年末の商戦期においては店頭向けモデルの生産量自体を絞っている。従来であれば同社の出荷台数シェアが増加する第4四半期においても、控えめな出荷しか行わなかったことがシェア低下に影響している。またビジネス市場においても、同社は案件数自体が減少しているようだ。過去においてはユーザーの経済状況が厳しい時期には、同社をはじめとする大手ベンダが価格攻勢をかけ、赤字を覚悟で積極的に案件を獲得したものである。ところが、2001年に入ると上位PCベンダの多くは、黒字転換が最優先課題となり、企業系案件が控えめとなっている。また、中小企業セグメントにおいては、この市場全体の動向として大手企業セグメントより投資意欲が低い、またはIT投資自体が厳しい状態であり、このセグメントでの減少も、同社の出荷ペース減速に大きく影響している。

■大企業からの支持でシェアを維持した富士通
 富士通は、従来中堅・大企業ユーザー層から根強い支持を受けている。また、このセグメントのベンダうち出荷構成比も日本電気と比較して高めである。このように、2001年のビジネス市場において、大企業などマイナス度の低いセグメントや、政府・官公庁、文教市場などIT設備投資が比較的積極的に行われたセグメントでの取引が多かったことから、PC市場上位他社に比べ優位にあったと分析する。また、2001年第4四半期においては、個人向けノートPCで大画面、ハイエンド・プロセッサ、CD-R/RWドライブ搭載という3拍子そろった製品を、実売価格20万円未満という訴求度の高いプライス・ポイントで発売し、年末商戦前半の売れ筋上位をキープした。

■積極的な店頭展開でシェアを伸ばしたソニー
 ソニーは、出荷台数の90%近くが個人市場向けだが、この市場に依存度の高いベンダとしては例外的にシェアを拡大している。同社は、A4オールインワンのノートPC、液晶ディスプレイ付属の省スペース・デスクトップPCを戦略的価格で販売し、幅広い需要にこたえている。それと同時に、同社のミドルからハイエンド・クラスのデスクトップPCや薄型ノートPCのシリーズにおいても、PCへの関心度が高い層や同社製パソコンの既存ユーザーによる買い替え・買い増し需要も確保している。このように、個人市場のユーザー層を網羅することにより、数少ない需要も取りこぼさないことが、出荷の底上げにつながっているようだ。また、特に年末商戦においては、上位他社が出荷を絞る一方で、極めて積極的な生産・出荷計画を敢行しており、ほかのPCベンダの需要も一部カバーしていたものと見ている。この結果、ソニーは個人市場のみでのビジネス参入でありながら、2001年は日本国内のPC市場全体で見ても確固たる上位ベンダの地位を築いたといえる。

■他社への需要シフトとAptivaブランドの打ち切りでシェアを落とした日本IBM
 日本IBMは、年間を通して大企業セグメントの優良顧客において、コンサルティング案件によるクライアントPCの堅調な需要があった。しかし、既存ユーザーの中には、厳しい経済状況からシステム単価のより安いベンダへの需要流出が続いており、全体的にシェアを縮小しつつある。また、個人市場では2000年後半から特にデスクトップPCにおいて製品戦略で市場動向に後れを取り続けた。2000年前半に市場全体の底上げにつながった低価格デスクトップPCの成功から、その後のトレンドの変化に迅速な対応が行われなかった。その後、市場全体がノートPC優位のトレンドに変化したことも、店頭デスクトップPC戦略で改善を見なかった一因といえるだろう。2001年夏、世界でも日本でのみ継続していた個人向けデスクトップPCのブランド「Aptiva」の打ち切りを表明し、秋以降、実質この分の出荷がなくなったことで、2000年と比較してさらに出荷が落ちている。

■企業需要でシェアを戻した東芝
 東芝は2000年に出荷が伸びなかった分、2001年前半は企業需要のまとまった案件や新製品の増分などで出荷を伸ばし、2001年はシェアを取り戻している。同社はその顧客構成から、基本的に企業需要の多い時期に需要が集中する傾向にある。しかしながら、事業戦略的に赤字を極力避け、企業系案件で控えめな攻勢に出ているうえ、第3四半期以降は企業セグメントでも投資意欲自体が減退していることから、直近では市場と同様に減速感が顕著化している。

■出荷台数を伸ばした日立製作所とデルコンピュータ
 これら上位5社のほかに目立った動きのあるベンダは、6位のデルコンピュータと7位の日立製作所である。この2社は、2001年に市場全体がマイナス成長となる中、出荷台数対前年成長率で2けた増を示しており、特に上位10社の中でも、それぞれ成長率1位および2位となっている(3位はソニー)。これには、2001年を通じて低迷していた個人市場への依存度が、市場平均と比較して極めて低く、両社とも10%台であることが大きく起因している。

 当然のことながら、デルコンピュータのような直販ベンダにおいては、システム価格における優位性もプラス要因になっている。デルコンピュータは、2000年まで中小企業セグメントで認知度を上げ、2001年はさらに大企業に拡販しようという段階にあった。デルコンピュータにとって追い風となったのは、2001年のメモリやハードディスクといったパーツの大幅な価格低下があったことだ。「デル・ダイレクト・モデル」で呼ばれる同社の製造モデルは、パーツの在庫量が少ないことから、他社に比較してこうしたパーツの価格低下の恩恵を受けやすい。さらに同社自身のコスト削減をシステム価格に還元したことにより、経済状況の厳しい企業ユーザーにとって、魅力ある価格設定となったことがシェア向上につながったと思われる。案件規模自体は大規模なものが減少し続けているものの、従来そのほかの大手PCベンダの古い顧客であった企業ユーザーが、買い増し・買い替えで安価なデルコンピュータ製品を検討対象に加え始めるなど、デルコンピュータ自身の販促効果以外の部分でも、顧客獲得を果たしている。経済状況の悪化が結果的にプラスにつながったといえるだろう。

 日立製作所は、従来ビジネス市場の中でも、大企業、政府・官公庁など2001年に底堅くIT投資を行ってきたセグメントの顧客が多く、ビジネス市場依存度の高いベンダの中でも優位性を発揮していた。このため、大手他社と比較して、これまでの収益ロスが少ない分、企業向け案件において2001年に積極的かつ計画的に価格攻勢を行うことが可能な、数少ないPCベンダのうちの1社であったと分析している。ビジネス市場全体が減速し始めた年後半においても、既存ユーザーの買い替えや公共案件で大規模な需要を獲得し、出荷台数を大きく伸ばした。

厳しさが予想される2002年

 多くの企業で会計年度末に当たる2002年第1四半期において、見込まれていた案件の一部が次年度送りとなるなど、需要の減速感はさらに強まっている。特に、2001年第1四半期では補正予算やパソコン税制の駆け込み需要などで大きな盛りあがりを見せたため、前年同期比で比較した場合、こうした施策がない今期は一層の落ち込みが予想される。さらに、2002年度予算という点では、引き続き企業は投資抑制スタンスを強めると思われる。仮にIT投資はそのほかの設備投資に比べ抑制が限定的であったとしても、その中でクライアントPCへの投資優先度は低く、PC購入の予算環境は今後さらに厳しくなるものと見ている。

 ビジネス市場における前回の買い替え需要の波が、1999年初頭から始まったことから考えて、統計的には2002年後半から同市場で一部セグメントから徐々に買い替えの潜在需要が盛りあがり始めることが期待できる。また、現時点で発表されている経済予測では、2002年中ごろから回復に向けて動き出すというシナリオが主流である。しかし、年度予算という観点から、前述の買い替えサイクルや経済回復主導で実際の購入が暦年2002年内に大きく盛りあがる期待は乏しい。むしろ、2002年中に実働が期待できる需要は、投資力のある企業が引き続き収益改善の目的および先行投資として行うITシステム増強や新規導入、または政府・官公庁および文教市場の新規導入である。これらのセグメントでも実際は、一部において2001年と比較して予算の縮小や、システム単価の削減など景気のマイナス影響を受けるだろう。ただ、本来の主旨から案件先送りや凍結には至らず、しかも単なるクライアントPCの買い替えにとどまらないシステム案件として着実に進行している、貴重な需要ポイントである。

 個人市場では、2001年末から一部の買い替え・買い増し需要が購入につながっている。これらのユーザーは主として1998年夏以降、Windows 98出荷時に買い替え・買い増しを行った、PCへの関心が比較的高いユーザー層であると見ている。実は1998年後半は、景気の低迷によるそれ以前の1年間にわたる需要減速から一気に成長基調に転じたターニング・ポイントであったが、実際1999年第1四半期といわれた景気の底打ちに先駆けて、PC需要が戻っている。その後、1999年第2四半期以降の新規・初心者層の拡大につながっている。ここから、経済動向を市場影響ファクタとして考えるとき、個人市場のこのケースでは必ずしも景気回復の顕著化が需要増加のきっかけとはなっていない。つまり、今後のPC需要回復においても、景気の好転に先駆けて起こる可能性も考えられるわけである。さらに、2002年後半は、前年の極めて深い落ち込みと比較して、対前年成長率がプラスに転じやすくなっている。従って2002年の市場成長率としては、先に行くにつれてプラス成長が顕著になると期待する。

 今回留意すべきは、ユーザーの実需がどれだけあるかという点である。1999年以降に1台目を購入したユーザー層の多くは、まだPCの用途がインターネット・電子メールから大きく広がっておらず、1999年初頭に見られたような、電子メール人口の拡大とそれによる潜在需要の増加に匹敵する、実需をけん引する新たな潜在需要が膨らんでいない。実際、1999年に1台目を購入した新規ユーザーはそろそろ3年目になるが、現有のPCの性能を考えると、次の買い替え・買い増しまでにはまだ間があるだろう。本来ならば、過去のライフサイクルから考えて、1999年以降拡大した新規ユーザー層が2002年は徐々に買い替え需要期に入るタイミングである。だが、これらのユーザーの用途が仮に今後も電子メールやWebページ閲覧などの用途に限定されたままであると、その買い替え時期は2003年以降に延期される可能性もある。しかし一方では、1999年前半にCRTディスプレイ付きの低価格デスクトップPCを購入したユーザーにとっては、現在店頭市場のメイン・ストリームであるCD-RW/DVDコンボ・ドライブ付き省スペース・デスクトップPC+液晶ディスプレイのモデルが、機能的にも価格的にも買い替えを促すに足るものとなっている。これは性能以前の製品的魅力であり、用途いかんを問わず買い替え意欲を刺激する可能性がある。また、教育現場でのPC普及進行に伴い、就学児童や学生のいる家庭内においてPCの複数台所有という個人市場の新規需要も始まりつつある。この需要はまだ市場全体を底上げするほどの規模には至っていないが、中期的な需要拡大が期待できる重要な市場けん引キーワードである。

2002年の課題と提言

 以上のことから、PC産業において2002年の事業計画を考えるうえで次の点に留意されることを提言したい。すなわち、1)統計的に見ると2002年中盤から、ビジネス・個人市場ともにライフサイクルにおいて買い替え適齢期を迎えるユーザーが増加すること、2)ビジネス市場において、IT投資を続けているユーザーの需要はあり、ここではクライアントPCの1台当たりのシステム単価で圧力を受けても需要自体は堅く、むしろその導入目的から、低価格仕様よりもクライアントPC性能において安定した寿命の長い製品の検討余地があること、3)個人ユーザーの用途において電子メール・Webページ閲覧以外の用途はすでに技術的にも環境的にも抑制がなくなりつつあり、用途拡大による需要喚起は産業努力によるところが大きいこと、4)1998年後半の例を見ると、個人市場は経済状況の改善に先立ち、需要が戻る可能性が考えられること、というプラス要素があるという点である。

 2002年の市況は、過去の歴史と経済状況などから判断して、市場全体として見るとあまり大きな好転や成長は期待できない。しかし、上記のようにセグメントごとに見ると、2002年内に動く需要も、耕すべき土壌も存在している。従って、市況の回復を待つベンダと積極的に需要を創造できるベンダとの間で、結果が大きく変わるものと予想する。

 日本市場は、まだ米国市場や一部ヨーロッパ市場のように飽和したわけではない。データクエストの推定では2001年末時点でのPC普及率は、文教市場を除くビジネス市場で約70%、世帯普及率は約50%と見ており、今後も普及が進むと考えている(世帯普及率については、内閣府発表を含めて世に知られている数字に開きがあるが、これについては回をあらためて詳しく述べたい)。

 悩ましいのは、部材の供給や円安など2002年の製造コスト環境を考えると、上記に挙げた需要および課題は、実はいずれもマージンの圧迫と背中合わせになっている。従って、従来の価格対性能比追求型の価値では、ビジネスの成立自体が危うい状態である。実はこの問題は2003年以降市況が上向いてきても、完全に解消されるものではなく、システム平均単価の下落が止まらないPC産業における最優先課題である。では、PCベンダはこの問題を今後どのように扱うべきであるか。PC産業の存続意義はどこにあるのか。すでに多くの産業関連企業が、いま求められているのは新しい価値、意識、思考法であることを認識している。この点については、あらためて別のレポートで触れていきたい。

 なお最新予測によると、2002年の出荷台数は、ビジネス市場で対前年比10.0%減、個人市場で8.2%増、日本市場全体では、1.8%増となるが、2002年度(2002年第2四半期〜2003年第1四半期)では、ビジネス市場で前年度並み、個人市場で2けた成長、市場全体で1けた中盤から後半のプラス成長となるものと見ている。記事の終わり

  更新履歴
【2002/03/28】 グラフ「日本パソコン市場出荷台数エンド・ユーザー市場別出荷推移」で2001年第1四半期の値が抜けておりました。また、グラフ「日本国内のパソコン市場出荷台数ベンダ別シェア」の対前年比成長率が-7.8%となっておりましたが、-7.6%の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。


 INDEX
  IT Market Trend 第11回
     日本PC市場:2001年の結果と2002年への展望(1)
   日本PC市場:2001年の結果と2002年への展望(2)
 
「連載:IT Market Trend」


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