IT Market Trend第12回 サン・マイクロシステムズのサーバ・ビジネスを分析するガートナー・ジャパン株式会社 |
サン・マイクロシステムズ(以降「サン」)は、ビジネス上の大きな戦略転換期にある。ドットコム・ブームの終えんにともない、サンはこれまでの高成長から一気に厳しい現実を目の当たりにした。現在、同社はサーバ中心から、システム・ソリューションまでビジネス領域を拡大しつつあるが、進もうとしている道は決して平たんではない。本稿では、サンのビジネスの現状と課題について分析する。 |
厳しい結果に終わった2001年
2001年、サンのサーバ・ビジネスは2000年の急成長から一転し、厳しいものとなった。日本国内における同社のサーバ製品成長率を見ると、2000年の出荷台数66.1%増、出荷金額47.7%増から、2001年は出荷台数でかろうじて7.8%増を維持したものの、金額では12.0%減となった。これは、特にミッドレンジ・サーバの出荷台数が減少した影響だ。この結果、同社のUNIXサーバ市場におけるシェアは、出荷台数で52.6%、出荷金額で28.4%となり、2000年に比べて出荷台数で0.4ポイント、出荷金額で3.8ポイント低下した。サンは、1999年に日本HPから出荷金額1位の座を奪ったが、この地位は再び奪い返された。
2001年のサンの日本国内サーバ市場全体における出荷台数順位は7位(シェアは6.8%)、出荷金額では5位(シェアは9.6%)である。日本電気やデルコンピュータといったベンダが存在するPCサーバ市場まで含めると、上位に食い込んでいるといえる状況にはない。
2001年のサンの低迷については、2000年があまりにも高成長であったという見方もできるが、ドットコム・ブームの終えん以降、市場やユーザーにアピールできる新たなメッセージを出せなかったことや、製品の世代交代時期であったこと、日本IBMがこれまで以上にUNIXサーバ市場に積極的に取り組むようになり新たな脅威になったことなどが要因として挙げられるだろう。
サンのビジネスを取り巻くさまざまな課題
サンの今後のビジネスを展望した場合、いくつかの困難が予想される。短期的には特にハイエンドUNIXサーバ製品で他社との競争激化が考えられる。また中長期的には、同社の競争セグメントであるUNIXサーバ市場の将来が不安定になること、さらにその中で同社の製品とビジョンをどう構築するかという点が課題となる。
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これまでの日本HPに加え、日本IBMがハイエンドUNIXサーバ市場で新たな脅威になっている。また、富士通とも同じSolarisチームという蜜月関係から、サンの脅威としての存在がより鮮明になりつつある。1997年に発表した「Ultra Enterprise 10000(Starfire)」では、SMPインターコネクト*1で先行し成功を収めることができたが、いまやこの技術は他社もキャッチアップしてきており、同社製品が絶対的に優位という状況ではなくなりつつある。
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ドットコム・ブームに支えられたUNIXサーバ市場には、それ以降、有効な外部けん引材料(External Accelerator)が不足しており、短期的には今後このような特需は期待できない。
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2001年の市場規模は、PCサーバ市場は35万台、UNIXサーバ市場は5万台である。PCサーバ市場とUNIXサーバ市場では現在7倍の開きがあるが、この差は今後さらに拡大するものとガートナー データクエストでは予想している。さらにHewlett-PackardやCompaqなどが販売しているRISC/UNIXサーバ製品が数年後にIPF(Itanium Processor Family)へ移行するのに従い、RISC/UNIXを中心としたUNIXサーバ市場の存在自体が不透明になる可能性がある。
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これまでサンは、SPARC/Solarisの組み合わせを競争優位ととらえ、シングル・スタック(単一の組み合わせ)で他社との差別化を訴求しようとしていた。しかし、ユーザーの視点はすでにプロセッサやOSといったベーシックな技術から、より上位のソリューションに移ってきている。このことは、これまでサンが優位としていた点が、将来的にも有効となる保証はないことを意味している。
このような懸念事項がある中、サンは今後どのような企業ビジョンを持つか、また収益モデルをどのように再構築するかという課題に直面している。
*1 Gigaplane-XBと呼ぶクロスバースイッチによるSMP方式。このインターコネクトは、最大12.8Gbytes/sの帯域幅と600ns以下の遅延時間を実現していた。メインフレームで実現されていた論理パーティショニング機能(ダイナミック・システム・ドメイン機能と呼んでいた)により、複数のシステム(ドメイン)を1台のUltra Enterprise 10000上で稼働させ、プロセッサ、OS、メインメモリ、I/Oなどの資源を、システムを再起動することなく、ドメイン間で変更、追加あるいは削除することが可能であった。 |
サンの新たなチャレンジ
今後サンは、サーバ製品については、これまでの戦略を踏襲することになるだろう。これらには、ハイエンド・サーバによるメインフレーム市場の攻略およびミッドレンジ・サーバ、ローエンド・サーバによるIAサーバ市場との攻防がある。
ハイエンド・サーバについては、現在「Sun Fire 15K」を中心にメインフレーム・ユーザー向けのメッセージやソリューションを展開しているが、今後この戦略はさらに強化されるだろう。しかし、このセグメントでは日本IBMや富士通といったメインフレーム・ベンダが長年の実績で優位に立っている。さらにこれらのベンダはメインフレーム代替となり得るUNIXサーバを自社で展開しており、サンの挑戦に対して、メインフレームでもUNIXサーバでも受けて立つことのできる柔軟な戦略を持っている。これらの競合との戦いにどう挑むのか、サンのチャネルやパートナー戦略も併せて状況を見守る必要がある。
ミッドレンジ・サーバについては、今後「Sun Fire V880」を中心にIA/Windowsサーバ市場の防衛と攻略を狙っている。現在、日本国内サーバ市場に関しては、100万円以上のセグメントでは、UNIXサーバのシェアが高い。逆にIAサーバはこれまでの信頼性問題やマーケティング上の暗黙のすみ分けの中で、このセグメントでのシェアは低い。そういう意味ではミッドレンジ市場におけるUNIXサーバ製品のポテンシャルはまだ高く、将来的にユーザーにとって魅力ある製品を継続的に提供できるなら、同社のUNIXサーバは、引き続きミッドレンジ・セグメントでの地位を確保することができるだろう。
ローエンド・サーバについては、「Netra」などのRISC系製品と「Cobalt」を中心とするIA/Linux製品の両面でIA/Windowsサーバに対抗しようしている。Netraは、価格を引き下げるなどの努力が功を奏し、2001年の出荷は好調であった。しかし、サンの戦略はこれらの製品群を包括したものとはなっていないため、IA/Windowsサーバの対抗勢力という一体感はいまのところ見られない。さらに、1Uサイズといった薄型サーバ市場では、IAサーバがコストパフォーマンスの点で優位な状況もあり、今後これらの製品群についてはさらなる強化が必要となるだろう。
サンの今後の方向性
2002年2月、サンは毎年行っているアナリスト・カンファレンスの場で、今後のビジネスの方向性について、「One Sun/Sun Sigma/Sun ONE/V1/H1/S1/N1」という領域で示した。
Sun Microsystemsの今後の方向性 |
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このチャートは、サーバ・ビジネスの急成長と急失速の中で見失いつつあったサンの今後のビジネスを、まずはサン自身が再定義することを目的としたものだと解釈できる。
これまでサンは、単にその製品だけではなく、Javaといった次世代ITのコアとなる技術を生み出す企業理念や姿勢といった1つの企業ブランドにおいて、特にエンジニア層を中心に多くの支持を獲得してきた。現在の支持基盤をどれだけ維持・拡大できるのか? さらに新たに定義された事業範囲を、今後有効な戦略としていかに具現化しビジネスにつなげることができるのか? さまざまな困難が予想される中、サンの新たなチャレンジはまさに始まったばかりである。
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第10回 2002年の国内サーバ市場を展望する | |
第7回 UNIXサーバが伸びた2000年の日本国内サーバ市場 | |
第5回 PCサーバのハイエンド化への施策 | |
第4回 世界のサーバ市場の動向 | |
第1回 PCサーバ/UNIXサーバ市場の現状 |
関連リンク | |
SunONEサービスソリューションの情報ページ | |
Sun Fire 15Kの製品情報ページ | |
Sun Fire V880の製品情報ページ | |
Netraの製品情報ページ | |
サーバ・アプライアンス(Cobaltシリーズ)の製品情報ページ |
「連載:IT Market Trend」 |
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