技術解説 次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像
1.DDR SDRAM DIMMの特徴デジタルアドバンテージ |
PCを利用するエンド・ユーザーがDDR SDRAMを目にするとき、それは複数のメモリ・チップを搭載した小さな基板、すなわちメモリ・モジュール(DIMM)になる。SDRAMと同様に、DDR SDRAMもDIMMでPCに装着する形式をとる。このDDR SDRAM DIMMについても、すでに規格*1が決まっており、その外観は以下の写真のとおりだ。
*1 DDR SDRAMもそのDIMMも、JEDECと呼ばれるメモリ・チップの規格化団体が最終的に仕様を決めて規格化している。もちろん、仕様策定には複数のDRAMベンダやチップセット・ベンダなどがかかわっている。 |
184ピンUnbufferedタイプのDIMM |
これは主にデスクトップPC向けのDDR SDRAM DIMMである。コストは低いが、1枚当たりのチップ数は少なく、大容量メモリの実装には向かない。 |
184ピンRegisteredタイプのDIMM |
これはサーバ/ワークステーション向けのDDR SDRAM DIMMである(デスクトップPCでも利用される場合はある)。1枚当たりのチップ数や1つのシステムに搭載可能なDIMM枚数はUnbufferedより多いが、価格は高い。 |
200ピンUnbufferedタイプのSO-DIMM |
これはノートPCや省スペースPC向けに小型化を狙ったメモリ・モジュールだ。規格ではECCもサポートされる。 |
いずれもサイズは、現行のSDRAM DIMMとほとんど変わらない。
将来の仕様変更への対応は?
上の写真で、DIMMの端子部分には切り欠きが入っているのが分かる。これはDIMMの表裏(向き)を間違えて装着するのを防ぐ役割もあるが、メモリ・バスの信号レベルを判別するのにも利用される。DDR SDRAMの規格では、信号の電圧レベルが複数決まっており、この切り欠きの位置によって信号の電圧レベルを区別するのだ。最初に登場するのは、2.5V*2に対応したDIMMである(下の写真)。
*2 この2.5Vという値は、正確にはメモリ・バス信号を駆動するバス・インターフェイス回路の電源電圧を指す。 |
DDR SDRAM DIMMの誤装着防止用切り欠き |
金色の信号端子の間に切り欠きが「左寄り」に配置されているのが分かる。これは信号レベルが2.5Vであることを示している。切り欠きが「真ん中」なら1.8V、「右寄り」ならさらに低い電圧を示す。 |
DIMMとソケットがそれぞれカバーする電圧レベルが異なる場合、切り欠きの位置が合わないので、物理的に装着できない。これにより、電圧レベルの違いによる電気的な破壊を未然に防ぐことができる。
このように複数の電圧レベルをサポートしているのは、将来DDR SDRAMの製造ルールが微細化するにつれ、信号や電源の電圧が下がることがすでに想定されているからだ。
こうした仕様の変化に対して柔軟に対応する仕組みは、ほかにもある。下の写真にあるシリアルEEP-ROMはSPD(Serial Presence Detect)と呼ばれ、DIMMに関する各種のパラメータが保存されている。
SPD(Serial Presence Detect) |
これはシリアル・バスでデータを読み出せるROMの一種だ。電源投入直後、チップセットはこのSPDからDIMMのパラメータを読み出し、適切に信号タイミングを設定する。 |
チップセット側は、DIMMとのインターフェイスを初期化する際、このSPDからDIMMのパラメータを読み出すことで、そのDIMMに最適な信号タイミングを知ることができる。例えば、データの読み出しに2.5クロックかかる、とSPDに記録されていたら、メモリ・バスの信号タイミングを調整し、そのとおりに合わせることが可能だ。
SDRAMとは、DIMMそのものの互換性は「ない」
現行のSDRAM DIMMをよく知っている人なら、以上の特徴がSDRAM DIMMと似通っていることに気付くだろう。プラットフォーム以外の速度や冗長性などについても、以下のようにDDR SDRAM DIMMのバリエーションは、SDRAM DIMMのそれをほぼ踏襲している。
DDR SDRAM DIMM | SDRAM DIMM | ||
データ・バス幅 | 64bits(+ECC) | 64bits(+ECC) | |
転送速度による区分 | PC1600/PC2100 | PC100/PC133 | |
レイテンシによる区分 | CL*3=2/2.5 | CL=2/3 | |
冗長メモリ | 1bitの修正可能なECC | 1bitの修正可能なECC | |
フォームファクタ | デスクトップPC | 184ピン Unbuffered DIMM | 168ピン Unbuffered DIMM |
ノートPC | 200ピン SO-DIMM | 144ピン SO-DIMM | |
サーバ | 184ピン Registered DIMM | 168ピン Registered DIMM | |
DDR SDRAMとSDRAMそれぞれのDIMMの種類と仕様 | |||
DDR SDRAM DIMMの種類は、明らかにSDRAM DIMMを手本にしていることが分かる。 | |||
*3 CLとはCAS Latencyの略で、アドレスを指定してからデータが読み出し可能になるまでの時間を表すパラメータの1つ。値が小さいほど高速なメモリである。 |
このようにDIMMのバリエーションが似通っているのは、やはりDDR SDRAMがSDRAMをベースに改良したメモリ・チップであり、ベンダ側もSDRAMとの差を小さくすることに注力した結果だ。
ただし、似通ってはいても、DDR SDRAM DIMMとSDRAM DIMMの間に互換性は「ない」。両者は、メモリ・バスの電気的/プロトコル的な仕様だけではなく、物理的なソケットの仕様まで異なるので、装着することさえもできない。従って、
- 余ったSDRAM DIMMを新しいDDR SDRAM搭載PCに流用する
- 古いSDRAM対応PCに、DDR SDRAM DIMMを組み込んで高速化する
などということは不可能である*4。
*4 チップセットによっては、SDRAMとDDR SDRAMの両方に対応し、同一マザーボードにSDRAM DIMMとDDR SDRAM DIMMの両ソケットを実装できる、としている製品もある。ただし、両者を同時に併用することはできないし、両ソケットの実装は技術的に難しく、DDR SDRAM使用時の性能や機能に悪影響を及ぼすという話も聞く。あまり有効なソリューションではないようだ。 |
最大メモリ実装容量について
DDR SDRAM DIMMによる最大メモリ実装容量は、原則として以下のようになる。
184ピンUnbuffered DIMM | 184ピンRegistered DIMM | 200ピンUnbuffered SO-DIMM | |
実装可能なソケット数 | 2〜3 | 4 | 2 |
DIMM1枚当たりの最大メモリ・チップ数*5 | 16 | 32 | 8 |
DIMM1枚当たりの最大容量(512Mbitsチップ使用時) | 1Gbytes | 2Gbytes | 512Mbytes |
1本のメモリ・バス当たりの最大容量 | 2G〜3Gbytes | 8Gbytes | 1Gbytes |
DDR SDRAM DIMMの実装可能なソケット数や最大メモリ容量 | |||
*5 ECCメモリの場合、これにECCの分を記憶するためのメモリ・チップの分が追加される。 |
「原則として」と記したのは、この表の内容はチップセット(正確にはメモリ・コントローラ)の仕様やマザーボードの設計などによって大きく左右されるからだ。例えば184ピンUnbuffered DIMMの場合、チップセットによってソケット数は最大2本に限定されている場合がある*6。Registered DIMMについても、1枚当たり1Gbytesまでしかサポートしないチップセットが存在する。
*6 Unbuffered DIMM×3枚は、信号のタイミングなどが厳しくなるようだ。チップセットによっては、メモリ・チップ数の多いDIMMは2枚までしか搭載できない、といった制限が生じるかもしれない。 |
また「実装可能なソケット数」は、1本のメモリ・バスに限られる。クライアントPC向けチップセットはたいてい1本だが、サーバ向けチップセットでは、複数のメモリ・バスをサポートする製品も登場するだろう。その場合、最大メモリ容量は表の値より大きくなる。
注意すべきは、184ピンUnbuffered DIMMと184ピンRegistered DIMMの扱いである。これらは同一のソケットに装着可能であり、チップセット側も両者をサポートしていることが多い。そのため、DDR
SDRAM搭載PCでは、UnbufferedとRegisteredの両方をサポートする製品が現れるだろう。しかし、そのPCがたとえDIMMソケットを4本実装していても、おそらくUnbuffered
DIMMは最大3本までしか装着できない。4本までDIMMを装備するには、Unbuffered DIMMより高価なRegistered DIMMが必要になることは覚えておこう。
INDEX | ||
[技術解説]次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像 | ||
1.DDR SDRAM DIMMの特徴 | ||
2.倍速化と省電力のテクノロジー | ||
3.DDR SDRAMに死角はないのか? | ||
「PC Insiderの技術解説」 |
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