技術解説 次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像
3.DDR SDRAMに死角はないのか?デジタルアドバンテージ |
順風満帆に見えるDDR SDRAMにも、普及の障害となり得る懸念材料がまったくないわけではない。
Rambusのライセンス料徴収による影響は?
Rambusが推進しているDirect RDRAMのメモリ・モジュール(RIMM) |
最大転送レートはPC1600 DDR SDRAMと同等だが、現時点では対応チップセットが少なく、搭載PCの決して多くはない。 |
「ニュース解説:動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus」のとおり、RambusはSDRAM/DDR SDRAM製造ベンダに対して、特許使用料(ライセンス料)を要求している。エルピーダメモリや東芝、Samsung Electronicsなどはこれに応じ、RDRAM(右写真)より高い比率のライセンス料を支払う契約を行った。一方、Micron TechnologyやInfineon Technologies、Hyundai Electronics IndustriesはRambusを反訴するなど徹底抗戦の構えだ。さらにRambusは、DDR SDRAM対応グラフィックス・アクセラレータを製造するNVIDIAにまで、ライセンス料を請求する動きを見せているという。DDR SDRAM対応のチップセットやDIMMを製造するベンダも、このターゲットとなる可能性は高い。
Rambusのライセンス料徴収が正当と認められた場合、DDR SDRAMとそのメモリ・コントローラを含む製品(チップセットなど)の販売価格には、ライセンス料の分が上乗せされる。その結果、DDR SDRAMなどの販売価格が多少高くなり、その普及を遅らせる可能性もなくはない。とはいえ、ほとんどのベンダはすでに次世代DRAMはDDR SDRAMになると想定して製品開発を進めている。その点で、このライセンス料請求によりDirect RDRAMがDDR SDRAMに取って代わることはまずあり得ないだろう。
製造コストはSDRAMよりどれだけ高くなる?
Rambusによるライセンス料徴収以外にも、販売価格に関する懸念材料はある。それは製造コストだ。前のページに記したとおり、DDR SDRAMではSDRAMに比べ内部データ・バス幅が倍増している部分があり、配線や回路のための面積が余分に必要になるはずだ。その結果、ダイ・サイズも多少大きくなり、ウエハ1枚から取れるチップ数も減り、製造コストがSDRAMより若干上昇することが考えられる。また、同じクロック周波数のSDRAMに比べ、2倍の速度で駆動される回路が少ないながらも存在するので、それが歩留まりの低下に結びつく可能性もある。もっとも、このような問題は、今後製造プロセスが微細化されるにつれて解決できそうだ。
むしろ、DRAMベンダが主張するように、DDR SDRAMがSDRAMと比べて技術的な違いが少ない点が、コストを押し下げるのに大きな役割を果たすはずだ。例えば、将来的には製造ラインをDDR SDRAMとSDRAMで共通化できるという。これにより両者とも需要に対して生産量を調整しやすくなるし、もちろん設備投資にかかるコストも抑えることができる。また、DDR SDRAMとその対応製品の開発は、SDRAMの経験のある技術者なら比較的容易に対応できるはずで、開発にかかる期間と人的コストも少なくてすむ。こうしたもろもろのメリットが、販売価格の低下につながることを期待したい。
互換性問題への対処は?
新しい技術や規格を採用した製品が複数のベンダから出荷された場合、よく生じるのが製品間の互換性問題だ。これは各ベンダのミスだけではなく、ベンダ間で規格書の解釈が異なったり、規格に含まれない部分での不整合が生じたりすることが原因である。
いくつかのDDR SDRAMベンダでは、DIMMの電気的特性をベンダ間でそろえるため、DIMMのプリント基板の配線パターンなど*1を統一するという仕組みを導入した。数百MHzの信号が行き交うプリント基板では、ちょっとした配線パターンの違いでその電気的特性が変化して信号が乱れてしまい、互換性問題を生じさせることがある。そこで、DIMMの配線パターンなどを統一してしまえば、どのベンダのDIMMでも電気的特性の違いをより小さくできる、という論理である。実際には、メモリ・チップの違いもあるので、完全に特性を同じにするのは難しいだろうが、特性のバラツキを抑えるのには有効なはずだ。
*1 プリント基板を製造する際には、配線パターンのほか、基板表面に記す文字などの印刷パターン(シルク印刷のパターン)、マスク・パターンなどが必要になる。これらの情報をまとめて通称「Gerber(ガーバー)データ」と呼ぶ。よくDDR SDRAM関連記事に登場する「Common Gerber」とは、ベンダ間で共有されるDDR SDRAM DIMMのガーバー・データのことである。 |
このほか、DDR SDRAM DIMMを実機でテストして動作を確認する作業(Validation)も進んでいる。これはIntelが自社製チップセットと各ベンダのPC100/PC133メモリとの動作確認を行っているのと同様で、外部のテスト・ラボが実際の実機テストを行い、その結果をチップセット・ベンダがチェックして合否を決める、というものだ。現在、チップセット・ベンダとしては、AMDがテスト結果を自社Webサイトで公表している(AMDが公表しているテスト結果)。ServerWorksもまた、自社のサーバ/ワークステーション向けチップセットでDDR SDRAM DIMMの動作確認作業を行うことを、2000年4月に表明している(ニュースリリース)。
2001年におけるDDR SDRAM普及の見通し
DDR SDRAMと対応チップセットの量産も始まり、対応マザーボードが2000年12月に発売され始めたのを見ていると、エンド・ユーザーには、この勢いなら2001年には数多くのDDR SDRAM搭載PCが登場しそうに感じられる。しかし、どのDRAMベンダも、2001年におけるDDR SDRAMのシェアは、DRAM市場全体に対してせいぜい10%台という予測をしている。つまり2001年にはDDR SDRAMがそれなりに普及するものの、SDRAMを代替するほどではない、ということである。
■Intel製DDR SDRAM対応チップセットは他社より遅れる
Intel 850チップセット |
2000年末の時点で唯一のPentium4用チップセットである。メイン・メモリはDirect RDRAMしか対応しておらず、DDR SDRAM対応チップセットの登場が待たれる。 |
こうした見通しの理由の1つは、PC用チップセットの大手ベンダであるIntelが、デスクトップPC向けDDR SDRAM対応チップセットで後手に回っていることだ。従来IntelはDirect RDRAMを次世代メイン・メモリとして推進してきたため、DDR SDRAMへの対応はほかのチップセット・ベンダより遅れている。例えばPentium 4のチップセットのうち、現在出荷中なのはDirect RDRAM用のIntel 850(右写真)だけで、SDRAM対応製品は2001年半ば以降、DDR SDRAM対応製品はさらにその後だといわれているがはっきりしていない(2001年中には登場しないかもしれない)。
これによりIntel以外のチップセット・ベンダは、DDR SDRAM対応チップセットでシェアを広げることもあり得る。Direct RDRAMの普及がうまくいかなかったせいで、1999年後半〜2000年前半にかけてVIA Technologiesがシェアを拡大したが、同じことが2001年にも起こる可能性はある。
■ユーザーは新規投資が必要
エンド・ユーザーの視点から見れば、DDR SDRAMはSDRAMと互換性がない点もまた、DDR SDRAMの普及を遅らせる原因といえる。現行のSDRAM搭載PCに対して、DDR SDRAM DIMMを追加して性能を高めることはできないので、DDR SDRAMを導入するのはPCの新規購入時に限られる。つまり、ユーザーにとっては新規投資が必要なのである。
そしてDDR SDRAMの特徴がSDRAMより高い性能である以上、必然的にDDR SDRAMは高性能なハイエンドPCから導入されるだろう。しかし、ハイエンドPCは高価なので出荷台数はメインストリームPCに比べれば少ない。しかも、昨今では高性能なPCのためのキラー・アプリケーションがなく、低価格なPCに人気が集中している。
こうした事情から、DDR SDRAMの本格的な普及は、メインストリームPCやエントリPCにDDR SDRAMが搭載されるころから、と予想される。それには、DDR SDRAMとそのチップセット、マザーボードの安価でかつ安定した供給が不可欠であり、その時期は2002年以降と予想される。
◆
総括すると、クライアントPCでもサーバでも、DDR SDRAMがSDRAMを代替するほど普及するのは2002年以降だと思われる。とはいえ、技術的には2001年中に安定することが予想される。もはや次世代メイン・メモリはDDR SDRAMということは疑いない。より性能の高いPCが必要なら、2001年中でもDDR SDRAMを搭載するPCから選ぶことに問題はないだろう。
関連記事(PC INSIDER内) | |
動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus | |
関連リンク | |
AMDが公表しているテスト結果 | |
自社のサーバ/ワークステーション向けチップセットとDDR SDRAM DIMMとの動作確認作業を行うことを発表 |
INDEX | ||
[技術解説]次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像 | ||
1.DDR SDRAM DIMMの特徴 | ||
2.倍速化と省電力のテクノロジー | ||
3.DDR SDRAMに死角はないのか? | ||
「PC Insiderの技術解説」 |
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