ニュース解説

DRAM価格暴落で戦略転換が求められるメモリ・ベンダ
―MicronはDDR SDRAMとSDR SDRAMをいつまで同価格に維持できるのか―

元麻布春男
2001/06/27

 メモリの価格が下げ止まらない。最もポピュラーなPC133 SDRAM(CL3)の場合、128MbytesのDIMMで最低価格が2000円を、256MbytesのDIMMで最低価格が4000円を、それぞれ割り込んでしまった。128MbytesのDIMMが128Mbit DRAMチップを8個実装したものだと仮定すると、単純計算しただけでも128Mbit DRAMチップの1個当たりの価格は250円以下となる。実際には基板代や検査コスト、流通コストなどもかかっていることを考えると、128Mbit DRAMチップはもっと安いことになる。おそらく2ドルを切る水準になっているものと思われる。この価格水準では、おそらくすべてのDRAMベンダが赤字を余儀なくされる。最近、これを裏付けるような発表が相次いだ。

前途が暗いDRAM業界

 2001年6月20日、大手メモリ・ベンダの1社、Infineon Technologiesは同社の第3四半期(2001年6月30日終了)の業績予想に関する警告を発した(Infineon Technologiesの「第3四半期の業績見通しの下方修正に関するニュースリリース)。それによると、市場環境の悪化により、同社の第3四半期業績は、売上げが最大で30%減少し、最大で6億ユーロ(約648億円)の赤字に陥る可能性があると述べている。256Mbit DRAMチップのスポット価格は、前期比ですでに約30%低下しているという。

 この翌日、市場調査会社のGartner(Dataquestの調査部門)は、2001年のDRAM市場予測に関するプレスリリースを発表した(Gartnerの「2001年のDRAM業界について」)。ここで示された調査結果も極めて悲観的な数字だ。同社によると、2001年のDRAM市場は、総売上げが2000年の315億ドル(約3兆9580億円)から、140億ドル(約1兆7590億円)へと縮小する。これは55.5%の縮小であり、市場がこれだけの規模で縮小するのは1985年以来とのことである。基準となる128Mbit DRAMチップの価格は、スポット市場でも2ドル以下、大口契約でも3ドルを割り込んでおり、この価格水準は大半のDRAMベンダの採算分岐点を大幅に下回っている(ベンダにもよるが、4ドル程度が採算分岐点になると言われている)。こうした傾向は2002年も続き、本格的な回復は2003年になると予想している。

 さらにその翌日、Micron Technologyが、第3四半期(2001年5月31日終了)の決算を発表した(Micron Technologyの「第3四半期の決算に関するニュースリリース」)。これによると同社の第3四半期は、売上げの8億1800万ドルに対して、3億100万ドル(約378億円)の赤字である。1株あたりでは50セントの赤字となっている。Infineon Technologiesの決算とは、四半期に日付のズレがあるため、そのまま比較はできないが、巨額の赤字であることは間違いない(より最近のデータを含むInfineon Technologiesの方が赤字額が大きくなる傾向になるだろう)。この数字には、PC事業(Micron PC事業)の売却に伴う損失1200万ドル(約15億円)も含まれているが、全体の赤字から見ると霞んでしまうほどだ。

Micron Technologyの公約が破綻するのはいつ?

 Micron Technologyの決算が注目されたのは、同社がかねてから「DDR SDRAMの価格はSDR SDRAMの価格と同じ」と言い続けてきたことにある。同社がこれを言い出したときは、まさに米国はネットバブルの真っ只中。旺盛なPC需要に裏付けられ、DRAMの価格も堅調であった(2000年1月上旬、秋葉原のPCパーツ販売店でPC100 CL=2の価格は1万5000円を超えていた)。この当時のDRAM価格であれば、DRAM大手の中でもコスト競争力に優れるといわれていたMicronならば、DDR SDRAMとSDR SDRAMの価格を同じにすることも、それほど難しいことではなかったかもしれない。

 しかも同社は、ネットバブルの崩壊後の2001年第2四半期(2001年3月1日終了)も、わずかとはいえ、半導体事業単独では黒字を続けることができた(連結決算では、Micron PC事業を手がけていたMicron Electronicsの赤字などが原因で赤字となったが)。当然、この時点でも「DDR SDRAMの価格はSDR SDRAMの価格と同じ」という主張は揺らいでいない。第3四半期決算の赤字幅が小さければ問題ないが、もし大幅な赤字が計上されるようだと、DDR SDRAMの価格をSDR SDRAMの価格と同じに設定するという同社の戦略が揺らぐことも考えられる。

 というわけで本稿執筆時点における、Micron Technologyの子会社であるメモリ販売会社「Crucial Technology」のメモリ販売価格を表にまとめてみた(Crucial Technologyの通信販売ページ)。比較のために、シリコンバレー近郊の有名PC販売店の1つであるCentral Computer SystemsのWeb上の販売価格と秋葉原のPCパーツ販売店でのおおよその最低価格も記してある(Central Computer Systemsのメモリ価格)。

メモリ・タイプ メモリ容量 秋葉原のPCパーツ販売店 Crucial Technology Central Computer Systems
PC2100 CL=2.5 256Mbytes 7000円 59.39ドル 75ドル
128Mbytes 3500円 31.49ドル 39ドル
PC133 CL=2 256Mbytes 3800円 59.39ドル 54.50ドル
128Mbytes 2000円 31.49ドル 29.99ドル
主なメモリ価格(2001年6月26日付け)
秋葉原のPCパーツ販売店、Micron Technologyの子会社であるCrucial Technology、米国のPC販売店のCentral Computer Systemsの各メモリ価格を比較している。

 これを見て分かるのは、Crucial Technologyの価格は、PC2100 SDRAMについては秋葉原のPCパーツ販売店と大差なく、Central Computer Systemsに比べれば明らかに安い。ところが、PC133 SDRAMの価格は両者に比べて高いことが分かる。確かに「DDR SDRAMの価格はSDR SDRAMの価格と同じ」という公約は守られているものの、これはちょっと違うのではないか、という気がしてくる。つまり、ユーザーはMicron Technologyの公約を、「DDR SDRAMの価格は性能が向上するにもかかわらず安価なSDR SDRAMと同じ」と受け止めていた。それに対して、現状のCrucial Technologyの価格は、SDR SDRAMの価格をDDR SDRAMと同じ水準まで引き上げる形で公約を実現している。この点において、すでに同社の公約は破綻をきたしつつある。

Crucial TechnologyのPC2100 DIMM
Micron Technologyの子会社Crucial Technologyが販売するPC2100 DIMM。写真のように「Crucial」のロゴが入ったシールが貼られている。DDR SDRAMの販売価格は安いものの、SDR SDRAMは高めの価格設定がなされている。

 しかも、実際には第3四半期決算後も、DRAM市場は値下りを続けており、このままでは次の四半期も巨額の赤字から逃れられない。そればかりか、市場がいつ回復するのかメドさえ立たない状況だ。上述したように、Gartnerは、市況が回復するのを2003年以降と予測している。公約違反のそしりを受けても、MicronはDDR SDRAMの価格を引き上げざるを得なくなる(現実に即していえば、SDR SDRAMの価格を引き下げるのに対し、DDR SDRAMの価格を据え置きせざるを得なくなる)のではないだろうか。記事の終わり

  関連リンク
第3四半期の業績見通しの下方修正に関するニュースリリースENGLISH
2001年のDRAM業界についてENGLISH
第3四半期の決算に関するニュースリリースENGLISH
Crucial Technologyの通信販売ページENGLISH
メモリ価格のページENGLISH
 
「PC Insiderのニュース解説」


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