ニュース解説

ついにモバイルAthlon 4が登場
―火蓋を切ったノートPCのプロセッサ戦争―

デジタルアドバンテージ
2001/05/16

 

モバイルAthlon 4
パッケージはデスクトップPC向けと同様、セラミックスPGAパッケージを採用する。そのため、薄型のノートPCにはあまり向かない。

 米国時間2001年5月14日、AMDが開発コード名「Palomino(パロミノ)」で呼ばれていた「モバイルAMD Athlon 4」(以下、モバイルAthlon 4)を正式に発表した(日本AMDの「モバイルAMD Athlon 4に関するニュースリリース」)。今回発表されたモバイルAthlon 4の動作クロックは、850MHz、900MHz、950MHz、1GHzの4種類。Athlonシリーズとしては、初のノートPC向けプロセッサとなる。Intelは、2001年3月19日にモバイルPentium III-1GHzを発表しているので、AMDは2カ月遅れで1GHzに追い付いたことになる(インテルの「モバイルPentium III-1GHzに関するニュースリリース」)。

 モバイルAthlon 4と、Pentium 4に対抗するかのような名称*1に変更されたが、現行のAthlonからの大きな変更点は、

  • AMD PowerNow!テクノロジのサポート(サーマル・ダイオードの実装を含む)
  • 3DNow! Professionalテクノロジの実装
  • データ・プリフェッチのサポート

の3点とそれほど多くない(製造プロセスも、0.18μmの銅配線という点では変わっていない)。以下、新機能を中心に見ていこう。

*1 日本AMDのモバイルAthlon 4発表会では、最初にAthlonブランドで発表された開発コード名「K7」のプロセッサから数えて、モバイルAthlon 4が4代目のプロセッサ・コアに相当することが、「4」の由来になった、と表明している。
 
AthlonとモバイルAthlonとの比較
機能面では、3DNow! ProfessionalとPowerNow!テクノロジ、データ・プリフェッチの3点が強化されている。機能強化点が少なかったため、トランジスタ数やダイ・サイズの増加はそれほどでもない。この程度ならばコストへの影響はそれほどではないだろう。

AMD PowerNow!テクノロジで2Wの消費電力を実現

 モバイルAthlon 4で採用されたAMD PowerNow!テクノロジは、AMD K6-2+などにも採用されていた省電力機能をベースにしている。この技術は、簡単にいえば、プロセッサの動作クロックとともに動作電圧を1.2V〜1.4Vの範囲で変動させることで、消費電力を低減するというものだ。例えば、1GHz版の場合、動作クロック1GHzの「Performance Mode」の動作電圧が1.4Vなのに対し、動作クロック500MHzの「Battery Saver Mode」では1.2Vまで下げられる。これにより、「Battery Saver Mode」では「Performance Mode」に対して約30%のバッテリ駆動時間の延長が可能になるという。

 このほか、AMD PowerNow!テクノロジでは、プロセッサの負荷をモニタリングするソフトウェアによって最適な動作クロックと動作電圧に設定する「Automatic Mode」という動作モードも備えている。「Automatic Mode」では、FSBの2分の1刻み(つまり100MHz単位)で動作クロックの制御を行う。ただし、100MHz単位以下の制御も可能だが、オーバーヘッドが大きくなるため、通常は5段階程度(200MHz単位)で制御を行うという。また、動作クロックの変動範囲は、1GHz版の場合、300MHzから1GHzの間になる。

 なお、PowerNow!テクノロジを無効にした状態でも、モバイルAthlon 4は現行のAthlonに比べ、消費電力は最大20%まで低減されている。これは、プロセッサの設計改良による動作電圧の引き下げ(1.7Vから1.2〜1.4Vへ)などにより実現されているという。

 こうした省電力化は、同時にプロセッサの発熱を抑えることにもつながる。特に動作クロックが高い場合、プロセッサの発熱量は大きくなり、どのように冷却するかが大きな問題となっている。AMD PowerNow!テクノロジの採用は、こうした熱設計の面でもメリットをもたらすことになる。モバイルAthlon 4では、温度計測が可能なサーマル・ダイオードの実装も行われており、より細かな冷却制御も行えるようになっている。

 なおモバイルAthlon 4は、AMD PowerNow!テクノロジの採用などにより、典型的なオフィス・アプリケーションを実行した状態の消費電力は、2W程度であるという。

SSE互換もサポートした3DNow! Professionalテクノロジ

 モバイルAthlon 4では、これまでのEnhanced 3DNow!テクノロジに52命令を追加した「3DNow! Professionalテクノロジ」が実装された。今回追加された命令は、IntelがPentium IIIから実装しはじめたストリーミングSIMD拡張命令(SSE)との互換性を実現しており、レジスタ・レベルでの互換性も維持している。SSE実行時のパフォーマンスがどれほどなのかは今後の評価を待つ必要があるが、これにより、SSE対応だが3DNow!やEnhanced 3DNow!には非対応だった既存のゲームやMP3エンコーダなどのソフトウェアが、モバイルAthlon 4なら実用的に使えることが期待できるわけだ。

最大10%の性能向上を実現するデータ・プリフェッチ

 意外と重要な機能強化が、データ・プリフェッチかもしれない。データ・プリフェッチとは、データが必要とされる前にメモリから読み込みを行い、準備をしておくこと。データの読み込み待ちによるパイプラインのストールを最小限に抑えることで、プロセッサの性能向上を実現しようというものだ。AMDによれば、データ・プリフェッチの実装により、これまでのAthlonに比べて、最大10%の性能向上が期待できるという。動作クロックが高くなるに従い、データの読み込み待ちによるパイプラインのストール時間は長くなる傾向にあるため、今後動作クロックが高まるほど、データ・プリフェッチの効果も高まっていくものと思われる。

モバイルAthlon 4のベンチマーク・テストの結果
モバイルAthlon 4のプレゼンテーションで示されたAthlonとの比較結果(Athlonを100とした相対グラフ)。6〜10%の性能向上を実現していることが分かる。

パッケージはSocket Aのまま

 モバイルAthlon 4では、こうした機能拡張が行われたが、パッケージは既存のSocket A(462ピン)対応PGAパッケージを踏襲している。ただし、これまで使われていなかったピンなどに信号が割り当てられたため、完全なピン互換にはなっていない。また、このPGAパッケージはノートPCに内蔵させるには大きめで、薄型ノートPCやサブノートPC/ミニノートPCに搭載するのはかなり難しい。また、パッケージを小型化する具体的な予定は明かされていない。当初、モバイルAthlon 4を搭載するノートPCは、3スピンドル(ハードディスク/フロッピードライブ/CD-ROMドライブ)内蔵機に限定されるだろう。後述するモバイルAMD Duronも、同じパッケージを採用しているので、同様のことがいえる。

大きな写真 大きな写真
参考出品されたCompaq Presario 1200シリーズ 参考出品されたHP Omnibook xe3シリーズ
米国ではモバイルAthlon 4と同時に発表された「Presario 1200シリーズ」が記者発表会で参考出品されていた。コンパックによれば、日本国内での出荷について検討中ということだ。 日本HPは、企業向けノートPC「Omnibook xe3シリーズ」でのモバイルAthlonを検討しているという。Omnibook xe3シリーズは、すでにモバイルPentium IIIなどを搭載したモデルを発表済みである。

当初はPalominoコアを流用するモバイルAMD Duron

 モバイルAthlon 4と同時に、新しいモバイルAMD Duron(以下モバイルDuron)も発表された。ラインアップとしては、パフォーマンス重視のノートPCはモバイルAthlon 4がカバーし、価格重視のエントリ・ノートPCはモバイルDuronがカバーする。

 今回発表されたモバイルDuronは、実際にはモバイルAthlon 4の2次キャッシュ(256Kbytes)のうち、3/4(Duron本来の64Kbytesを除く192Kbytes分)を無効化したプロセッサ・コアを採用している(これはPentium IIICeleronの関係によく似ている)。そのためモバイルDuronも、モバイルAthlon 4と同様、3DNow!テクノロジと3DNow! Professionalテクノロジ、ハードウェア・データ・プリフェッチをサポートする。今回発表されたモバイルDuronの動作クロックは、800MHzと850MHzの2種類で、既存のモバイルDuron-700MHz/600MHzの上位版に位置付けられる。

 今回、モバイルDuronがモバイルAthlon 4のコアを流用する形で投入となったのは、「PCベンダからの要望」であるとAMDは述べている。これは、モバイルDuronかモバイルAthlon 4のどちらかを選んで搭載することにより、同じ設計のノートPCでエントリ・ノートPCからハイエンド・ノートPCまでをラインアップ可能にするためと思われる。既存のモバイルDuronでは熱設計などが異なるため、プロセッサの置き換えだけでは対応できなかった。

 ただ今回発表のモバイルDuronは、モバイルAthlon 4のコアを流用しているためダイ・サイズが大きめで、製造コスト面では若干不利である。そこで、先日の株主総会で明らかにしたようにAMDは、最初から2次キャッシュを64Kbytesとして設計された開発コード名「Morgan(モーガン)」を、モバイルDuronとして第3四半期に投入する(なお、日本AMDによれば、MorganベースのモバイルDuronは、第2四半期中に投入される予定とのことだ)。

動作クロック ドル価格 円価格 ドル価格
モバイルAthlon 4 モバイルPentium III
1GHz 425ドル 5万5250円 722ドル
950MHz 350ドル 4万5500円
900MHz 270ドル 3万5100円 508ドル
850MHz 240ドル 3万1200円 348ドル
モバイルDuron モバイルCeleron
850MHz 197ドル 2万5610円
800MHz 170ドル 2万2100円 134ドル(750MHz)
モバイルAthlon 4とモバイルPentium IIIなどの価格(2001年5月15日現在)
各プロセッサは、1000個ロット時の1個の価格。モバイルAthlon 4はモバイルPentium IIIの2/3程度の価格を実現している。モバイルCeleronは、最高動作クロックが750MHzであり、性能面でモバイルDruonが勝っている。

AMDの巻き返しでノートPCが面白くなる

 今回のモバイルAthlon 4の出荷によって、ノートPCにもプロセッサを軸とした性能・価格の両面での競争が起きそうだ。Intelは近々、製造プロセスに0.13μmプロセスを採用した開発コード名「Tualatin(テュアラティン)」で呼ばれる新しいモバイルPentium IIIを投入するといわれている。Tualatinでは、2次キャッシュを現在の256Kbytesから2倍の512Kbytesへ拡張することが明らかにされており、動作クロックも1GHz以上が予定されているという。

 これまでノートPCは、デスクトップPCに比べて半年から1年以上も遅れて性能が向上してきたが、ここにきて急速に性能が向上し、デスクトップPCに近付きつつある。また、価格面でも液晶パネルなどの低価格化を受けて、安価になってきている。しかし、まだまだデスクトップPCの性能・価格レベルには至っていない。デスクトップPCがAthlonとPentium IIIの性能競争によって、大幅にコストパフォーマンスが向上したように、今回のモバイルAMD Athlon 4の発表が刺激となり、ノートPCでも同様の効果が現れることに期待したい。記事の終わり

  関連リンク 
モバイルAMD Athlon 4に関するニュースリリース
モバイルPentium III-1GHzに関するニュースリリース
 
「PC Insiderのニュース解説」


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