ニュース解説

Pentium 4の船出は前途多難?

小林章彦
2000/11/22

 

Pentium 4(上)と対応チップセットのIntel 850(下2つ)

 2000年11月21日(米国では20日)、ついにインテルから次世代メインストリーム・プロセッサの「Pentium 4」と、対応チップセット「Intel 850」が発表された(インテルのPentium 4発表に関するリリース)。すでにブランド名やマイクロ・アーキテクチャなどが数カ月前から小出しに発表されていたうえ、当初予定されていた10月下旬から、チップセットに障害があったという理由で11月21日まで発表が延期されてこともあり、“やっと発表”という印象さえ受けてしまう。

 都内で開催されたPentium 4の発表会では、コンパックコンピュータやデルコンピュータ、日本IBM、日本電気、富士通など合計20社が、当日発表や発表予定のPCを展示し、Pentium 4の順調な滑り出しをアピールした。また席上、インテル株式会社社長のジョン・アントン氏は、「2001年後半の日本におけるデスクトップPCのメイン・ストリーム市場で、Pentium 4のシェアは60%に達する」とPentium 4に対する強気な予想を披露した。

 Pentium 4に対応するチップセットは、当面、同日発表となったIntel 850のみである。Intel 850は、メイン・メモリにDirect RDRAMを採用し、メモリ・アクセスをデュアル・チャネル化することで、最大3.2Gbytes/sのメモリ・バス性能を実現している。3Dグラフィックスの描画や、ビデオ/MP3などのストリーミング処理などに威力を発揮するという。

 プロセッサの価格(1000個ロット時の1個あたりの価格)は、1.4GHz版が7万940円、1.5GHz版が9万210円となっている。これまでのインテルのハイエンド・プロセッサが、10万円から12万円程度で発表されることが多かったことを考えると、比較的低価格からのスタートとなった。また、インテルはリテール向けの「Boxed Pentium 4」(化粧箱にCPUと冷却ファンを入れた、量販店などで販売するためのPentium 4)に、64MbytesのPC800 RIMM(Direct RDRAM搭載のメモリ・モジュール)を2枚同梱して出荷を行うという(Intel 850はRIMMを2枚ずつ増設する必要があるため)。価格はオープン・プライスだが、1.5GHz版の店頭予想価格は12万円前後になる予定だ。2000年11月21日現在、64MbytesのPC 800 RIMMが秋葉原のPCショップの実売価格で3万円前後であることを考えると、「Boxed Pentium 4」は冷却ファンと64Mbytes分のメモリが無料で付いてくる勘定になる。

デルコンピュータ Dimension 8100 I日本IBM IntelliStaion M Pro 6849-23J 日本電気 VALUESTAR Mシリーズ
デルコンピュータのデスクトップPC「Dimensionシリーズ」の最上位モデル。Pentium 4-1.4GHzを搭載した最小構成価格で25万5800円。 日本IBMが参考出品したPCワークステーション「IntelliStationシリーズ」。グラフィックス・カードにIBM Fire GL2を搭載する。価格は未定。 日本電気の個人向けデスクトップPC「VALUESTARシリーズ」の最上位モデル。Pentium 4-1.5GHz搭載の1モデルのみラインアップする。価格はオープンプライス。

Direct RDRAMの価格が逆風に

 1995年11月2日のPentium Proの出荷から始まったP6アーキテクチャは、Pentium II、Pentium IIIと拡張を行いつつ、途中、低価格版のCeleronを加えるなど、進化し続けている(インテルのPentium Pro発表に関するニュースリリース)。Pentium 4発表後も、Pentium IIIはさらに高動作クロック版の出荷が予定されている。Windows 9xの普及とPCの低価格化という追い風を受けて、これまでにない成功を収めたプロセッサ・シリーズといえるだろう。

 その後を継ぐプロセッサとしてPentium 4は発表されたのだが、発表日が遅れたことからも分かるように、若干波乱含みのスタートとなりそうだ(Pentium Proも16bitコードの実行性能が遅いというバッシングを受けてのスタートであったが)。特に、相変わらず価格が高いDirect RDRAMを採用したことが、大きな逆風となっている。

 今や、64MbytesのPC 100 SDRAM DIMM(CL=2)は4000円前後、PC 133(CL=2)では1万円前後である。一方、Direct RDRAMは安くなってきたとはいえ3万円前後(PC800)と、その価格差は2万円以上もある。Intel 850では2枚ずつの増設となるため、システム全体ではメモリだけで4万円以上の価格差が生まれることになる。この価格差を正当化するほど、性能が高ければ問題ないのだが、後述のように現状のPentium 4はPentuim IIIに対して大きなアドバンテージがない。

 また、別稿でも述べているように、もはや市場ではDirect RDRAMに対する信頼はほとんどない(ニュース解説:動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus)。メモリ・ベンダの中でDirect RDRAMが次世代メイン・メモリの主流になると信じているところは、もはや1社もないだろう。Direct RDRAMは、技術的にSDRAMやDDR SDRAMに対して優れているところも多いが、マーケティング的には完全に失敗してしまった。今後、PC向けのDirect RDRAMに参入するメモリ・ベンダは望めないことから、残念ながら劇的にメモリの価格が下がる見込みもない。すでにインテルは、Pentium 4向けのチップセットでSDRAMに対応したバージョンを開発しており、DDR SDRAMについても検討を行っているとコメントしている(ニュース解説:Pentium 4にSDRAM対応チップセット登場の噂)。もはやインテルにとっても、Direct RDRAMとその対応チップセットは、SDRAM対応チップセットやDDR SDRAM対応チップセットをリリースするまでのつなぎでしかない。

 このような状況下で、Pentium 4にとってDirect RDRAMしか当面選択肢がないことがどのように影響するのかが、普及のキー・ポイントとなるだろう。インテルとしても、その点は十分に認識しており、前述のように「Boxed Pentium 4」にDirect RDRAMを同梱したり、同様の販促をPCベンダ向けに行ったりもしている。とはいえ、将来性のないメモリを採用したPCをユーザーが購入したり、積極的にPCベンダが販売したりするだろうか。今後のインテルとPCベンダのマーケティングの手腕が問われそうだ。

性能面での魅力がカギ

 Pentium 4の最大のセールスポイントは、浮動小数点演算能力が高いことと、高い動作クロックが可能なマイクロ・アーキテクチャを採用した点にある。科学技術計算など、浮動小数点演算能力が大きく影響するような用途では、Pentium III-1GHzに対し、Pentium 4-1.5GHzで40%程度の性能向上がみられる*1。特に画像処理などでは、従来のストリーミングSIMD拡張命令をさらに拡張した「ストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)」を使うことで、数倍の性能向上も期待できる。逆に整数演算能力はあまり向上しておらず、Pentium 4-1.4GHzとPentium III-1GHzの整数演算性能の差がほとんどない。今後、Pentium 4の動作クロックが向上すれば、Pentium IIIとの性能差は広がることになるが、当面は拮抗した状態が続く。

*1 ベンチマーク・テストの結果は、インテルのホームページで公開している。詳細については、そちらを参照していただきたい。

 インテルによれば、早くも2001年第3四半期には2GHz版の出荷を開始するという。また、P6アーキテクチャが180MHzからスタートして1.2GHz(予想)程度まで対応可能なのに対し、Pentium 4はそれ以上の幅で動作クロックの向上が可能だとしている。P6アーキテクチャが約8倍の動作クロックを実現していることと考え合わせると、Pentium 4は数GHz〜10GHz程度までターゲットに据えていることになる。

 このように動作クロックを大幅に向上させていった場合、Pentium 4は整数演算性能、浮動小数点演算性能ともに魅力的なものとなるのは間違いない。しかし、当面は浮動小数点演算を中心とした用途でなければ、メリットが小さいのも、また事実である。浮動小数点演算を主体とした使い方ならば、Pentium 4のメリットを活かすことが可能だが、もしワードプロセッサなどのビジネス・アプリケーション用途ならばPentium 4は期待はずれに終わってしまうだろう。

デジタル・コンテンツ制作における性能 MP3オーディオのエンコード時間 3Dゲームの性能
Windows Media Encoder 7.0などを使ったベンチマーク・テストの結果を表したスライド。Pentium III-1GHzに対し、Pentium 4-1.5GHzは最大47%の性能向上を実現しているという。 eJay MP3 Plus 1.3を使って音楽CDをMP3フォーマットに変換するのにかかる時間を計測したもの。Pentium III-1GHzに対し、Pentium 4-1.5GHzは最大25%の性能向上を実現しているという Quake III Arenaを使って3Dゲームの描画性能を計測したもの。Pentium III-1GHzに対し、Pentium 4-1.5GHzは最大44%の性能向上を実現しているという
     
発表会で行われた次期Macromedia Shockwaveのデモ SmailBit社が開発中の3Dゲーム「Cun Varkry」のデモ SmailBit社が今回のデモ用に作成した物理シミュレーション
Pentium 4に対応した次期Shockwaveを使った釣りのゲームをデモンストレーションした。 Pentium 4のSSE2命令を使用することで、点光源や透過などの3Dグラフィックスの処理が可能になったという。 池をマウスでクリックすると波紋を計算し、描画する。波紋のリアルな動きと、光源処理などを行うのにPentium 4の能力が必要だという。

ビデオ処理のデモ ソフトウェアによるMPEG2のリアルタイム・エンコーディングのデモ
MGI社の「Video Wave 4」を使ったビデオ編集のデモンストレーション。Pentium 4なら、リアルタイムで各種エフェクト処理が可能だという。 画面右がソースのデジタル・ビデオの画像、左がその画像をMPEG2にエンコードしたもの。高画質のMPEG2画像にリアルタイムで変換可能だという。

Pentium 4の今後

 では、Pentium 4の今後の予定はどのようになっているのだろうか。まず、SDRAM対応のチップセットが2001年後半に登場する。Direct RDRAMに対し、どの程度性能が低下するか不明だが、Pentium 4システムの大幅な低価格化を実現可能にするのは間違いない。また、ほぼ同時にPentium 4-2GHz版が出荷開始されることになり、性能、システム価格の両面で魅力的なものになってくる。

 さらに、0.13μmプロセスで製造したバージョンが2001年第4四半期に出荷となる予定だ。インテルはすでに0.13μmプロセスの製造ラインができあがったと発表しており、順次0.13μmでの製造に移行する予定だ(インテルの0.13μmプロセスに関するニュースリリース)。インテルがこのように製造ラインについて発表を行う場合、すでに本格的に製造が開始可能なことを意味する。ただ当初は、モバイルPentium IIIなどをラインに流し、歩留まりの引上げを行い、その後にPentium 4の製造を開始することになるだろう。

いつPentium 4は買いになるのか?

 今回発表された0.18μmプロセスで製造されたPentium 4は、システム価格の高さや性能面での優位性が低いといったことから、Pentium Proのように一部のハイエンド・ユーザー向けといった位置付けになりそうだ。Pentium IIIからPentium 4への本格的な移行は、0.13μmプロセスで製造された、より動作クロックが高いバージョンと、メイン・メモリにSDRAMが利用可能になるチップセットの登場を待ってからとなる。

 0.13μmプロセスで製造された製品では、ソケット形状などが変更されることもあり得るため、Pentium Pro搭載システムの寿命が短かったように、今回のPentium 4システムの寿命が短くなることも十分に予想される。またPentium 4は、動作クロックが大幅に上がらないと、トータルな性能としてPentium IIIからの飛躍的な性能向上が見込めない。しばらくはPentium IIIの高クロック版が登場し続けると思われるので、Pentium 4-1.4GHz/1.5GHzでは性能がすぐに逆転されてしまう可能性もある。

 こうした状況を踏まえると、0.13μmプロセスで製造したPentium 4が登場し、システム価格もこなれてきた頃がPentium 4システムの買い時となるだろう。Pentium 4は、その頃から急速に普及が始まり、Pentium IIIからの移行が行われることになるはずだ。それは、早くても2001年後半から、ということになる。 記事の終わり

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  関連リンク
Pentium 4発表に関するリリース
Dimension 8100発表に関するリリース
VALUESTAR Mシリーズ発表に関するリリース
Pentium Pro発表に関するニュースリリース

Pentium 4の性能に関するホームページ

0.13μmプロセスに関するニュースリリース

「PC Insiderのニュース解説」


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