ニュース解説

S3がグラフィックス・カード事業からも撤退
―事業再編が進むグラフィックス業界―

小林章彦
2000/08/10

 2000年8月3日、グラフィックス・チップ・ベンダの老舗であるS3社が、2000年第2四半期の決算と同時に、ダイヤモンド マルチメディア ブランドのグラフィックス・カード事業から撤退することを発表した(S3社の決算に関するリリース)。OpenGLを対象としたハイエンド・グラフィックス・カードのFire GLラインは、独立事業部で継続して販売するということだが、事実上のグラフィックス・カード事業からの撤退宣言である。

半導体オーディオ プレイヤーの先駆けとなったRio

写真は最新機種の「Rio 600」。MP3とWindows Media Playerに対応している。価格はオープン・プライスだが、実売価格で2万円弱と予想されている。発売は2000年8月下旬から。

 今回撤退を発表したグラフィックス・カード事業は、1999年9月24日に合併したDiamnond Multimedia Systems社が行っていたものだ。同社は、Viperシリーズなどヒット作を生み、グラフィックス・カード・ベンダとして老舗といえる会社であった。S3社は、すでにグラフィックス・チップ事業についても、VIA Technologiesとの合弁会社へ移管することを発表しており(現在台湾政府の承認待ち)、これでS3社とDimamond Multimedia Systems社の両社にとって、創業以来の事業であるグラフィックス分野から完全に撤退することになる(S3社のVIA Technologiesとの合弁会社設立の遅れに関するリリース)。

 S3との合併前にDiamnond Multimedia Systems(当時はDiamond Systems)は、モデムのSupraや、半導体オーディオのRioPort、ホーム ・ネットワークのHomeFree Networks、マザーボードのMicronicsなどを次々と買収したことで、それまでのグラフィックス・カードとサウンド・カードから大幅に製品の種類を増やしていた。Micronicsの買収は結果を残すことはなかったものの、RioPortとHomeFree Networksの製品は、現在のS3社の主力事業となっている。むしろ、この2社の製品が好調であることが、グラフィックス分野からの撤退を決意させたといえるかもしれない。

競争力を失ったS3のグラフィックス事業

 NVIDIAの台頭により、S3のグラフィックス・チップは急速に競争力を失いつつある。現在のグラフィックス・カードのほとんどが、NVIDIAのRIVA TNT2またはGeForceシリーズを搭載している。S3のSavage 2000では、性能面でGeForceに対抗することは難しい。かろうじて、ATI Technologiesの新チップ「RADEON(ラディオン)」が健闘している程度で、圧倒的にNVIDIAが有利な戦いを進めている。ATIはグラフィックス・チップを外販していないため、S3(Diamond Multimedia)はこれを使うことはできない。また、NVIDIAのGeForceシリーズを採用したのでは、コスト面で台湾ベンダにかなわないし、他社との差別化も難しい。つまり、ハイエンドのグラフィックス・カード市場において、もはやS3(Diamond Multimedia)が生き残る道は残されていないのだ。

 同様にS3社が比較的強かったローエンド・クラスでも、Intel 810815などのようにチップセットにグラフィックス機能が内蔵されるようになったため、以前ほど需要がなくなっている。

 VIA Technologiesとの合弁会社にグラフィックス・チップ事業を移管することにしたのも、チップセットに近い立場でグラフィックス・チップの開発を行い、Intelに対抗するためだ。なお、S3とVIA Technologiesとの合弁会社になっているのは、S3がIntelとの広範囲なクロス・ライセンスを結んでいるためだ(クロス・ライセンスのもとになった特許は、PowerPCチップを開発していたExponential TechnologyからS3が買収したもの)。合弁会社にするのは、Intelとの特許問題をかわすのが目的で、VIA Technologiesによる事実上のS3のグラフィックス・チップ部門の買収と思われる。

VIA TechnologiesとS3との提携で開発された「VIA ProSavage PM133」

VIA Apollo Pro133AチップセットをベースにS3のSavage4のグラフィックス・エンジンを統合し、1チップ化したもの。2000年6月2日にVIA Technologiesから発表されている(VIA TechnologiesのVIA ProSavage PM133に関するリリース)。

 このように、もはやグラフィックス・チップ/カード分野において、S3社は急速に競争力を失いつつある。もちろん、社運を賭けてこの分野に集中して投資すれば、NVIDIAやATI Technologiesを抜くことが可能かもしれないが、それよりも現在好調な分野へ経営資源を集中することを選んだわけだ。

 Transmeta(トランスメタ)社とインターネット・アプライアンス機器に関する提携を行ったのも、今後の成長分野への資源集中の現れといえるだろう(S3のTransmetaとの提携に関するリリース)。こうした動きは、企業戦略として十分納得がいくものなのだが、S3のチップを搭載したグラフィックス・アクセラレータというものを初めて体感したときの感動を思うと残念でならない。ひとつの時代の終焉なのかもしれない。

 なお、日本国内については、現在の日本エス・スリー株式会社を新たにVIA Technologiesとの合弁でできるグラフィックス・チップの新会社の日本法人に、現在の株式会社ダイヤモンド・マルチメディア・システムズを米国S3社の日本法人に変更し、それに合わせて、それぞれ社名変更などを行う予定ということだ。

 S3のこの戦略が成功するかどうかは分からないが、グラフィックス分野からの撤退はやむを得ない選択だろう。残るグラフィックス・チップ・ベンダの3dfxMatroxはどのような道を選択するのだろうか。記事の終わり

  関連記事(PC INSIDER内)
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  関連リンク
S3社の決算に関するニュース・リリース
VIA Technologiesとの合弁会社設立の遅れに関するニュース・リリース
ProSavage PM133チップセットに関するニュース・リリース
Linuxベースのインターネット機器を市場に投入するためにTransmetaと提携することに関するニュース・リリース

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