ニュース解説

泥沼へ向かうIntelとVIA Technologiesの特許争い

小林章彦
2001/09/29

 2001年9月上旬、IntelはPentium 4に関する5件の特許侵害でVIA Technologiesを米国デラウエア州裁判所に提訴した。9月10日には、逆にVIA Technologiesが、Intelを特許侵害と不当競争防止法違反で台湾と米国の裁判所に提訴し、お互いを特許侵害で提訴し合うことになった(VIA Technologiesの「Intelを特許侵害と不当競争防止法違反で提訴したことに関するニュースリリース」)。さらに9月20日には、VIA Technologiesが米テキサス州オースチンの連邦裁判所に、同社の子会社であるCentaur Technologyが持つ、特許(特許番号:6,253,311)をIntelのPentium 4が侵害していると訴えている(VIA Technologiesの「Pentium 4の特許侵害に関するニュースリリース」)。この特許は、「異なるフォーマットの数値データをマイクロプロセッサに保存する技術」に関するものであるという。

今回の特許争いの引き金になったVIA Technologiesの「Apollo P4X266」
Apollo P4X266は、Pentium III用チップセット「Apollo Pro266」のPentium 4版ともいえるもの。DDR SDRAMに対応した初のPentium 4用チップセットである。

 この提訴を受けて、9月26日にはIntelがドイツ、香港、米国において、VIA Technologiesを「Apollo P4X266」と「VIA C3」の特許侵害で追提訴している(Intelの「VIA Technologiesの特許侵害に関するニュースリリース」)。Intelは、こうした提訴に関してニュースリリースを出すことは少なく、通常は和解や勝訴など決着がついた状態を明らかにするだけだ。「特許侵害で提訴を行った」というニュースリリースを出したのは、1997年のDECに対してくらいしか記憶にない。それほどVIA Technologiesとのライセンス問題は、根深いものなのかもしれない。

VIAがライセンスを取得せずに見切り出荷した理由

 こうした特許のライセンス問題は、VIA TechnologiesがPentium 4用チップセット「VIA Apollo P4X266」を発表した時点で、すでに予想されていたことであり、それほど驚くべきことではない。「ニュース解説:Intelと共にPentium 4へシフトするチップセット・ベンダ」でも述べているように、VIA TechnologiesはPentium 4のバス(FSBなど)に関わる特許のライセンスをIntelから取得していない。Apollo P4X266のニュースリリースでは、「Apollo P4X266は、S3 Graphics社で製造している」と述べ、Intelとクロスライセンスを結んでいるS3社(現 SONICblue社)との合弁会社であるS3 Graphics社で製造しているため特許侵害にあたらない、というニュアンスであった。もちろん、こうした「言い訳」がIntelに対して効くわけはなく、予想通りの提訴に至ってしまった。

 逆にVIA TechnologiesがIntelを提訴したのは、Intel 845がVIA Technologiesの特許を侵害しているというもの。特許が侵害されているかどうかは、裁判の結果を待つ必要があるが、多分にIntelとの和解交渉を有利に働かせたいという思惑があることは想像に難くない。

 こうしたIntelとVIA Technologiesのライセンスに絡む争いは、何も今回が初めてではない。以前、VIA TechnologiesはPentium IIのチップセット「VIA Apollo Pro」を出荷する際にも、プロセッサを装着するスロット「Slot 1」のライセンスをIntelから取得せずに製品化を行っている(その後、Intelと和解)。最近では、Pentium IIIシステムのメモリ・バスを133MHz化するチップセットをVIA Technologiesがリリースした際、Intelがクロスライセンス違反で提訴、その後に和解している(Intelの「VIA Technologiesとの和解についてのニュースリリース」)。和解の条件については、明らかにされていないが、P5(Pentium系)ならびにP6(Pentium III系)に限定されたものであったようだ。その和解成立が1年前のことであり、Intelもこうした確信犯的ともいえるVIA Technologiesの態度に堪忍袋の緒が切れたというところなのかもしれない。

 逆にいえば、なぜVIA TechnologiesはIntelに提訴される危険性を犯してまで、ライセンスを取得せずにApollo P4X266の出荷を開始したのだろうか。もちろん、ニュースリリースの額面どおり、Intelの特許を侵害するものではないとVIA Technologies自身が思っているということもあるかもしれない。しかし、SiSやALi、ATI Technologiesといったチップセット・ベンダが次々とPentium 4に関するライセンスを取得する中、ライセンス問題で何度ももめているVIA Technologiesが取得しないで済むと同社が考えているとは思えない。むしろ、VIA Technologiesの「Intelに対するVIAの反証」のニュースリリースにある「Intel should recognize the fact that the P4X266 will provide Intel's Pentium 4 processor with a significant boost in the marketplace.(P4X266がPentium 4の市場での立ち上がりを加速させるものであることを、Intelは認識すべきである)」というVIA Technologiesのマーケティング・ディレクタ、リチャード・ブラウン(Richard Brown)氏のコメントに本音が見え隠れしている気がする。つまり、「Apollo P4X266はPentium 4に対してもメリットがあるのだから、高いライセンス料を請求するな」という風に聞こえるのだ。

なぜIntelはVIAにライセンスを提供しないのか

 Intelにしてみれば、VIA TechnologiesはIntelに次ぐチップセット・ベンダであり、チップセット・ビジネスの面では最大のライバルである。IntelがDirect RDRAMをサポートしたPentium III向けチップセット「Intel 820」の出荷に事実上失敗したことで、Intel 815チップセットがリリースされるまでの1999年末から2000年前半までは、VIA Technologiesがチップセット市場でIntelよりも高いシェアを確保していたほどだ。またVIA Technologiesは、プロセッサ・ベンダのCyrixとCentaur Technologyを相次いで買収し、x86互換プロセッサ市場に参入している。つまり、プロセッサ市場においても直接のライバルであるわけだ。そうしたライバル・ベンダに好条件でライセンスを提供するというのはあり得ないし、本音から言えばライセンス自体を与えたくないに違いない。こうした両社の態度から、ライセンス提供に関する話し合い自体がまともに行われなかったことも想像に難くない。

 そうした中、IntelはPentium IIIからPentium 4への移行をこれまでになく強く推進しており、遅かれ早かれPentium IIIのチップセット市場が縮小することが明らかな状態にある。VIA Technologiesとしては、早期にPentium 4市場に参入し、シェアを確保したいと考えるのは当然のこと。ライセンス提供の話し合いに応じないのならば、話し合いに応じざるを得ない状況に持ち込むのが手っ取り早いと考えてもおかしくない。前回のPentium III向けチップセットに関する裁判では最終的に和解となり、話し合いで解決できたことに味をしめた、ということでもないだろうが、最悪でも和解で解決できると考えているのは間違いない。そうでなければ、裁判で敗訴して、Pentium 4用チップセットの出荷ができなくなるような賭けに出るようなことはないだろう。もちろんVIA Technologiesとしては、「Intelが独占的な立場を利用してライセンスの提供を拒否していること」と、「Intel 845がVIA Technologiesの持つ特許を侵害していること」の2点で、裁判を勝訴に持ち込みたいと考えているのは間違いない。

 ただ、こうした戦略が正しいのかどうかは、判断が難しいところである。こうした裁判は、決着するまでに1年近くかかることが多い。その間、Apollo P4X266を採用したマザーボードやPCを出荷すると、この裁判に巻き込まれてしまう危険性があるため、多くのマザーボード・ベンダやPCベンダは採用を見送ることになる。いくら「裁判で勝訴できる」とVIA Technologiesが主張しても、多くのベンダはIntelを敵に回してまでも、Apollo P4X266を採用したいというほどではないはずだ。実際、Apollo P4X266自体の評価は高いものの、大手マザーボード・ベンダで採用した製品は未だ市場には現れていない(一部のマザーボード・ベンダがApollo P4X266を採用したマザーボードの出荷を始めてはいるが)。つまり、Apollo P4X266を出荷した意味がないわけだ。

 今後裁判がどのように進展するかは状況を見守るしかないが、VIA Technologiesのライセンス違反(とIntelは考えている)は常習化しているだけに、Intelも今回は和解ではなく、裁判での決着を選択するかもしれない。そうなった場合、裁判の勝敗に関係なく、裁判が継続している限り、VIA TechnologiesのPentium 4用チップセットは宙に浮いてしまうことになる。ライセンスを取得したSiSが、順調にPentium 4用チップセットを立ち上げ始めており、もし最終的にVIA Technologiesが裁判に勝っても、シェアの確保は難しいかもしれない。苦渋の選択だったのかもしれないが、やはり正攻法でライセンス取得の道を選んだ方が得策だったのではないかと感じる。もしかしたら、VIA Technologiesは裁判を一気に解決する何か隠し球を持っていて、一発逆転が可能なのだろうか?記事の終わり

  関連記事(PC Insider内) 
Intelと共にPentium 4へシフトするチップセット・ベンダ

  関連リンク 
Intelを特許侵害と不当競争防止法違反で提訴したことに関するニュースリリースENGLISH
Pentium 4の特許侵害に関するニュースリリースENGLISH
VIA Technologiesの特許侵害に関するニュースリリース
VIA Technologiesとの和解についてのニュースリリース
Intelに対するVIAの反証についてのニュースリリースENGLISH
 
「PC Insiderのニュース解説」


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