元麻布春男の視点
OP i.LINKの道はいつか来た道


元麻布春男
2001/04/06

 2001年3月末に開催されたWinHEC(Microsoftが主催するハードウェア技術者のためのカンファレンス)は、Intelのプレゼンスが極めて薄いという点で、かなり特徴的なカンファレンスだった。技術セッションでIntelの影が薄いということは、これからのPCのメモリはDDR SDRAMで、I/Oインターフェイスの中心はIEEE 1394になるという印象を生み出す。その前に開かれたIDF 2001 Spring(Intelが主催するハードウェア技術者のためのカンファレンス)で、メモリの主役がDirect RDRAM、I/Oインターフェイスの中心がシリアルATAUSB 2.0だったのとは対照的だ。

IEEE 1394はPCの主流にはならない

 こうした印象がMicrosoftとIntelの不仲を表しているのかどうかは別にして(筆者はそういう印象を受けているが)、メモリがDDR SDRAM、I/OインターフェイスがIEEE 1394で決まりかというと、それほど単純な話ではない。不仲だろうと何だろうと、Intelがプロセッサのシェアでいまも70%以上を握っているのは事実だ。その意向を完全に無視することは難しい。また、メモリについては、IntelやMicrosoftといったプラットフォーム・リーダーの意向やメモリ・ベンダの意向だけでなく、経済情勢やそれに伴うメモリの市場価格を無視することはできない。というより、みんなが市場という怪物に振り回されている印象さえ受ける。

 一方、今回のWinHECでIEEE 1394が再浮上してきた印象を受けた理由は、シリアルATA/USB 2.0を推すIntelのプレゼンスが薄かったことに加え、IEEE 1394に力を入れるTexas Instruments(TI)の存在が大きい。WinHECのゴールド・スポンサーである同社は、IEEE 1394対応チップセットの大手である。もちろん、Microsoftは以前からIEEE 1394のサポートになぜか非常に積極的だった。おそらくPC以外のプラットフォームに同社製の基本ソフトウェアを展開するうえで、IEEE 1394のサポートが不可欠と考えているのだろう。

 しかし、だからといってIEEE 1394がPCにどれくらいのインパクトを与えられるかは、やはり疑問だ。1つは、ハードディスク・ベンダからIEEE 1394にネイティブ対応*1したドライブをPC向けに開発・供給するという表明がないことだ。そして、すでに市場で数多く販売されているIEEE 1394のホスト・アダプタにしても、カード上にシステムを起動するための拡張ROM BIOSを持つものはなく、ベンダ側がプライマリ・ストレージ・インターフェイス(システムを起動するハードディスクを接続するインターフェイス)に用いる意向を持っていないことは明らかである。つまり、現在市販されているIEEE 1394のホスト・アダプタは、セカンダリ・ストレージと、何よりDVビデオ・カメラを接続するためのものであり、ほかのプライマリ・ストレージ・インターフェイス(いうまでもなくATA/ATAPI)なしではPCを構成できない、というのが実情だ。また、レガシー除去の流れを考えれば、キーボードやマウスを接続するためのUSB 1.1も不可欠になる。つまり、その後継であるUSB 2.0が、IEEE 1394の代わりにPCの高速シリアル・インターフェイスの標準となる可能性が高い。どれだけWinHECで力説されようと、現時点でPCでのIEEE 1394は、ニッチなインターフェイス(ビデオ・キャプチャ・インターフェイス?)といわざるを得ない。

*1 市販されているIEEE 1394対応の外付けハードディスクは、IEEE 1394とATA(IDE)を変換するブリッジ・チップを利用してIDEハードディスクをIEEE 1394に接続している。ハードディスクに直接IEEE 1394のインターフェイスが装備されているわけではない。

IEEE 1394の新しい仕様「OP i.LINK」登場の背景

 半面、家電製品のデジタル・インターフェイスとしては、IEEE 1394が広く使われていくであろうことに疑いの余地がない。先日も、新しい物理インターフェイスとして、ソニーとシャープの2社が、OP i.LINK仕様のVer.1.0策定を発表、有償でライセンスすると発表した(ソニーのOP i.LINKの仕様Ver.1.0の策定とライセンス供与開始に関するニュースリリース)。

 OP i.LINKは、プロトコル的にはIEEE 1394a-2000に準拠しながら、物理層を一芯POF(Plastic Optical Fibre:プラスチック製の光ファイバ)を採用したインターフェイスである。既存の銅線ベースで4ピンのi.LINKと同様、電源を供給することができないため、3台以上の機器をデイジーチェーン接続するのには向かない。発光素子はLEDもしくは半導体レーザーで、100Mbits/sの伝送速度で60cm〜10mの伝送が可能だ。将来的には、400Mbits/sをサポートしたVer.2.0が策定される予定もある。コネクタとしては、携帯電話などの小型携帯機器向けのスーパー・ミニジャック型、据え置き型のAV/IT機器の前面パネルや携帯型CDプレーヤなどに適したミニジャック型、さらには据え置き型AV/IT機器の背面パネル向けのメカニカル・ロック付き、という計3種類が規定されている。

OP i.LINKのコネクタとケーブル
OP i.LINKは、ケーブルにPOF(プラスチック光ファイバ)を採用する。コネクタ・サイズは小型化されるため、携帯電話などでも利用可能になる。

 なぜ、いまごろになってOP i.LINKが登場してきたのか。どうやら狙いはコネクタの小型化と、省電力にあるようだ。早い話、携帯電話にi.LINKを採用するのに必要だったのだと思われる。筆者が想定するシナリオは、OpenMG Light(ソニーが開発した著作権管理機能を持つ音楽配信システム)に対応したサーバから、OpenMG Light対応の携帯電話で、著作権保護された形での音楽配信を受け、必要に応じてそれをMDなどに保存するというもの。携帯電話側での1次的なストレージとしては、まずはメモリースティックが利用されるハズだが、媒体のメディア単価を考えれば、長期的な保存には向かない。必要に応じてメディア単価の安いMDに保存し、必要なときに再び携帯電話側(のメモリースティック)にダウンロードする、という方法を取らざるを得ないだろう。もちろん、コーデックはMDLPにも採用されたATRAC3が最有力だ。ここにPalmベースのPDA(CLIE)やZaurusが加わるというのも、極めて有望だと思われる。

 現時点で大半のMDレコーダがサポートしているのはS/PDIF(ソニーとPhilipsが開発した音声データ用デジタル・インターフェイス規格)だが、基本的にS/PDIFには、

  • 一方向のデータ転送しかできない(入出力には2本のケーブルが必要になる)
  • コマンドが送れない(現状ではコマンドを送るためにLANCやUSBを併用する)
  • コンテンツ保護の仕組みがない

といった欠点がある。OP i.LINKなら1本のケーブル(ということは1つのコネクタ)で、上記の問題をすべてクリアできる。

OP i.LINKはS/PDIFの「過ち」を繰り返すのか

 というわけで、OP i.LINKでIEEE 1394の用途が広がり素晴らしい、というのがメーカーの意向なのかもしれないが、PC畑(?)の筆者はこれを素直に受け止められない。その最大の理由は、現行のIEEE 1394あるいはi.LINKとの互換性だ。プロトコル的に互換であることを考えれば、コンバータ・ボックスを作ることは可能だろうが、決して無料ではない。「今」販売されているDVビデオ・カメラやVAIOのユーザーは、将来コンバータ・ボックスを買わなければならなくなるだろう。

 もちろん、これが技術的な進歩に伴う必然的なものなら、ユーザーが痛みを被るのもある程度仕方がない。だが、過去に同じような問題があったことを考えれば、防げた痛みなのではないか、と思えてならないのである。それは2種類のS/PDIFの存在だ。すでにS/PDIFで、光と同軸、2種類の物理層が混在するという過ちが犯されたというのに、i.LINKでも同じ轍を踏んでしまった、というのが筆者の率直な気持ちである。将来にわたっての継続性と互換性を重視するPCと、発売された時点での相互接続性の保証が重視される家電では、かなりメンタリティが違うのだと痛感させられる。記事の終わり

  関連リンク
OP i.LINKの仕様Ver.1.0の策定とライセンス供与開始に関するニュースリリース
 
「元麻布春男の視点」

 



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