プロダクト・レビュー
光を使った無線LANシステム「VIPSLAN-E」 渡邉利和 |
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無線LANというと、最近製品が次々と発売されている2.4GHz帯の電波を利用したIEEE 802.11b規格がまず思い浮かぶだろう(プロダクト・レビュー:手ごろになった無線LANキット「airDirect Starter Kit」) 。無線=電波、というイメージがあるのはよく分かるのだが、実際には無線=Wirelessであり、ケーブルを使用しない通信手段は電波以外にもいくつかある。日本ビクターの「高速光無線LANシステム VIPSLAN-E」は、名称にあるとおり赤外線を用いた光無線システムである。シリーズの中にはビル間接続などの用途に対向で使用する100Mbits/s対応のVIPSLAN-100(OA-N300)というハイエンド製品も含まれるが、今回は10Mbits/s対応のW-COILシリーズ(アクセス・ポイント)とM-MOILシリーズ(クライアント・ノード)についてみていこう。 光無線LANシステムとIEEE 802.11bはワイヤレスという点では共通しているが、実運用上はかなりの差がある。そこで、全般的な特徴をまず紹介しておこう。まず、光は非常に直進性が高いため、トランシーバ間が完全に見通せるように設置する必要がある。この点は、薄い壁で仕切られている程度ならば、問題なく通信できるIEEE 802.11bシステムに比べて少々脆弱といえる。そのためもあり、「自由に持ち歩いてどこででも通信」という用途にはあまり向かない。一方、転送性能は一般によい。電波を利用するシステムは、ノイズなどの外部環境からの影響を受けやすいことや、プロトコルのオーバーヘッドの問題もあり、規格上の最大転送速度に比べて実効転送速度は半分以下になってしまうことがある。IEEE 802.11bは、最大転送速度11Mbits/sという規格だが、実効スループットは4Mbits/s程度となっている。また、赤外線は電波に比べて精密電子機器などへの有害な作用が少ない点も有利だ。工場や病院など、電波の利用に制約がある環境では、このことは大きな意味を持つだろう。 では、こうした一般論を踏まえたうえで、具体的な製品の特徴を紹介しよう。 VIPSLAN-Eの特徴ここでは、オフィスなどの一般的な環境での利用を想定したM-MOIL/W-COILの両シリーズを取り上げよう。 M-MOILシリーズは、クライアント・ノードとして利用されることが主となるユニットで、M-MOILとM-MOIL CARDの2種類が用意されている。両者とも受光ユニットは同じであるが、PCとのインターフェイスに異なる仕様を採用している。 M-MOILは、10BASE-Tコネクタを備え、通常のネットワーク・ケーブルを利用して接続する。10BASE-T接続であるため、クライアントPC側にイーサネット・カードが必要となるが、機種やOSを問わず何でも接続できる。10BASE-Tがありさえすればコンピュータである必要もなく、用途によってはハブやスイッチに直接M-MOILを接続して利用することも可能だろう。この点、M-MOILは柔軟性が高いデバイスとなっている。ただし、外部電源アダプタを必要とする点は少々面倒である。 一方のM-MOIL CARDは、PCカードを介してコンピュータと接続するようになっている。なお、M-MOILは外部電源アダプタを使用するが、M-MOIL CARDはPCカードから給電するため、外部電源は不要だ。M-MOIL CARDは16bit PCカード接続のため、接続相手はPCカード・スロットを備えたノートPCが対象となる。提供されるドライバは、Windows 95/98/NTに対応したものなので、それ以外のコンピュータで利用するのは困難だ。 W-COILシリーズは、M-MOILシリーズの接続相手(アクセス・ポイント)となるモジュールで、イーサネット・ネットワークに例えるとハブに相当し、複数台のM-MOILとの通信が可能だ。天井据え付けタイプのS-COILと壁掛けタイプのW-COILの2種類が用意されており、違いは外形形状と受光部の指向角(S-COILは360度、W-COILは150度)である。今回はW-COILのみを試用したが、電源内蔵で重量は2.1kgもあるため、しっかり据え付けないと落下する可能性があり危険だ。なお、インターフェイスはいずれも10BASE-Tを使用する。 M-MOIL/W-COILの特徴は、TCP/IPデバイスではない点だ。どちらも10BASE-T接続が基本となるが、IPアドレスなどを割り当てる必要はない。ネットワーク的な観点からはハブやスイッチと同様、純粋にケーブリングのためだけに存在するデバイスであるといえる。むしろ、M-MOIL/W-COILは論理的なネットワーク・ケーブルを構成するものだといった方がよいかもしれない。論理的には、M-MOIL−(赤外線リンク)−W-COILの全体で、1本のネットワーク・ケーブルと同等である。このため、ネットワーク構築上の制約は極めて少ない。一般的な構成では、M-MOILをクライアントPCに、W-COILをバックボーン・ネットワークにそれぞれ接続して利用することになるが、別にW-COILをホストのイーサネットに直接接続したり、M-MOILをハブと接続したりしても問題はない。1本のネットワーク・ケーブルで接続できるリンクは、W-COILとM-MOILの組み合わせによる無線リンクに任意に置き換え可能というわけだ。 動作音が気になるが転送速度はまずまずでは、実際に光無線ネットワークを作って運用してみた様子を紹介しよう。ここではW-COILとM-MOILを主に試用した。ただし、実験した環境は一般的な居住用マンションの一室であり、あまり広い場所ではない。 まず気付くのは、意外に動作音がうるさいことだ。というのも、M-MOILはユニット内部で受光部をさまざまな向きに振り動かしてW-COILを探すのだが、この受光部を動かしてサーチする際のモーター音が結構耳障りに感じられるのだ。この音は、M-MOILとの接続が確立すると鳴りやむが、これは逆にいうと接続できる向きを決めて受光部を固定してしまうという意味でもある(数十秒程度)。そのため、M-MOILの向きをちょっと変えてしまうと、再度サーチをやり直すことになる。やはり、しょっちゅう移動しながら使うような場面には向かず、基本的にはユニットの位置を固定した状態で使うべきだろう。 また、直視できる状態であれば簡単に接続できるかというと、そうでもない。W-COILとM-MOILの位置関係やユニットの向きなどに結構影響を受けるようで、駄目なときはいつまでたってもまるで接続できないということも起こった。 気になるデータ転送速度を簡単なテストで計測してみた。測定は、サーバとW-COILを100BASE-TX対応のスイッチング・ハブで接続し、クライアントのノートPCにM-MOIL CARDを接続した環境で行った。W-COILとM-MOIL間を3mほど離し、約12Mbytesの画像ファイルをftpで転送して実測した。その結果、約5.5Mbits/sというデータ転送速度が得られた。厳密な測定ではないが、同様の環境でIEEE 802.11bシステムで実験した場合は、どうやっても4Mbits/sを超える結果は得られなかったのと比べると、やや高速である。10BASE-Tの有線接続で同様の測定をすると、7M〜8Mbits/sという値が得られるので、転送速度は有線とIEEE 802.11bの中間くらい、という感じだろうか。 本製品は、電波を使わずケーブルも不要、という点が最大の魅力となる。一方IEEE 802.11bシステムのように、自由に移動しながら使うという用途には向かない。ショールームや学校の教室など、ケーブルを敷設するのを避けたい環境で、なおかつコンピュータの位置がほぼ固定されているような環境ならば、便利に使えるはずだ。また、電波を嫌う工場や病院の事務室といった環境でワイヤレス接続をしたい場合には、有力な選択肢となるだろう。M-MOILユニットが結構かさばる点と動作音が大きめな点はちょっと残念ではあるが、スループットはIEEE 802.11bよりもよいので、トラフィックが多い環境でのワイヤレス接続の際にも検討の価値があるだろう。 |
製品名 | M-MOIL | M-MOIL CARD | W-COIL |
価格 | 6万9800円 | 8万9800円 | 11万円 |
対応規格 |
IEEE802.3準拠
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データ転送速度 |
10Mbits/s
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通信相手 | COILシリーズ | COILシリーズ | MOILシリーズ |
伝送距離 |
約7m
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指向角 | − | − | 150度 |
本体サイズ | 56.8(W)×105.0(D)×61.2(H)mm | 56.8(W)×105.0(D)×61.2(H)mm | 222.0(W)×129.0(D)×185.0(H)mm |
重量 | 150g | 180g | 2.1kg |
電源 | DC5V | DC5V | AC100V |
消費電力 | 500mA(送信時) | 600mA(送信時) | 15W |
インターフェイス | 10BASE-T | PCカード・スロット | 10BASE-T |
アクセス制御方式 |
CSMA/CD
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ネットワーク・ドライバ | − | Windows 95/98/NT/2000 | − |
VIPSLAN-Eの主な仕様 |
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日本ビクター
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