セキュリティ情報マネジメント概論[前編]
SIMで企業のセキュリティを統合管理せよ
内田 千博住商エレクトロニクス株式会社
ネットワークセキュリティ事業部
セキュリティシステム第四部長
2005/7/26
最近SIMという言葉が聞かれるようになってきた。SIMとは「Security Information Management」の略で、文字どおりに訳すと「セキュリティ情報マネジメント」である。
「セキュリティ情報」を「管理」するといっても何をするものなのだろうか。設置すれば攻撃を防いでくれるファイアウォールや、攻撃は何でも検知してくれる(と思われていた)IDSが登場したときのように、新しいカテゴリの製品には誤解がつきものである。
本編では、「SIMとは何か」をテーマに、SIMが何のためのツールで、なぜ企業に必要とされているのかを見ていきたい。そこでまずはSIM登場の背景に触れる。
SIMの生い立ち |
米国では、SIMという概念はすでに数年前から登場しており、いくつもの製品が市場に出回っている。いまや数百億円という大きなマーケットになりつつある。では、どのようにSIMが誕生して、マーケットに受け入れられていったのだろうか。
いまの日本のセキュリティ業界を見渡すと、残念なことに(と思っているのは小生だけかもしれないが)ほとんどの技術セグメントで活躍しているのが、米国のベンダである。ファイアウォールや、IDS、IPSといった侵入検知/防御を目的としたソリューションをはじめ、クライアントPCのセキュリティ対策としてウイルス対策ソフトやパッチマネジメントソリューション、そしてバイオメトリクスやセキュアトークンを利用した個人認証ソリューションなど、さまざまなものが米国で登場し、日本に輸入されてきた。
米国のセキュリティベンダは企業リスクとなる問題があれば次から次へと対策ソリューションを提供してきており、米国の企業も必死にこれらのソリューションの導入を進めてきた。その結果、何が起こっただろうか。
多くのポイントソリューションを導入した企業のインフラ運用者たちは、各ベンダが提供する管理コンソールの種類の多さに戸惑い、その画面から出されるアラームなど情報のあまりの多さに、ただ呆然と立ちすくむしかなかったのである。
「ネットワーク全体で一体何が起こっているのだろう?」
まさに、「木(ログ)を見て、森(ネットワーク)を見ない」もしくは「木が多すぎて、それぞれの木すらしっかり見ることができない(いわんや森をや……)」という状態に陥ってしまった。
すでに述べたように、企業内にはさまざまな問題に対して、それぞれのセキュリティソリューションが導入されている。もちろん導入しないことには個々の問題は解決されないのだが、ここで問題となるのは「自分の会社全体でいま何が起きているのか」をどうやって把握するかということだ。
企業の経営層は、「いろいろセキュリティソリューションを導入したのだから、さぞセキュリティレベルは上がっただろう」と期待はするが、実際にどの程度かは把握できていない。毎日、各機器やアプリケーションから出される何千万、何億個という膨大なログ情報から、経営層が必要としている情報をリアルタイムに抽出できる人間はどこにいるだろうか。
この深刻な問題に対して米国企業が求めたソリューションは、すご腕の分析官ではなく、さまざまなデバイスをリアルタイムに統合管理する基盤であった。そこで登場したのがSIMである。各セキュリティソリューションの管理基盤として開発されたSIMは、企業に存在していた運用上の問題を解決し、セキュリティマネジメントという観点で重要な存在として認知されるようになっていった。
本題に入る前に、実際に企業セキュリティを統合管理するためには何が求められるかという点について見ていきたい。
1/4 |
Index | |
SIMで企業のセキュリティを統合管理せよ | |
Page1 SIMの生い立ち |
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Page2 企業や組織が求めるセキュリティ管理 |
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Page3 SIMに求められる基本機能 SIMのシステム構成 |
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Page4 SIMの種類 SIMの使われ方 |
セキュリティ情報マネジメント概論 | |
SIMで企業のセキュリティを統合管理せよ | |
セキュリティ情報マネジメントの仕組みを技術的に理解する(1) | |
セキュリティ情報マネジメントの仕組みを技術的に理解する(2) |
SIMを上手に使いこなす | |
業務中にSkypeやIMを使っているのは誰だ? | |
不審な通信や無許可ホストを見逃さない |
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