いまどきのサーババックアップ戦略入門(1)
サーババックアップ戦略を左右する基本要素
株式会社シマンテック
成田 雅和
2007/9/7
バックアップのいろいろな選択肢
以前は、バックアップというと、利用技術の選択肢は乏しかったが、最近ではさまざまな製品が登場しており、多様なRTOやRPOを実現できるようになった。こうしたバックアップの新技術や新機能について説明する。
■バックアップデータ形式:ファイルバックアップ、イメージコピー
これは、バックアップデータをどの形式で持つかについての選択肢である。
バックアップ対象がファイルシステムなら、ファイル単位のバックアップを行うことができる。ファイルサーバなどファイル形式のデータをバックアップする場合、ファイル単位でのリストアが必要となるため、ファイル単位でのバックアップを実施することになる。この場合、少数のファイルのリストアは比較的短時間で行うことができる(RTOが短くなる)が、フルリストア(バックアップ対象すべてのリストア)を行う場合には、ほかの方法より時間がかかることが多い(RTOは長くなる)。ほとんどのバックアップソフトは変更されたファイルだけをバックアップできる(「増分バックアップ」と呼ばれる)ので、その方法で数時間おきにバックアップを実施することもできる。これによりRPOを数時間にすることができる。
イメージコピーは、ディスク上のデータイメージのままコピーを行う方法である。ストレージやボリューム管理ソフトを使用してスナップショット(特定時点のデータ)イメージを作成したり、レプリケーション(複製)を作成したりする方法である。イメージコピーはバックアップ元ディスクと同じデータとなるため、リストアを行わずにデータへアクセスできるメリットがある。そのためRTOを数秒や数分にすることができる。また、変更分のみをコピーする方法でスナップショットを繰り返し実行したり、レプリケーションを常時行うことでRPOを数秒や数分にすることも可能だ。
■バックアップメディア:テープ、ディスク、VTL
バックアップメディアはテープかハードディスクが一般的な選択肢となる。MOやCD/DVDなどは記憶容量が少ないため、バックアップデータの増加により通常のバックアップ用途には向かなくなってしまった。
テープは、ビット単価は安価であるが実際のバックアップ/リストアはディスクに比べ遅い。このためRTOやRPOを数時間以下にすることは難しい。しかし、取り外し可能という機能はディスクやVTLでは実現困難なため、遠隔地データ保管が必要であれば有力な選択肢となる。
VTL(仮想テープライブラリ)はデータ記録にハードディスクを使用し、テープライブラリをシミュレーションする(あたかもテープライブラリであるかのように見せる)装置である。ハードディスクを使用するためにテープライブラリより高速なアクセスを行うことができ、また仮想的にシミュレーションを行うため、さまざまなテープ構成を模すことができることが特徴である。バックアップソフトから見るとテープライブラリと同様であるため、従来のバックアップポリシーを変更せずに利用できるというメリットもある。
バックアップメディアとしてのディスクは、テープとは異なりメディアを取り出すことができないため、遠隔地にデータを保管したい場合にはレプリケーションなど別の方法と組み合わせることになる。バックアップデータの一部をリストアする場合、データが書き込まれた位置を“頭出し”する必要があるが、ディスクではその時間がほぼ0となるため、部分的なリストアは高速に実行でき、RTOの短縮になる。バックアップソフトで通常のディスク装置をバックアップ先にする機能が利用できるようになったため、一般化してきている。バックアップポリシー全体を見直す際には最も有力な選択肢である。
■バックアップ手法:ネットワーク経由、SANクライアント、サーバ直接
小規模なシステムでは、業務サーバ上にバックアップソフトとテープドライブをインストールし、バックアップサーバ兼用とすることもできる。だが、サーバが10台以上になるようであれば、専用のバックアップサーバによる集中的なバックアップを導入することで運用に掛かる手間を削減することができる。専用バックアップサーバを使用する場合、業務用サーバのデータをどのようにアクセスするかという点でいくつかの選択肢がある。
最も一般的な方法は、業務用サーバにバックアップエージェントをインストールしTCP/IPネットワーク経由でバックアップサーバと通信する方法である。バックアップ中に業務用サーバのCPUとデータを転送するネットワークに負荷を掛けるという欠点があるが、深夜など業務負荷の低い時間帯にバックアップを行い、またバックアップ専用ネットワークを構築することでこの欠点を回避できる。業務用サーバとバックアップサーバのOSが異なってもデータのバックアップ/リストアができ、柔軟なバックアップ構成が可能な方法だ。また、データベースサーバ用エージェント、Exchangeサーバ用エージェントなどは、データベースやExchangeのサーバがオンラインのままバックアップを取得する機能もあるので柔軟なバックアップ設計をすることができる。
SANクライアントはバックアップデータをTCP/IPネットワークではなく、SAN上でやりとりする方式だ。業務サーバ、バックアップサーバがSANに接続されている場合、その接続を使用してより高速にデータを転送することができる。
イメージコピーを業務サーバあるいはストレージ機能により作成している場合、そのイメージコピーから2次バックアップを作成することができる。イメージコピーをバックアップサーバから直接アクセスしてバックアップを行うことで、業務サーバに追加の負荷を掛けないことも可能だ。RTOやRPOの短縮のためにイメージコピーを作成し、このテープバックアップを遠隔地に保管する、という使い方も可能になる。
本連載の今後の記事予定
今回は、RTOとRPOによりバックアップ要件を決める方法と、そのRTOとRPOを実現するための選択肢を紹介した。次回以降は、以下の内容で5回の連載を進めていく予定である。
第2回:バックアップ選択肢−詳細編
第3回:バックアップ新潮流
第4回:災害対策と遠隔拠点対応
第5回:応用編
第2回となる次回は、「バックアップ選択肢−詳細編」として、本記事でも紹介した多様なバックアップ手法について詳細を解説する。Disk-to-Diskバックアップや仮想テープ装置を利用した方法、アーカイブディスクの利用などについて詳細に触れていく。第3回では「バックアップ新潮流」として、無停止バックアップの手法や連続データ保護、重複データ排除などのバックアップ新技術について触れていく。第4回では「災害対策と遠隔拠点対応」として、広域災害からの復旧のためのバックアップや、遠隔拠点のリモートバックアップについて触れていく。第5回では「応用編」として、アプリケーションや特定システムに依存する話題、システムバックアップについての話題に触れていく予定である。
[用語解説]
バックアップしたデータを用い、バックアップ元のコンピュータのデータを復旧すること。従来のバックアップでは、バックアップデータを保存しやすい形式にして保存しているため、リストア作業もデータを元の形式に戻すための時間がかかっている。しかし最近広がりつつあるディスクドライブへの「レプリケーション」(複製)では、バックアップデータがバックアップ元のデータとまったく同じ形式であるため、リストアの時間は大きく短縮される。
レプリケーションとは別のコンピュータにデータを複製すること。毎回レプリケーション元のデータをすべて複製するのでは時間がかかり過ぎるので、増分のみを複製するような工夫が行われている。災害対策のためのバックアップでよく用いられる手法。同期レプリケーションと非同期レプリケーションがある。同期レプリケーションは、レプリケーション元でデータが変更されるとリアルタイムでこれをレプリケーション先に送る方法。非同期レプリケーションはデータの変更を順次レプリケーション先に送る方法。非同期レプリケーションは同期レプリケーションに比べ、RPOの点では不利だが、遠隔バックアップで用いる際には通信回線などのコストを抑えられるメリットがある。
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Index | |
サーババックアップ戦略を左右する基本要素 | |
Page1 サーババックアップにおけるいまどきの課題 |
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Page2 リストア要件からのバックアップ設計 |
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Page3 バックアップのいろいろな選択肢 本連載の今後の記事予定 |
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