FCoEプロトコル速解

連載:FCoEプロトコル速解(1)

新プロトコルFCoEはなぜ注目されるのか


ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
小今井 裕
2008/11/14

ITインフラの統合と最適化は、多くの企業にとって重要な課題となってきている。ストレージ統合に関しては、特に米国では「ストレージ・アーキテクト」と呼ばれる人々が、スペシャリストとしての立場から社内プロジェクトに深く関与するケースが増えている。日本でも「SNIA認定アーキテクト」などの資格が整備されつつあるストレージ・アーキテクトの職務内容を通じ、統合ストレージの導入プロセスを解説する

 今日のネットワーク環境と課題

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 データの増加とともに複雑化するデータセンター・インフラの整備や、増え続ける電力消費量の問題、さらには新しいビジネス要件やコンプライアンスといった企業として取り組まなければならない課題まで、昨今のデータセンターが抱える課題は多様化している。これらの課題に対して、迅速かつ柔軟に対応できるデータセンターインフラを構築するためには、サーバ仮想化によるサーバ統合をはじめ、ストレージ統合やマルチプロトコル対応プラットフォームの導入などによるデータセンターリソースの集約と統合が、有効な手段として考えられる。そして、データセンターリソースの集約・統合により、データセンター・インフラや管理を簡素化し、サーバが搭載するネットワークインターフェイスを統合しようという動きが出てきている。

 現在のサーバ間通信の状況を見てみよう。データセンターネットワークの一部であるサーバ―ストレージ間通信、仮想サーバ環境やデータベースのクラスタ環境などで使用されるサーバ―サーバ間通信においては、用途の多様化やトラフィックの増加などにより、これまで以上に信頼性の高い広帯域なネットワークが必要とされてきており、それと共に、ネットワーク管理の複雑性も増している。

 例えば、現状サービスプロバイダで提供されているSANに接続されたアプリケーションサーバなどでは、サービス用のNIC、管理用のNICに加えてファイバチャネルHBAが必要となる。つまり、冗長化までを考慮すると最低でも6つのインターフェイスが搭載され、6本のケーブルが配線されていることになる。しかし、サーバに搭載される物理ネットワークインターフェイス(イーサネット、ファイバチャネル、InfiniBandなど)が統合されれば、インターフェイスの数が削減でき、ケーブル数や購入コストの削減、管理負荷や管理コストの削減、さらには消費電力の削減も可能となる。

 ネットワークインターフェイスの統合がもたらすメリットのもう1つの側面としては、より多くのアプリケーションサーバに共有ストレージ環境のメリットを提供できることが挙げられる。あるデータによると、現在、全サーバのうち共有ストレージ環境に接続されているのはわずか20%といわれている。 1Uのサーバなどでは、スロット数の制限や価格の面でファイバチャネルHBAが搭載できない場合も多い。ネットワークインターフェイスが統合されることにより、これら共有ストレージ環境に接続されていないサーバに対して、データ保護やデータセキュリティ確保を行い、さらには企業のデータを一元管理できるなど、データを共有ストレージ環境に集約することのメリットを提供できる。

 このように、ネットワークインターフェイスの統合にはさまざまなメリットがあるが、実現のためにはさまざまなハードルがある。そして、この実現に向けて登場してきた新しい技術がFCoE(Fibre Channel over Ethernet)やCEE(Converged Enhanced Ethernet)だ。

 新しいプロトコル「FCoE」ってなに?

 FCoEとは、簡単にいうと「イーサネットの上にファイバチャネルを通す」プロトコルであり、現在ファイバチャネルの標準化を行っている標準化団体ANSI T11で標準化が進められている。FCoEはiSCSIのようにTCP/IPを介して既存のイーサネット上にそのままマッピングできるプロトコルではなく、CEE(Converged Enhanced Ethernet)と呼ばれる新しいイーサネットが必要となる。つまり、厳密には「FC over CEE」というのが正しい。CEEはファイバチャネルで保障している信頼性の高いデータ転送を10Gイーサネットで実現するための、新しいロスレス・イーサネットの技術なのだ。

 また、イーサネットの上位レイヤであるTCPにSCSIプロトコルをマッピングする「iSCSI」に対し、FCoEではTCP/IPレイヤは必要なく、CEEの上にいままでのFCプロトコルのFC-2以上を直接マッピングする(図1)。「FCoE」という言葉はCEE上にFCを通す仕組みとして使用されるが、プロトコルスタック的には、FCフレームをCEEパケットにカプセル化する層がFCoEとなる。

図1 FCoEはCEEとファイバチャネルの間に入る層

 FC-2以上は既存のFCプロトコルスタックを使用するため、サーバ―ストレージ間のアクセス制御(ゾーニング)などはそのまま利用でき、FC-SANの既存管理フレームワークを維持できる点は大きな特徴である。しかし、現状FCoEではiSCSIのように、FCoEのみでのエンド・ツー・エンドでの実装はほとんど見られない。というのは、一般的なストレージ側の対応がまだ先になると予想されているからで、当面はFCoEから既存FC SANへの接続を提供するブリッジが介在する構成を取ることになる(図2)。

図2 サーバ側ではストレージおよびネットワークの通信を一本化できる。ストレージ側は当面従来型のファイバチャネルの利用が主流

 実際のFCフレームとイーサネット・フレームのマッピングは「ENode」内の「FCM」により行われる。ここで、ENode、FCMとは次のような意味である。

FCoE Node (ENode):
イーサネットノードにFCMを搭載し、FCノードとして機能するノード。CEEのインターフェイスを持ちファイバチャネルノードとして振舞うことが可能なイーサネットアダプタ(CNA: Converged Network Adapter)などがこれにあたる。

FCoE Mapper(FCM):
ファイバチャネルフレームをイーサネット・フレームにカプセル化/非カプセル化を行う機能(図3)。

図3 FCoE Mapper

 FCフレームの最大ペイロードは2112bytesで、イーサネットと比較すると大きく、イーサネット・フレームへのマッピングは1対1で行われるため、イーサネットジャンボフレームが必須となる。ヘッダ部を含むFCフレームすべてがイーサネット・フレームにカプセル化され、イーサネット・フレームのヘッダ部にある “EtherType”のフィールドにはFCoEのタイプを示す0x8906が使用される。また、FCoEの初期化に使用される制御フレームには、”EtherType”としてFIP(FCoE Initialization Protocol)を示す0x8914が使用される。

 実際の通信においては、イーサネットであるためMACアドレスをもとにフレームの転送が行われるが、MACアドレスとしてはデバイスが元々持っているアドレスを使用するか、動的に割り当てられるアドレスを使用することができる。ダイナミックなMACアドレスの割り当てには、Fabric Provided MAC Address(FPMA)とServer Provided MAC Address(SPMA)の2つの方式がある。ファイバチャネルではファブリック(スイッチ)がアドレスを決めるという実装がされている。FPMAは、ファイバチャネルの実装と同様にファブリック(スイッチ)がMACアドレスを決める方式である。一方SPMAは、いままでと同様にサーバ側でMACアドレスの管理を可能にするために、サーバがMACアドレスを決める方式である。

 
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Index
新プロトコルFCoEはなぜ注目されるのか
Page1
今日のネットワーク環境と課題
新しいプロトコル「FCoE」ってなに?
  Page2
ところで「FC」ってどんな技術?

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