IT Market Trend

第17回 エンタープライズLinuxは浮上するか?

ガートナー ジャパン株式会社
データクエスト アナリスト部門
エンタープライズ・システム担当シニアアナリスト

亦賀忠明
2002/11/30


ITバブルの崩壊とともに影を潜めたかに見えたLinuxであるが、ここへ来てLinuxをめぐる話題が再び活発になっている。本稿では、この現状についてまとめるとともに、特に基幹システム向けLinux「エンタープライズLinux」市場の今後を展望する。

昨今のLinuxをめぐる話題とは

 これまで、Linuxに対する強いコミットメントを表明していたベンダは、IBMだけだったといってもいい。しかし、昨今この状況は変わりつつある。例えば、2002年9月にSun MicrosystemsがIA/Linuxサーバの投入を開始し、10月には富士通が大規模基幹システムへの適用を目指すと発表するなど、サーバ・ベンダがLinuxへのコミットメントを始めている(富士通の「Linuxによる事業展開に関するニュースリリース」)。新生Hewlett-PackardやDell Computerも明確さには欠けるが、それぞれLinuxに対するコミットメントを強めている。またアプリケーション分野においても、Linux対応製品が増えつつある。特にOracleはIA/Linuxへのコミットメントを強めており、今後積極的な製品展開が期待される。一方、再編が進むLinuxディストリビュータにも動きが見える。例えば、Linuxディストリビュータ4社から構成される業界団体であるUnitedLinuxが、初の共同成果となる「UnitedLinux 1.0」を11月19日に発表している(ターボリナックスの「UnitedLinux 1.0の提供に関するニュースリリース」)。

 こうした動きを反映したものか、日本政府も主にセキュリティの観点から、電子政府の基盤OSとしてLinuxを含むオープンソース・ソフウェアの現状と将来展望を調査研究する、と前向きな動きを見せている。

*1 総務省が2002年8月29日に発表した「平成15年度版 IT政策大綱」の「14-2. セキュリティ・プライバシー保護対策の推進」において、「平成15年度予算要求において、ネットワーク・セキュリティを確保する観点からのオープンソースソフトを含めたソフト機能等の現状と将来展望について調査研究を実施するための予算要求を行う」としており、Linuxを電子政府/自治体のOSとして採用することに含みを持たせている。

 米国では大学や研究機関を中心にLinuxによるシステム構築が増えてきている。例えば、HPが受注した米国エネルギー省のパシフィック・ノースウェスト国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory)やライス大学(Rice University)、オハイオ・スーパーコンピュータ・センター(Ohio Supercomputer Center)などが、Itanium 2とLinuxによるシステム構築を予定している。日本HPによれば、「大学や研究機関では、HP-UXよりもLinuxによるシステム構築が主流になりつつある」という。Linuxは、グリッド・コンピューティングや多ノード・クラスタ・システムといった新たなプラットフォーム基盤の主要OSとしても考えられており、これら研究機関などのシステム構築に向いているという側面があるからかもしれない。

 また、今後の成長が期待されるブレード・サーバでも、Linuxが主流になる可能性が高い。現在、ブレード・サーバとLinuxの組み合わせは、フロントエンド・サーバ(Webサーバ)群が低価格で構築できることに注目が集まっているが、今後はグリッド・コンピューティングを利用した計算サーバなどの応用も考えられているからだ。

Linuxは着実にユーザーに浸透

 では、Linuxはどのくらいユーザーに浸透しているのだろうか。結論からいえば、Linuxは着実にユーザーに浸透しつつある。ガートナー ジャパンが2002年8月に日本国内で行った調査によると、Linuxを「導入済み」と答えた割合は全体の27%となり、一年前の17%から大きく拡大した。また「導入コストが小さい」ことをLinux導入の理由とする割合は導入済み/導入予定者の78%にも上った。このことから、コスト意識がさらに強まっている昨今、Linuxが再びユーザーの支持を集めていると考えられる。

 一方、ベンダはLinuxを自社の競争優位性の視点から捉えている。IBM、Sun Microsystems、OracleのLinuxへの傾倒は、これらのベンダがもはや商用UNIXだけでは市場機会の拡大が難しいと判断した結果とみられる。このほかのほとんどのIAサーバ・ベンダも、IA/Windowsだけでは差別化やビジネスの拡大が難しいと考えているようだ。総じて、Linuxで市場を揺さぶることで、新たなビジネス・チャンスが生まれるという期待が各ベンダにはあるようだ。

LinuxはMicrosoftにとっても必要である

 Microsoftの独占状態に閉塞感や危機感を感じている多くの人々がLinux支持に回っていることも、引き続き見受けられる状況である。このようなLinuxを取り巻く気運の高まりに対し、確かにMicrosoftは神経をとがらせている。しかしながらその半面、MicrosoftにはLinuxの再浮上を歓迎しているフシもある。Microsoftは、これまで一定の目標を攻略することで事業拡大を続けてきた。このような観点から考えれば、今後のMicrosoftの成長にとって、ライバルの存在はやはり必要なのである。Linuxが強くなればなるほど、Microsoftも戦略の方向性を見出しやすくなるからだ。

Linuxの将来は「明るい」

 これらのトレンドを総合し考えた場合、Linuxの将来は「暗い」というより、むしろ「明るい」といって良いだろう。アプリケーションの品ぞろえ、ベンダ・サポート、スキル、実績といった観点で課題のあるLinuxであるが、Linuxが登場しすでにそれなりの時間が経過していること、さらに昨今の市場での期待も加わり、これらの課題は次第に解決の方向に向かいつつある。

 ガートナーでは、Linuxは将来的に最も成長するOSであると考えており、日本国内のサーバ市場におけるLinuxの台数シェアは2006年に18%まで拡大すると予測している。これまで、ベンダのLinuxへの取り組みは、「時流に任せる」的な、どちらかといえば消極的なものであった。しかし、ITプラットフォームが次世代へ向けた革新期に入りつつある現在、各ベンダは、新たなプラットフォーム基盤として、また将来的な優位性を確保するための武器としてLinuxを担ぎ始めている。

日本国内サーバ市場OSシェア予測(出荷台数)
出典:ガートナー データクエスト(2002年11月)

 仮に上記の成長シナリオが崩れるとするならば、それはベンダやインテグレータが短期的な収益源として、近視眼的にLinuxをとらえ行動したときだろう。つまり、現在Linuxをめぐる議論は、単にWindowsの対抗勢力が登場したという次元をすでに超え、ポリシーベース・コンピューティング・サービス (Policy-Based Computing Service:PBCS)*2 といった新たなプラットフォームを構築するのに最適なOSは何か、またそのときにベンダがこれまでの競争関係をどう再構築できるか、といった将来へ向けた戦略的なものに変化している。それを単にLinuxビジネスによる儲け、という画一的な視点で捉えるならば、それほどの成長は期待できない、というのが筆者の見方である。

*2 ガートナーが提唱する次世代のコンピュータ・システム。PBCSでは、システムが自己管理や自己修復機能を持ち、業務ルールに基づくポリシーに従って、自己チューニングや資源再配置を行う。Sun MicrosystemsのN1やIBMのAutonomic Computing Initiative(「Project eLiza」と呼ばれていたもの)などと同様のコンセプトである。

 確かに、このような行動をベンダがとる可能性は、昨今の景況感における現実的アプローチという側面で考えた場合、まったくないとはいい切れない。ここは今後どのベンダが神輿担ぎの先頭に立てるか、Linuxが真の意味でWindowsの脅威となるかどうか、さらにLinuxを底辺とする次世代のエンタープライズ・プラットフォームが登場するか、あらためて注目しておく必要があるのは間違いないだろう。記事の終わり

  関連リンク 
Linuxによる事業展開に関するニュースリリース
UnitedLinux 1.0の提供に関するニュースリリース
平成15年度版 IT政策大綱PDF
 
 
     
 
「連載:IT Market Trend」


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