IT Market Trend

第18回 日本国内のパソコン市場における2003年の課題とリスク

ガートナージャパン株式会社
データクエスト コンピュータシステム産業分析部
パーソナルコンピュータ

蒔田佳苗
2003/01/18


ガートナー データクエストでは、日本国内のパソコン市場2002年第3四半期(7〜9月期)の出荷実績を加味した2002年ならびに2003年以降のパソコン市場の修正予測を2002年12月に発表した。今回の予測では、2002年の日本国内のパソコン出荷台数を対前年成長率で10.2%減になるとしている。また、2003年の同成長率は3.2%増と、2003年以降についても前回の予測値(17.1%増)に対して大幅な下方修正を行った。この下方修正の主な要因として、景気の鈍化・下降傾向ならびに、パソコン市場における買い替え促進策・需要活性化策の欠如によるユーザーの買い替えの延期傾向などがある。その一方で、Tablet PCやホーム・サーバなどの新しい用途を持った製品も登場しており、一部ではこれらの製品が市場の活性化につながることを期待している。ここでは、こうした要因を検討し、2003年のパソコン市場動向について展望していく。

2002年の日本国内パソコン市場の現状

 ガートナー データクエストの調査結果によると、2002年第3四半期の日本国内におけるパソコン市場全体の出荷台数は、対前年成長率で3.9%減となった。2002年第2四半期の同成長率は13.1%減と2けたマイナスであったので、それと比較すると改善しているように思える。だが、ここで2001年第3四半期がWindows XP出荷開始に向けて、PCベンダの多くが在庫調整を行い、出荷台数を大きく絞っていたことを考慮する必要がある。つまり2001年第3四半期の出荷台数は、PCベンダによって意図的に低く抑えられていたわけだ。このことから需要の増加が伴わなくとも、2002年第3四半期の出荷台数は、対前年成長率では過去5期続いたマイナス成長に終止符を打ち、プラスに転じるものと予想されていた。

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日本国内のパソコン市場における出荷台数対前年成長率推移
出典:ガートナー データクエスト(2002年12月予測)

 実際には増加どころか、微減という非常に厳しい内容となってしまった。その結果、6期連続のマイナス成長と、ワースト記録を更新することになった。予測よりも低かったのは個人市場で、2けた増を期待していたところ、実際は前年並みの0.3%減という結果にとどまった。法人市場は6.2%減と個人市場よりも低いものの、この低迷は予測にすでに折り込み済みだ。むしろ、予測の10.2%減よりも良好な結果となっているほどである。しかし、数値結果が予測を上回っているにもかかわらず、法人市場では不景気の影響でクライアントPCの買い替え延期が以前に増して顕著となっており、やはり厳しい状況であるのは変わらない。

 その一方で、2002年末はTablet PCならびにホーム・サーバといった新しい用途、コンセプトを持った製品が登場し、2003年に向けた明るい材料として今後の動向が注目されている。以降、この2製品が2003年のパソコン市場に与える影響を検討してみよう。

Tablet PCは特定用途向けが中心に

 マイクロソフトの新OS「Windows XP Tablet PC Edition」が2002年11月6日に発表され、日本市場でも大手PCベンダが対応機種の出荷を開始した。現在出荷されている製品は、大きく分けて「ピュア・タブレット型」と「コンバーチブル型」の2種類がある(Tablet PCについては、「解説:Tablet PCは企業クライントの本流になれるのか?」を参照のこと)。ピュア・タブレット型はキーボードを搭載しないタイプで、コンバーチブル型は既存のノートPCとの同様の形状を採用しながらTablet PCに対応したタイプである。ピュア・タブレット型は、主にユーザーが立った姿勢でPCを使いたい、といった用途に向いている。これにより、これまでノートPCではカバーできなかった流通業などの特定業務市場を中心に新規の需要を見込むことができる。またマイクロソフトでは、日本におけるTablet PCのターゲット・ユーザーとして、彼らが「レビューアー(reviewer)」と呼ぶ企業内で書類チェックや報告書を評価する立場にある人々(主に中間管理職)や、編集作業、既存のモバイル・ノートPCユーザー、さらにこれまでキーボードに距離感のある一部の個人層などにも潜在需要があると考えているようだ。

ピュア・タブレット型とコンバーチブル型
左はピュア・タブレット型の富士通「FMV-STYLISTIC」。ドッキング・ステーションに接続することで省スペース・デスクトップPCとしても利用可能である。右はコンバーチブル型の東芝「Dynabook SS 3500」。キーボードが搭載されており、通常のノートPCとしても利用可能で、液晶ディスプレイを回転させることでTablet PCになる。

 このような新規需要が見込める製品が登場したことで、市場では、PCの需要に大きな影響を与えるのではないかと期待を寄せている。しかし、残念ながら日本国内におけるTablet PCの市場は、以下の理由により、現時点において立ち上がりのペースは遅く、2003年中においては限定的な出荷にとどまると考えられる。

  1. 新機能に対応した市販アプリケーションが、現時点でまだ出回っていない。

  2. 現在の第1世代製品では、ベンダ自身がフォーム・ファクタと用途について模索段階であり、多くの改善余地が残されている。例えば、現状製品はピュア・タブレット型でも1kg以上、コンバーチブル型では2kg近い重量である。ユーザーが立った姿勢で使用することを考えた場合、この重量では長時間の作業は困難だろう。

  3. 企業では、新製品の導入までに評価期間が必要である。タブレットPCはOS、ハードウェア、アプリケーション(用途)全てが新しく、これらに対する全体的なシステムとしての評価は、まだ一部の先進ユーザー企業で始まったばかりである。

  4. 同等仕様の通常のノートPCと比較して価格が高い。

 以上のような障壁などにより、ガートナー データクエストではTablet PCの初期導入ペースはゆっくりとした足取りになるものと見ている。これは世界市場全体でも同様の傾向になるだろう。そのため市場全体では、2003年には主に以下のユーザーが初期購入者となるだろう。

  1. 大企業:評価用もしくは小ロットによる試験的導入

  2. 特定業務市場:小ロットでの評価用が主体とみているが、既存のペンPCユーザーでは既存アプリケーションのサポートによって旧機種からの買い替え需要も考えられる

  3. エグセキュティブ・ジュエリー:企業のエグセキュティブがいち早く新製品を持つことで、対外的にユーザーや企業のイメージ・アップや、積極的にIT投資を行っていることのアピールするために購入するケース。これは主に海外であるが、日本においても一部の企業では、そういった導入が行われる可能性がある

  4. 熱狂的導入層:あらゆる新技術において常に存在する、興味ある技術をいち早く導入する層

 このように2003年時点でのTablet PCの利用は一部のユーザーの小規模な導入が中心となりそうだ。また、6〜9カ月の評価期間を終えた企業でも、多くの場合2003年中は様子見とし、本格導入は2004年以降となると見ている。従って2003年はTablet PCが市場全体のボリュームにおよぼす影響は、多くの人が予想しているとおり、極めて限定的なものになるだろう。

 日本では一部の製品が店頭で販売されているが、米国では企業向け販売にとどまっているため、海外からの大きな波及効果や新規参入ベンダの増加も、当面は期待できない。ガートナー データクエストでは、2003年おけるTablet PCの出荷台数は、最も可能性の高いケースとして世界市場全体で50万台以下と見ている。

AV機能を装備したホーム・サーバはホーム市場をけん引するか?

 インターネットの普及にともない、数年前からブロードバンド・ルータに簡易ファイル・サーバ機能を持たせたような製品が、「ホーム・サーバ」というコンセプトで発売されていた。一方で、2002年後半からNEC、富士通、ソニーが、デスクトップPCの付加機能として「サーバ」機能を実装した製品がラインアップされるようになってきた。こうしたサーバ機能を持つデスクトップPCは、すべてテレビ・チューナーを内蔵しているのが特徴であるが、個々にその用途をみると、メーカーごとに異なっている。

ホーム・サーバ機能を装備する富士通の「FMV-DESKPOWER C26WC/F」
液晶ディスプレイ一体型のLシリーズに加え、2003年1月15日には省スペース型のCシリーズにもホーム・サーバ機能搭載モデルが追加された。これで、Lシリーズと合わせて、2モデルにホーム・サーバ機能が展開されることになった。

 ソニーは、同社が得意とするAV機器を統合し、「ホーム・サーバ」と呼ぶよりも「AVサーバ」といった製品に仕上げている。一方NECは、ホーム・ネットワーク構築ツールの提供と「リモート・テレビ」機能により、ネットワークを介してサーバ側のテレビ映像を別のPCで視聴することを可能とし、富士通は無線LANアクセス・ポイントを内蔵し、他社製品に比べると家庭内のファイル/プリント・サーバとなることを意識したものとなっている。ただ、現時点ではこれら各社のホーム・サーバは、単に「ハイエンド・デスクトップPCの一形態」という認識にとどまっており、エンド・ユーザーにこうした新機能を訴求するまでにはいたっていない。メーカー自身は新たな用途提案をしているのであるが、最終的には店頭において製品的魅力としてユーザーにアピールしきれていないのが現実である。また、複数製品が一度に発表されたことによって、「ホーム・サーバ」という概念が市場に定着することが期待されたが、現実的には各製品とも「ホーム・サーバ」の概念や製品用途が異なるため、むしろユーザーの「ホーム・サーバ」に対するイメージは拡散されてしまっている。現状製品の内容とモデル数では、用途の定着・市場確立には不十分であると見ている。

買い替え需要は抑制傾向に

 2002年第3四半期末時点の予想では、法人市場において1999年にパソコンを大量に購入したボリューム・ユーザーが、2003年第3四半期から買い替えを始めるものと予想していた。これは、過去の需要期のサイクルと、企業での平均買い替え寿命に基づく推定であった。しかし、景気の下降傾向により、2003年度上期(4〜9月)のIT投資は抑えられる傾向にある。

 また、現在のパソコン市場にはハードウェアのアップグレードによる顕著な性能改善を示すソフトウェアが少なく、これがパソコンのライフサイクルの長期化の一因となっている。以前であれば、OSやアプリケーションがバージョンアップにともない、魅力的な機能が追加され、そういった機能がパソコンに高い性能を求めたことで、買い替えが促進されてきた。もちろん、現在でもネットワークの広帯域化や、それにともなう取り扱うデータ量の増大、バックエンド処理によるセキュリティ・チェックの必要性など、ハードウェアのアップグレードがユーザーの生産性向上に貢献する要素も多々ある。しかし、長期化する経済状況の悪化が、こうしたハードウェアのアップグレードに実利をともなうユーザーにさえ、買い替えの抑制へと向かわせているのが現状だ。

 その結果、2003年の需要としては無線LANの普及によってノートPCの導入が一部で行われることが予想されるほか、これ以上の先延ばしが難しくなったパソコンの買い替えが発生するにとどまるだろう。特に企業でのデスクトップPCについては、少なくとも2004年第1四半期(2004年度末)まで据え置かれる可能性が高い。仮に2003年後半以降、さらに日本経済が後退局面を迎えた場合、2003年に実行を織り込んでいる数少ない買い替え需要でさえ、より一層抑制されることも懸念される。

2003年の見通しは?

 現在、法人市場と個人市場の双方でパソコンのライフタイムの長期化が見られ、現時点で需要が抑制されている。2003年に期待していた買い替え潜在需要の始まりは遅れることになるだろう。そのため2002年12月の修正予測では、2003年の需要を3.2%増と低いレベルとしている。Tablet PCやホーム・サーバのように、2002年後半に登場した新たな分野の製品も、前述のように2003年時点で市場を底上げするほどの需要は期待できそうもない。

 今後の経済状況ならびに市場環境は不確定要素が多く、ワースト・ケース・シナリオでは、買い替え需要がさらに限定化し、2004年に先送りとなることも考えられる。その場合、2003年の需要は前年横ばいとなる可能性もある。反対にベスト・ケースとして、2002年上期に見られた日米景気の一時的な回復傾向および企業収益の改善傾向を反映し、2003年度上期の日本国内のIT関連設備投資が予想外に堅調になる可能性もまだ否定できない。2003年度から始まるIT投資減税によって需要が喚起されることも予想される。この場合、2003年第3四半期の企業における買い替え需要が一部のノートPCにとどまらず、大幅に実行されることで、2003年の出荷台数は5%以上の伸びを示す可能性もある。

 セグメントごとに時期、誘因は異なるが、2003年は企業・個人における買い替え需要の規模が市場全体の成長を大きく支配する年である。日本市場は、米国・欧州市場ほど市場飽和が進んでおらず、潜在的新規需要はまだ残されているが、2003年については経済状況と市場環境から、顕著な新規拡大が期待できない。ただ、古いパソコンやOSを使い続けることで、システム管理者側の負荷が増大する懸念もあることを考慮すべきである。システム・ベンダや販売チャネルにとっては、需要動向について各ユーザー環境を製品レベルで捉え、当座しのぎではない相応の戦略、提案、製品提供を行い、迅速な対応を図ることが、2003年の不確実性のリスクを最小に抑える、最大かつ最低限の手段となるだろう。少々後ろ向きな対策ではあるが、2003年のパソコン市場も厳しくなる可能性が高いことは認識しておいた方がよい。そして、厳しい経済環境下、システム価格はサプライヤー、ユーザー双方にとって最大関心事であるが、2003年の市場環境では、価格を下げるだけでは、少ない需要を奪い合うだけで市場規模拡大にはなり得ない。これまで価格と技術向上による需要牽引力に製品価値の多くを頼ってきたシステム・ベンダやチャネルは、自らも「市場主導型需要活性要因の欠如」という市場減速要因形成の一端を担っていることを認識する必要がある。記事の終わり

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