IT Market Trend第19回 新生日本HPのサーバ戦略を分析する 1. 日本HPの二極化戦略に対する懸念
ガートナー ジャパン株式会社 |
Hewlett-PackardによるCompaq Computerの買収話が飛び込んできたのは、2001年9月3日のことであった。両社の合併では、HP側の創業者一族が反対を表明した上、さまざまな憶測も飛び交ったことから、一時は合併自体が危ぶまれるといった懸念もあった。最終的には、米国本社同士は、2002年5月に無事合併を完了、日本法人(日本ヒューレット・パッカードとコンパックコンピュータ)も2002年11月1日に正式合併した。合併の前後には、さまざまな混乱が見られ、サーバ・ビジネスにおいてもその影響が大きく数字として現れた。それから3カ月が経過したいま、事態は少なくとも改善の方向に向かっているようだ。新生日本HPは何を目指すのか。日本HPの課題とは何か。合併により競争関係はどう変化するのだろうか。本稿では、新生日本HPのサーバ事業について分析する。 |
新生日本HPは何を伝えているか?
日本での合併完了後、日本HPから今後の方向性を示す、さまざまな発表がなされた。主な発表を表1にまとめる。
課題 | 施策 | 発表日 | |
UNIX | 新規市場の獲得既存顧客へのコミットメント | Mainframe Eliminationプログラム | 2003年1月23日 |
Alpha Server新製品 | 2003月1月21日 | ||
Itanium | PA-RISCからの移行 | Itanium 2(McKinley)搭載サーバを出荷 | 2002年7月09日(参考:合併前) |
Itaniumベース・ソリューション・センタの開設 | 2002年11月25日 | ||
Itanium 2 Server Early Access Program | 2003年1月28日 | ||
マイクロソフトとItanium 2搭載サーバによる64bit Windows Server 2003および64bitアプリケーションの共同検証を開始 | 2003年2月24日 | ||
IA-32(ハイエンド) | 信頼性向上 | Oracle9i RAC国内サポートの開始 | 2003年1月29日 |
クラスタ・システムの販売、サポート強化 | 2003年1月30日 | ||
IA-32(ボリューム) | デルコンピュータに対抗できる戦略の確立 | IAサーバの二極化戦略 | 2003年1月8日 |
ダイレクトリセラープログラム | 2003年2月6日 | ||
全般 | 総合インテグレータとしての実績、イメージ向上新たなフレームワークの確立 | hp Adaptive Infrastructureおよびhp Utility Data Centerの国内発表 | 2002年12月4日 |
パートナー関係の維持・強化 | NECとのグローバル展開に関する協業 | 2002年12月12日 | |
表1 日本HP合併前後の主な発表 |
合併後のサーバ製品のロードマップについては、2002年5月、米国本社の合併が完了した時点で明らかにされたが、現時点において大きな方向性は変わっていない。図1同社のサーバ製品の方向性を示す。
図1 HPサーバ製品の方向性 |
出典:ガートナー データクエスト(2003年2月) |
製品の方向性は以下のとおりである。
- 無停止型サーバ「NonStop Server」は2005年をめどに、プロセッサをItaniumに変更する。結果としてMIPSベースのサーバ開発は終了する。
- 旧コンパック系のUNIXサーバであるAlpha Serverに関しては、2005年をめどにAlphaプロセッサの開発を中止する。また、Alpha ServerのOSであるTru64 UNIXは、その主要機能の一部をhp-uxに段階的に取り込む。
- 旧HP系UNIXサーバであるHP Serverは、hp-uxにTru64 UNIXの機能を吸収しつつ、かつプロセッサをItaniumに全面的に移行する。結果としてPA-RISC系サーバの開発は2005年をめどに中止する方向である。ただし、市場動向によって変更される可能性もある。
- IAサーバに関しては、旧HP系IAサーバはブランドを廃止し、旧コンパック系IAサーバである「ProLiant」一本に絞る。
また、これらの製品群の課題は以下のとおりである。
- ボリューム:シェアの奪回と、デルコンピュータ対抗策の確立
- ハイエンド:Itaniumへの移行、新規市場の獲得
ここからは、この2つの課題について日本HPの戦略について見ていこう。
IAサーバの二極化戦略とは何か?
2003年1月、日本HPはIAサーバに関して「二極化戦略」を発表した。二極化戦略とは、IAサーバ市場を「ボリューム」と「バリュー」に分けて捉えるというものである。日本HPは、この発表において、「ProLiantの本体価格を最大で37%、主要オプションの価格を最大68%値下げする」とし、ボリューム市場にかける意気込みをアピールした。
日本HPは二極化戦略について、「製品群・販売方法・価格付けなどの差異を明確に区別することで、2つの大きなセグメントに分類し、販売機会を捉える」と説明した。具体的な製品面では、エントリ・モデルのProLiant 300、hp server tcおよびパッケージ製品では、価格面でユーザーからのプルを訴求することでシェアを追求、上位モデルのProLiant 500とProLiant 700ではバリューを訴求し、収益性を追求するというものである。
続く2月6日、日本HPは「ダイレクトリセラープログラム」を発表した。これは、Web販売であるhp directplusを基盤に、手のついていなかったSMB(Small and Medium Businesses:中小企業)市場を開拓するための新たな販売店の確保を狙うものである。この結果、日本HPのボリューム・サーバの販売方法は、直販(Webならびに日本HP直販営業)、間接(販売特約店、ダイレクト・リセラー)になった。
これら一連の発表の背景には何があるのだろうか。ボリューム面での答えは非常にシンプルであり、ひとえに「デル対抗」戦略である。デルコンピュータの徹底した価格戦略と直販モデルに対抗するための施策は、合併によるスケールメリットを狙う日本HPにとっては急務となっている。さらに、合併に伴い営業活動が混乱し、結果として市場シェアを大きく落としてしまったことも、この施策を何とか早期に軌道に載せたいという思いに拍車をかけているようだ。なお、2001年のIAサーバの出荷台数は、日本HPとコンパックを合算すると7万9318台でシェアは20.1%となり、NECの7万8865台のシェア20%と抜いてトップとなる。当初は、こうした合併効果によるスケールメリットが期待されていたわけだが、2002年は出荷台数が前年比34.3%減となり、その結果、シェアは14.8%に落ちてしまった。もちろん、合併前後の営業や販売チャネルの混乱が影響している部分もあると思われるが、こうした結果が早急な対策を必要としたのは間違いない。
日本HPは、サーバの値下げにより、価格面でデルコンピュータに対抗できるようになることを狙っている。一方、既存チャネルである販売特約店にとっては、値下げは利幅の減少を招くため、手放しで歓迎するわけにはいかない。間接販売が中心の日本HPにとって、値下げによってこれらのチャネルが離れることは避けたいが、デルコンピュータ対抗策としてはどうしても譲れない。日本HPは、ここまでシェアが落ち込んだことを契機に、これまでのパートナー関係が崩れる可能性があることは覚悟の上、このような値下げに踏み切ったものと考えられる。仮にこの値下げによって既存チャネルが離れていった場合でも、直販と新規ダイレクト・リセラーの強化によって、新たな販路を拡大することで、シェアの維持・拡大が可能であるというのが日本HPのシナリオと考えられる。
一方、バリュー面ではどうだろうか。日本HPは、二極化戦略発表の際に、「ProLiantソリューション・ブリッジ戦略」という名前で、ソリューションとサービスに関する強化について説明した。これまでも日本HPとコンパックは、それぞれハイエンドIAサーバにおいてソリューション提供を行っていたが、「ISVソリューションの最新事例などは、必ずしも横展開できていなかった」という。この反省に立ち、ソリューション・コアチームを中心として、ISV情報を販売店、直販営業、サービス部門へ徹底して提供する構えである。
さて、このような施策は、本当に効果があるだろうか。まず値下げについては、デルコンピュータの実績を見れば、それなりに有効なものとなる可能性はある。しかしながら、デルコンピュータの強味は、徹底した低価格戦略だけではない。インターネット(Web)を単なる販売の補助ツールとするだけでなく、eビジネスの基盤として、ユーザーの購買支援やサプライチェーン全般に活用しているところにもデルコンピュータの強味はあるのだ。
確かに今回の日本HPの施策は思い切ったものであるが、このような観点から考えた場合、「チャネルへの配慮か低価格か」というジレンマが日本HPの中から完全に払拭されたわけではない。このあたりのバランスの微妙さの中で、今後日本HPは、どう舵を調整していくだろうか。少なくとも、十分な整備がなされないまま急速に舵を切ることはむしろ命取りになる可能性もある。このあたりについては、今後引き続き注目すべきポイントとなるだろう。
ソリューションについては、二極化戦略の発表時点において「Citrix/Metaframeの事例の横展開」が中心であった。今後、どれだけ有効なISVソリューションを整備・蓄積できるか、さらに横展開のためのスキル継承をどこまでスムーズにできるかが、この成否のカギを握っているといえる。
次ページでは、日本HPのItanium戦略について解説する。
INDEX | ||
第19回 新生日本HPのサーバ戦略を分析する | ||
1.日本HPの二極化戦略に対する懸念 | ||
2.HPのItanium戦略と求められる役割 | ||
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