IT Market Trend

第19回 新生日本HPのサーバ戦略を分析する

2. HPのItanium戦略と求められる役割

ガートナー ジャパン株式会社
データクエスト アナリスト部門
エンタープライズ・システム担当シニアアナリスト

亦賀忠明
2003/03/04

Itanium時代にHPは競争優位性を確保できるか?

 過去、プロセッサは、サーバの差別化にとって重要な要素の1つであった。いまでもその重要性は変わりない。しかし、システム全体からすれば、ネットワークやストレージ、OS、ミドルウェアなど、システム・スタックは高度化し、レイヤもより多層化しているため、その位置付けは低くなりつつある。

 一方、サーバ市場では、ボリュームでIntelが圧倒的なシェアを持っており、そのスケールメリットにより、価格戦略でほかのRISCプロセッサ市場を脅かしている。このような背景のもと1990年台後半にHPは、PA-RISCの長期的な価格競争力、開発投資の増大が懸念されることから、ミッドレンジからハイエンド向けプロセッサをIntelベースのものにすることを決定した。64bitプロセッサに関して、Intelとの共同開発の道を選んだわけだ。しかし、その後、このプロセッサは度重なるリリース遅延が続いた結果、現在でもPA-RISCとAlphaプロセッサは、HPのサーバにとって重要な差別化要素となっている。しかし、これらは2005年にはItaniumに移行する。この結果、HPはUNIXサーバに関して、プロセッサの優位性は語ることができなくなってしまう。すべてのサーバ・ベンダがItaniumを使用できる状態において、HPの他社との差別化ポイントはどこにあるのだろうか。

 このことについてHPは当初、「Itaniumの共同開発者としてのアドバンテージ」と「PA-RISCからのマイグレーションの容易性」を掲げていたが、最近は前者の説明は一頃に比べトーンダウンしたようである。後者は現在も使用しているトークである。HPによれば、「パフォーマンスを要求しない、例えば管理ツールやI/O依存度が高いWebサーバなどは、PA-RISCベースのバイナリ・コードをItaniumでエミュレーションすることで対応できる。実際、hp-uxの管理コマンドなどはそれで動いているものも多い」とのことである。ただし、「多くの計算を要するテクニカル・アプリケーションなどのパフォーマンスを最大にするためには、少なくともリコンパイルは必要」と述べている。いずれにせよ、「ほかのUNIXに比べて、マイグレーションが簡単である」ということが売りである。

 これには、2つの意味がある。1つは投資保護を訴求することで、既存PA-RISCユーザーに対し安心感を与えるためのものである。もう1つは、新規ユーザーに対してのメッセージだ。「仮に現在のItaniumの導入に不安があり、RISCサーバを選択する場合でも、HPのサーバ(PA-RISC)ならば、将来的にも資産は保護される。逆にSun Microsystems(SPARC)やIBM(POWER)のRISCサーバを選ぶと、将来的なItaniumの価格性能の向上を考えれば必ずしも得策ではない」というのがHPの考え方である。

図2 ユーザー投資保護に対するHPの考え方(ガートナー データクエスト推定)
出典:ガートナー データクエスト(2003年2月)

 ここで、HPのメッセージがぼやけてみえるのは、「RISC」という観点からのSun MicrosystemsやIBMへの攻撃が、現在のPA-RISCの否定にも見えてしまう点にある。HPは、PA-RISCの開発をPA-8900で終了する予定であり、その後はItanium一本となる。しかし、まだItaniumが本格的にならない段階で、RISCを否定することは、現在のPA-RISCベースのサーバにも影響を与える可能性がある。しかし、HPのこのメッセージをよく読めば分かるとおり、これは「現在のRISC」に対する否定ではなく、「将来のRISC」に対してである。「HPのRISCであれば将来につながる。ほかのRISCは将来につながらない可能性がある」ということをHPは言いたいのだ。

 Itaniumの立ち上がりが穏やかなためか、RISCの将来性を懸念する声はあまり聞こえてこない。そのためHPは、Sun MicrosystemsやIBMとのRISC競争の中で、現在でもPA-RISCを強化する必要がある。実際、HP自身もPA-8900までは強化すると述べている。よって、現在のHPは、PA-RISCの強化を図りつつ、さらにItaniumも軌道に載せるという二重の努力が必要となっている。PA-RISCを推し進めるか、一気にItaniumへと移行するのか、このあたりについては、HPは市場の反応を伺いながら慎重にことを進めているように見える。いずれにせよ、HPがこのような不安定な状況を解決するためには、早期にItaniumを軌道に載せることが必要である。Itaniumが将来的に有利、という市場判断がなされれば、上述のHPの説明は初めてクリアになるからだ。

 さて、このようにHPのItaniumサーバの競争優位性について考えていた矢先に、その1つの答えがHPから出された。2003年2月18日、HPはチップセットとデュアル・コア・モジュールを2003年から2004年にかけて出荷すると発表した。主な内容は以下のとおり。

  • 2003年中旬:sx1000チップセットとItanium2(開発コード名:Madison)搭載のsuperdomeを投入
  • 2003年後半:sx1000+Madisonベースのミッドレンジ・サーバを投入
  • 2004年:Madisonをデュアル・プロセッサにするためのmx2デュアル・プロセッサ・モジュールを投入

 今回のHPの発表は、特に革新的な動きというわけではない。IAという共通のプロセッサを使用したサーバの差別化において、チップセットの強化は業界の定石であり、NEC、日立製作所、IBMなどもItaniumサーバ製品開発当初からチップセットを差別化ポイントとして捉えている。今回のHPの発表で特徴的なのは、デュアル・プロセッサ・モジュールである。同社のニュースリリースでは、「2個の次期Itanium 2プロセッサと32Mbytes 4次キャッシュを、現行Itanium 2のソケットとピン互換を保ち、単一ドータ・カード・モジュールに搭載したものである。これによりHPのItanium 2搭載サーバは搭載可能なプロセッサの数を倍増させることができる」と述べている。

 ここで、デュアル・プロセッサの方式には違いがあることを整理しておきたい。デュアル・プロセッサ構成は、1)デュアル・コア、2)HPのようにデュアル・プロセッサ・モジュールを使用する、という2種類に分類できる。デュアル・コアは、1チップ上に2つのプロセッサ・コアを実装するものであり、1つのチップで2プロセッサを動作することができる。この技術は、すでにIBMのPOWER4で採用されている(Sun Microsystemsも2003年下期にUltraSPARC IVでデュアル・コアを採用予定)。

図3 デュアル・プロセッサ方式の違い
出典:ガートナー データクエスト(2003年2月)

 一方Intelも、2005年に出荷予定の開発コード名「Montecito(モンテシト)」で呼ばれるItaniumプロセッサ・ファミリで、デュアル・コアを採用することを明らかにしている。HPは「デュアル・プロセッサ・モジュールにより最大128プロセッサを2004年時点で使用できる」としているが、この意味においては、HPには先行者としてのアドバンテージがあるとはいえるだろう。しかし、デュアル・プロセッサ化自体は、2005年にはキャッチアップされる可能性のある技術である。1年前倒しでこの製品を使いたい、というユーザーがどれだけいるだろうか。現在のところ、このあたりは未知数であるが、HPとしては、mx2を自社Itanium拡販の武器としたいところだろう。2005年には、すべてのベンダがデュアル・コア製品を使用可能になる。この意味では、デュアル・プロセッサ・モジュールにより、HPが差別化を訴求できる期間は2004年のみである。仮にHPがmx2による拡販を狙っているのであれば、HPは急速にItaniumのモメンタムを高める努力が必要であろう。仮に来年にもItaniumに関するモメンタムがいまのようであれば、せっかくの投資も、実際のビジネスはおろか、プロモーション効果に関しても、水泡と化す可能性もある。ここはHPの業界への説明能力がカギを握っているといえるだろう。

 今後想定されるシナリオは、mx2搭載サーバの具体的な性能の公開であろう。HPのItanium 2搭載サーバに対する当面の評価は、この結果次第で大きく変わるだろう。

Itaniumサーバ市場におけるHPに求められる役割とは?

 世界的に見た場合、Itaniumに対するベンダの取り組みはまちまちである。IBMはPOWERプロセッサをいまでも競争優位上重要な製品であると考えているし、Dell Computerはいまでもハイエンドよりボリューム・ビジネスにウェイトを置いている。結局世界的には、これらベンダがそれぞれの思惑により、いま一歩、Itaniumに力を入れていないことから、サーバ・ベンダではHPがItaniumのモメンタムを高める以外に道はない、といった状況なのである。

 一方、日本ではこのあたりの事情は世界とは異なる。NEC、日立製作所、三菱電機は、早い段階からItaniumを実際の製品として投入している。2003年1月には、富士通が2005年をめどに「メインフレーム・クラスのIAサーバ(Xeon, Itaniumベース)」を開発すると発表し、Itanium搭載サーバへのコミットメントを強めた。そういう意味では、日本市場の方が世界に比べてItaniumのモメンタムは形成しやすいように見える。このような地域的なアドバンテージをどう生かすことができるかが、日本市場の課題である。この中で新生日本HPの果たすべき役割は重要であるといえるだろう。HPが合併の効果として「エンタープライズ・システム・ベンダ」としてのリーダーを目指す、というのであれば、自らいかに振舞うべきか、ということについて再度真剣に考える必要があるのではないだろうか。Itaniumの先駆者的存在であるHPである。少なくとも「ときが解決する」、といった他力本願的な姿勢は通用しないことは、HP自身十分認識すべきだろう。

 Itaniumが名実ともにRISCを代替する次世代のプロセッサである、ということが市場に認識されるためには、Itaniumにまつわる性能や信頼性、アプリケーション、実績といったさまざまな懸念を確実に払拭していく努力がHPには求められるだろう。

Alpha Serverの行方

 HPとの合併合意が発表される2カ月半ほど前の2001年6月25日、CompaqはAlphaプロセッサの技術をIntelにライセンス供与すること、およびAlpha ServerへのItaniumの採用を明らかにした。またこの際、Alphaプロセッサの開発者の多くがIntelへ移籍することも明らかにされた。その後の合併合意以降、Tru64UNIXおよびAlpha Serverについても次第にその方向性が明らかにされ、最終的には、Alpha ServerはItanium/hp-uxへと統合されることが明確になった。

 Alpha Serverは性能の面で優れていると自他ともに認められているサーバである。特にここ数年は、HPC(High Performance Computing)の分野にフォーカスすることで、主にテクニカル・ユーザーの支持を得ていた。このサーバが事実上、次世代のItaniumサーバに吸収されることとなったのである。また、Alpha ServerのOSであるTru64UNIXのクラスタリング、ファイル・システムといった主要機能は、段階的にhp-uxに吸収される。一方で、Alphaプロセッサは2005年には、事実上の開発中止である(販売中止ではないことに注意)。

 このCompaq/HPの決定に対して、HPCのユーザーやAlphaプロセッサの高速性を支持していた関係者からは、これまで相当な非難や悲観論が上がったようだ。Alphaプロセッサの開発中止を明らかにした際のHPの説明は、「Alphaプロセッサの技術はItaniumに反映される」というものであった。このときの疑問は、Alphaプロセッサで培ってきた優位性は、どう次世代サーバに反映されるか、またこの発表がHPの優位性に与える影響はどうかという点であったが、その後もこの疑問に対する明確な答えは得られていない。

 実際のところ、技術はそれを開発した担当者が持つものである。たとえ、Alphaプロセッサの開発者がIntelへ移籍したとしても、まだまだ「Alpha ServerのDNAは次世代HPのサーバに引き継がれるのではないか」という期待は関係者の間でいまも残っている。せっかくの技術である。それがどう次世代機に吸収されたかを表明するのは、HPにとって、決して損な話ではないだろう。逆にいえば、このことを明らかにすることは、HPの次世代サーバの優位性を語る上で有効なものとなる可能性があるのである。今後、HPがどのような説明をするだろうか。このあたりについては引き続き注目していきたいところである。

Strength 表区切り Opportunity

・ 経験
・ PA-RISCからのマイグレーション・パス
・ チップセット
・ スケールメリット

・ 既存ユーザーのマイグレーション(PA-RISC/hp-ux、Alpha/Tru64 UNIX、OpenVMS、MIPS/NonStop)
・ 新規ユーザーの獲得(Sun Microsystems、IBM、メインフレーム、 IA-32)

表区切り
Weakness 表区切り Threat

・ Itaniumのユーザー実績
・ これまでの業界の評価、開発の遅延
・ 説明能力
・ 市場モメンタムの形成におけるリーダシップ

・ POWER
・ SPARC
・ 32bitプロセッサ(Intel Xeon)

表区切り
表2 HPのItaniumサーバ戦略分析
出典:ガートナー データクエスト(2003年2月)

日本HPはどういう状況にあるか?

 以上、日本HPのサーバ戦略について、IA-32サーバにおける二極化戦略、Itaniumという観点から見てきた。これらは必ずしも統一されたものとはなっていないため、一言で表すことは難しい。あえて、短くまとめるなら、「HPは過去と将来の狭間で揺れ動いている」といってよいだろう。

図4 新生HPに求められる要件
出典:ガートナー データクエスト(2003年2月)

 日本HPのシステム・ベンダ指向は、現在のPA-RISCベースのOEM関係にマイナスの影響を与える可能性がある。IA-32サーバでは、デルコンピュータに対抗できるような低価格化を推し進めようとしており、この結果、既存チャネル離れが懸念される。このあたりは、合併により規模の拡大を狙う日本HPにとっては、どうしても避けてはとおれない道なのかもしれない。日本HPは、このような規模拡大路線とパートナーとの関係への配慮という課題を抱えながら、PA-RISCからItaniumへの移行という製品面での大きなチャレンジも行わなければならないのである。逆にいえば、これらの方向性が明らかになり、かつ着実にこの方向性へ進むことができたならば、日本HPは名実ともに、「テクノロジ・リーダー」となることができるだろう。記事の終わり


 INDEX
  第19回 新生日本HPのサーバ戦略を分析する
    1.日本HPの二極化戦略に対する懸念
  2.HPのItanium戦略と求められる役割
 
「連載:IT Market Trend」


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